総合的な学習の時間で、子供の主体性を生かした課題設定とは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#14】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
総合的な学習の時間で、子供の主体性を生かした課題設定とは? 後編【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#14】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、中学校における総合的な学習の時間の、具体的な改善方法を中心にお話をしていただきます。

Q10 私は教師生活10年ほどの間、あまり総合的な学習の時間に力を入れてきていませんでした。しかし最近、その大切さを感じ、改めて単元づくりを学びたいと考えています。学校によって学年ごとにテーマが設定されていたり、学級ごとに自由に設定できたりと状況は異なりますが、その中で子供の主体性はどの程度生かして課題設定をすればよいのか、教師としてリードしてはいけないのかなど、単元づくりの基本を教えてください。(30代・中学校)

職場体験や修学旅行を活用し、「探究」に位置付ける

 質問されたのが中学校の先生ですから、近年、気になっている中学校の課題について少し触れておきたいと思います。

現在、高等学校では探究がトレンドになってきていて、かなり先生方が探究モードに転換し始めています。その大きな理由は、大学入試がそういう方向に向かってきていることや、学習指導要領にも総合的な学習の時間(以下、総合学習)だけでなく、他教科にも「~探究」が入ってきたように、全体として探究が前面に出てきていることが挙げられます。加えて、生徒たちも探究的な学習ができる世代であるため、そうした方向性が明確に見えてきているわけです。

一方、中学校では探究という意識がまだまだ十分ではない状況で、小・中・高等学校の中では、中学校にもう一踏ん張りがんばってほしいというのが現状でしょう。ただし、何もないまっさらな状態からつくり上げていくというのは大変です。ですから、今、中学校にあるものを使って探究をしていけば、どの学校でも、どの先生でも探究的な学習をつくっていくための近道になるのではないかと思います。

その具体的なものの一つが、職場体験です。現在、どの自治体でもキャリア教育ということで、だいたい中学2年の段階で、職場体験を行っています。それは特別活動として行っており、例えば兵庫県なら、「トライやる・ウィーク」という形で5日間、行ってきているわけです(資料参照)。職場体験は、中学生くらいの子供たちにとっては将来の職業を考える上で意味のある活動ですし、先生方も価値があると考えて取り組んでおられます。

(資料)兵庫県では、1998年度から社会体験活動として「トライやる・ウィーク」を実施。現在では、目的意識を明らかにする事前指導や、体験をその後の生活に生かすための事後指導を創意工夫することにより、探究的に学べるよう取り組んでいる(兵庫県教育委員会作成の協力企業・施設・地域等募集パンフレットの一部)。
(資料)兵庫県では、1998年度から社会体験活動として「トライやる・ウィーク」を実施。現在では、目的意識を明らかにする事前指導や、体験をその後の生活に生かすための事後指導を創意工夫することにより、探究的に学べるよう取り組んでいる(兵庫県教育委員会作成の協力企業・施設・地域等募集パンフレットの一部)。

それをただ3日間、あるいは5日間、職場に行って体験してきて終わりというのではもったいないと思います。仮に、職場体験が3日間なり5日間あるとすると、その前後にどんな学びを入れていくかを工夫していくのです。「自分たちの身の回りには多様な職業があるんだよな。どんな職業があるのかな」と探究した上で、職場体験に行くという方法もあるでしょう。あるいは、体験を終えた後に、それぞれの体験を踏まえて、「自分たちの身の回りには、今回、体験した以外にも本当に多様な仕事があるんだな。自分は将来、どんな仕事につけばよいだろうか」と、改めて探究していくような方法もあると思います。そのように、体験の前後に探究をすることで、より豊かな学びができると思います。それによって、体験をしたことがより深く将来の職業選択にもつながっていきますから、おそらくそれは中学校の先生にとっても、とても魅力的なことではないかと思います。

自由活動の1日を総合学習と連動させる

あるいは修学旅行をうまく利活用する方法があります。だいたい、2年生から3年生の前半にかけて修学旅行を行う学校が多いと思いますが、現在は、例えば2泊3日の修学旅行に行くとすると、真ん中の1日を自由活動にしている学校が多いと思います。その自由活動の1日を、「既存の交通機関を使って有名な観光施設を物見遊山で回って楽しかった」ということで終えてしまうのはもったいないでしょう。ですから、その1日を総合学習で探究していることと連動させるとよいと思います。

仮に京都に行くとすれば、京都で見られるものには「歴史的文化遺産」かもしれないし、「世界的観光地の経済活動」かもしれないし、先進的地域における「持続可能な環境問題」かもしれません。そうすると、例えば、その学校のある自治体が伝統的な町で、総合学習でも伝統文化について学習をしてきていれば、京都の伝統と関連付けて学んできたらよいでしょう。あるいは、環境に配慮した町づくりに力を入れている自治体であれば、SDGsという視点で京都の町づくりを調べてきてもよいでしょう。そこで、京都の取組について学んだ後で、再び自分たちの探究を深めていけばよいのです。

あるいは、広島や長崎に行くのであれば、「平和」といったテーマが出てくるかもしれませんし、東京に出てくる学校であれば、「大企業の取組」であるのかもしれません。いずれにしても、自分たちの探究したいことと結び付けたり、自分たちの自治体の特色と行き先の特色とを組み合わせたりすることができるでしょう。正直言って、「修学旅行の2泊3日、楽しく過ごしましょう」というような時代は終わっていると思います。貴重な学びの場ですから、このように探究の時間を設定していけばよいのです。

もちろん、2泊3日のすべての時間を探究的な学習の時間にしましょう、と言うつもりもありません。みんなで観光地に行く時間があってもよいし、観劇をしてもよいでしょう。しかし、例えば、2日目の生徒主体の活動であるところを総合学習の探究に位置付けるということはできると思います。

もしそのような時間を設定できるならば、「修学旅行のこの日のこの時間をどういうふうに動くか」と計画を立て、事前に交通機関の確認も行っていかなければなりません。誰かに会って話を聞くのであれば、事前にアポイントメントをとらなければならないし、何を聞くのかも綿密に考えておくことが必要になります。そうすると、前後の学習もかなり充実をしてくると思います。

そんなふうに考えて実践することは、きっと中学生くらいの子供たちにとってはワクワクするし、楽しいことではないかと思います。もちろん、修学旅行のすべてを探究的な学習として総合学習に位置付けるというのは現実的に無理なことですし、あってはならない不適切なことですが、一部を探究として総合学習に位置付けることは可能です。

ちなみに現在、修学旅行を受け入れている市町村の観光協会や観光課が、旅行会社とタイアップしながら、探究的な学習に活用可能な施設を紹介する資料やガイドを作成してきています。また、マスコミも探究のテキストやナビゲート資料を作成しています。少し探してみると、そうしたものもすぐに見付かるはずですので、うまく活用していけばよいと思います。

もちろん修学旅行だけでなく、例えば中学1年生での宿泊学習を活用して、その中の1日を同様に活用してもよいのです。いずれにしても、既存の取組を活用すると、実践する先生方のハードルが下がるし、子供たちにとっても魅力的な探究を行うことができ、学習の効果も高まるということです。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、6月1日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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