GIGAスクール構想の現在地と教育DXに向けた取組【連続企画「教育DX」時代の学校マネジメント #04】

特集
「教育DX」時代の学校マネジメント

GIGAスクール構想の取組によって、1人1台端末の整備が急速に進み、従来の一斉授業による教育現場から大きく変化した。DXによる教育の変革について、文部科学省初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチームリーダーである武藤久慶氏に語ってもらった。

文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチームリーダー(併)修学支援・教材課長
武藤 久慶

2000年に文部省(現文部科学省)に入省。教育課程課や大臣官房総務課、在外研究(ハーバード大学教育大学院)などを経て、2010年に北海道教育委員会に出向。2014年教育制度改革室、2016年に外務省への出向、2019年に高等教育局企画官、2020年に大学入試改革実行プロジェクトチーム企画官、2021年に大臣官房総務課副長、2022年に初等中等教育局企画官などを経て、2022年6月から現職。2023年4月から修学支援・教材課長を兼務。

この記事は、連続企画「「教育DX」時代の学校マネジメント」の4回目です。記事一覧はこちら

GIGAスクール構想の現況と成果

文部科学省(以下、文科省)は、2019年を「GIGAスクール元年」とし、教育現場に1人1台端末を整備する「GIGAスクール構想」に取り組んできました。ただ、実際に多くの自治体で端末が頻繁に利活用され変化が訪れたのは、2022年度からが多いと感じています。

特に大きく変わってきた点は、教員の働き方です。学習者用の端末と指導者用の端末には、様々なクラウドツールが搭載されています。例えば、各種アンケートなどはすべて電子的に実施することで準備から回収、取りまとめまで一瞬のうちに終わらせることが可能です。

また、職員会議もクラウド上で行い、共同編集の機能やホワイトボードソフトのデジタル付箋を活用すれば、管理職だけでなく職員全体で意見を出し合い、議論を深めて結論を得ることができます。分掌の意思決定などは、クラウド上の共同編集機能を使って、ペーパーレスかつ非同期で、それぞれの空き時間に修正したりコメントしたりすることも可能です。効率的な校務処理が可能になった分、今まで校務に割かれていた時間を子供たちの指導やその準備に充てられるようになったことは非常に大きいと思います。

GIGAによって実現された複線的な授業展開

先行して取り組んでいる学校では、授業デザインも大きく転換されてきています。従来の一斉授業は、45分から50分の間、教員が教科書に基づいて子供たちに一方向に教え、すべての子供が同じ内容を同じペースで学んでいくという「単線型」の授業でした。しかし、ICTを活用することで自由進度学習のような考え方の「複線型」の授業や学習を展開している学校が徐々に出始めてきています。

「複線型」の授業は、教員の指導を受ける子もいれば、友達同士で学び合う子、あるいは個人で学習を進める子もいるといったように、同じ教室で複数の学びのスタイルが同時に展開される授業です。こうした学校では、子供たちが主体的に学べるよう本時や単元の構成、様々な教材や学習方法などがクラウド上で共有できるようになっています。

端末活用の日常化と地域差の解消に向けた伴走支援

GIGA端末の整備が全国的におおむね完了した今、多くの学校にとっての次なるフェーズは端末を「文房具のように使ってもらう」、日常的に利活用される状況を作っていくことです。その先に個別最適、協働的な学びの一体的充実が見えてきます。

昨年4月に実施された「全国学力・学習状況調査結果」で「1人1台端末を授業で活用している学校の割合(グラフ①)」を見ると青色が目立ち、「ほぼ毎日」、「週3回以上」活用している学校の割合が高くなっています。しかし、中には2割、3割しか到達していない自治体もあり、大きな地域差が生じています。

グラフ①「1人1台端末を授業で活用している学校の割合」

また、「自分で調べる場面でICT機器を使用している学校の割合(グラフ②)」だと、「ほぼ毎日」と回答した学校がぐんと減少し、「教職員と生徒がやりとりする場面でICT機器を使用している学校の割合(グラフ③)」では「週1回未満」という回答が目立ちます。

グラフ②「自分で調べる場面でICT機器を使用している学校の割合」
グラフ③「教職員と生徒がやりとりする場面でICT機器を使用している学校の割合」

さらに注目すべきなのは「1人1台端末を家庭で利用できるようにしている学校の割合(グラフ④)」です。「毎日持ち帰って」利用できるようにしている学校の割合は少なく、そもそも「持ち帰らせていない」「(臨時休業等の)非常時のみ持ち帰ることとしている」自治体がほとんどという状況です。

