「自由進度学習」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、「自由進度学習」を導入する学校が増えてきています。自由進度学習が実践されるようになった背景から具体的な実践例、自由進度学習における課題を考えてみましょう。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴
目次
「自由進度学習」とは
中央教育審議会が2021年1月に出した答申、「令和の日本型学校教育の構築を目指して」で示された「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現する先行的な実践として注目されている学習スタイルの1つが自由進度学習です。自由進度学習は、教師が計画する学習内容のフレーム内で、子ども一人一人が課題を自己決定し、計画を立てて自分の学習速度で進め、その過程で友達と相互に作用しながら学びを深めていくことを目指したものです。
自由進度学習が注目されるようになった背景
これまでの授業の多くは、同じ内容を同じ方法で、そして同じ時間で学ぶスタイル、つまり一斉・画一的に行われていました。この形態は、一定の内容を効率よく伝達することができますが、子ども一人一人の学びへの興味・関心を十分に生かすことは難しく、結果として受け身の姿勢を助長することになってしまいます。
これでは、現行の学習指導要領で示されている、子ども一人一人の興味・関心や発達の状況等を踏まえてそれぞれの個性を伸ばし、資質・能力を高めていく教育は難しいということになります。その授業改善の方策の1つとして「自由進度学習」が取り上げられるようになりました。2022年4月に組織された、中央教育審議会の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を通じて、主体的・対話的で深い学びの実現を目指すための方策等の検討の中でこの学習スタイルも紹介され、話題となりました。
実践例
実践例の1つに、広島県の実証事業の指定を受け、「自立した学び手の育成」を目指して研究に取り組んだ廿日市市立宮園小学校があります。宮園小学校では、自由進度学習を「教師が作成した学習計画表に基づいて、児童が自分のペースで自分のやりたいところから学びを進めていく学習で、教師側からいえば、単元計画表を児童と共有するイメージ」と説明しています。
その実現のための必要な手立てとして3つのポイントが示されています。
①学習計画表の工夫:学習計画表には、全員が必ず取り組む学習と自分で決めて自由に取り組む学習を設定し、学習内容も選択できるようにする。
②個への支援の工夫:タブレット端末の自動採点機能や振り返りカードを活用して、個々の学習の進捗や定着の状況を把握する。子どもの自己表現を大切にしながらその結果を教師が把握して個別の支援に生かす。
③環境整備:子供一人一人の興味・関心、学習のスピード等に対応できる教材の準備や、実験や観察等の体験的な活動を繰り返しできるスペース、1人1台のタブレット端末を使いこなすデジタル環境などを整える。
単元内自由進度学習
自由進度学習の発想に基づく実践は、1980年代に既に行われていました。義務教育の在り方ワーキンググループの主査を務める奈須正裕氏は、「個別化・個性化教育の代表的な事例」として、愛知県東浦町立緒川小学校の1980~1990年代の実践とその効果検証の事例を挙げています。緒川小学校の「単元内自由進度学習」の実践は、単元の学習を子供が自立的に学んでいくことを目指しています。
教師は、学習のはじめに単元のねらい、時間数、標準的な学習の流れ、活用できる学習材や機会を提示します。子どもは、それらをもとに自分の興味や学習方法・スタイルに応じた学びをどう進めるか学習計画を立てて、個々に進めていくというものです。その過程では、同じ内容や方法を扱っている友達との交流、協働的な関わりも必要に応じて行われます。
単元内自由進度学習の流れは次のように整理されます。
①ガイダンス(単元全体の目標や流れなどの見通しを子どもがもつ段階)
②計画(教師が用意する「学習の手引き」を参考に、自分で計画を立てる段階)
③追究(問いに対して追究を進める段階)
④まとめ(学習内容と学習方法を振り返る段階)
このような流れで学習を子ども自身が進める上で大切なことは、学習計画の立案と、自らの学びをモニターし、行動をコントロールする自己調整だと言われています。
自由進度学習の今後の課題
自由進度学習は、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を図る学習スタイルとして一定の成果が認められていると言えます。しかし、校内の一部の教員や一部の学年だけが取り組むのでは、成果は期待できません。
自由進度学習によって子どもが身に付ける力を学校内で共有し、その推進の目標や具体化の手立てが教育課程にも示されて、実施、評価、改善されていく組織体制が不可欠です。自由進度学習に適している教科や領域等が検討され、他の教育活動との関連が図られることも重要です。その過程で教員一人一人の「児童理解」と「教材研究」が一層充実し、同時にICT利活用も含めた学習環境の整備が進められていく必要があるでしょう。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」平成27年
文部科学省(ウェブサイト)「義務教育の在り方ワーキンググループ(第2回)議事録」
文部科学省(PDF)「個別最適化された学びについて」上智大学 奈須正裕 令和2年
宗實直樹「社会科個別最適な学び授業デザイン理論編」明治図書出版、2023年
みんなの教育技術(ウェブサイト)「公立小学校における『自由進度学習』への挑戦」