グラフ④「1人1台端末を家庭で利用できるようにしている学校の割合」

この調査結果から、端末の活用状況に大きな地域・学校間格差が生じていること、日常使いと言うほどにはフル活用されていないという実態が見えてきます。

しかし、ICTを活用することで、子供たちがよりよい環境で学習でき、教員も働きやすくなることは多くの事例が証明しています。ICTの利活用が捗々しくない自治体や、どう活用したらよいのか悩んでいる学校を少しでも減らしていけるよう、個別の課題に応じて徹底的に伴走支援を行うことが目下の課題です。

鉛筆のように端末も「文房具」として使ってもらうために

課題解決にあたって、現在文科省は特設ウェブサイト「StuDX Style(スタディーエックススタイル)」の運営や「学校DX戦略アドバイザー」といった取組を推進しています。

特設ウェブサイト「StuDX Style」
StuDX Style(スタディーエックス スタイル):文部科学省

学校DX戦略アドバイザー
学校DX戦略アドバイザー :学校DX戦略ポータル

GIGA StuDX 推進チームは、ICTの日常的活用に長けている14名の教員が集まっています。チームでは、どの地域どの学校どのOSでも実践できるような、「ICTの日常使い」の事例を、特設ウェブサイトでわかりやすく発信しています。また、活用の進んでいない自治体をはじめ、全ての都道府県等にチームのメンバーが連絡を取り、困っている点などをヒアリングし、その結果に基づいてオンライン研修を実施したり、場合によっては直接訪問したりしています。私も実際に足を運び、GIGAスクール構想の意義や目的、メリットなどをプレゼンさせていただいています。

また、学校DX戦略アドバイザー事業は、端末の活用に詳しい専門家はもちろん、ネットワーク分野の専門家やセキュリティ分野の専門家、特別支援の専門家と、その自治体・学校の困りごとに応じたアドバイザーを全額国費で派遣する事業です。

文科省としては、各自治体および学校に徹底的に伴走し、早急な課題解決および環境整備に努め、端末を文房具のように使ってもらえるフェーズへの到達をめざします。

「子供が主語」の教育を実現するために―教育DXの大目的

そもそも、なぜ今、学校DXひいては教育DXを推進しているのか。それは、「主体的・対話的で深い学び」、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を1人1台の端末とクラウド環境のもつ力を借りて、一体的に充実させるためです。

文部科学省では、論より証拠ということで、GIGA実践の様子として20分程度の動画「1人1台端末で学校が変わる!」をYouTubeで公開しており、多くの関係者から視聴いただいています。是非読者の皆さんにもご覧いただきたいと思います。
1人1台端末で学校が変わる!:文部科学省公式Youtubeチャンネル

こどもデータ連携の可能性

もちろん、子供たちの生活や心の機微など、一人一人の状況を把握して寄り添っていくことも大切な役割です。そのために、校務系のネットワークと学習系のネットワークをクラウド上で統合することによって、2つの分野データの統合的な分析および活用を推進していく予定です。

子供の心の変化にいち早く気付き、対策を打つ実践は広がっていますが、そういった情報が学習系ネットワークに蓄積されている一方で、校務系ネットワークには、出欠記録や保健室の利用状況などのデータが蓄積されています。2つのネットワークをセキュリティに十分配慮した上で統合し、子供たちに関わる様々な情報・データを教員が簡便に見られるようなダッシュボードがあれば、教員はより個別最適な指導や助言、ファシリテーションを実現できるようになると期待しています。そういった新しい教育システムをつくる実証実験を今年度から実施する予定です。

この間の関係者の努力で整備された環境を存分に生かし、端末およびクラウドをフル活用して教育現場を少しずつ変えていくことを、ここからの2年間で推進していきます。そして、その延長上に教育DXと呼ばれる、教育現場のパラダイムシフトがあると考えています。
GIGAスクール構想の下での校務DXについて~教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して~

2年後には次の学習指導要領の本格的な議論が始まりますが、この2年間で端末の日常使いを広く普及させ、ICT環境を大前提とした新たな教育課程につなげていきたいと考えています。

取材・文/鷲尾達哉(カラビナ)

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