AIを活用した授業支援システムで“個性最適”“協働最適”な学びを【連続企画「教育DX」時代の学校マネジメント #06】

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「教育DX」時代の学校マネジメント

1人1台端末時代が本格的に始まり、授業支援システムを活用した授業を行っている学校も多い。そんなシステムのひとつ「スクールタクト」は、専用のアプリなどをダウンロードしなくても、インターネット用のブラウザで動くため導入時のハードルが低く、小、中学校を中心に多くの学校で採用されている。システムの開発者で運営元である株式会社コードタクトの代表取締役、後藤正樹氏に開発の経緯や特徴について伺った。

株式会社コードタクト

株式会社コードタクト代表取締役の後藤正樹氏。AIを活用し、“個性最適”や“協働最適”な学びの実現をめざしている。

この記事は、連続企画「「教育DX」時代の学校マネジメント」の6回目です。記事一覧はこちら

インタラクションのある授業実現のために開発をスタート

公立の小、中学校を中心に、全国で2,000校以上、100万人以上のユーザーに活用されている授業支援クラウド「スクールタクト」。サービスの開発は、代表取締役の後藤正樹氏が始めた。

「かつて予備校で物理の講師を務めていたのですが、当時は先生がひたすら板書して、それを受験生がノートに写すスタイルが主流。あまりインタラクション(やりとり、交流)がない授業で、それを変えたいという思いがずっとありました。そんな中、2010年頃にiPadが発売され、それと同じ頃にウェブ上で共同編集が可能になるWebSocketという技術が生まれました。この2つを使えば学びを変えることができるのではないかと考え、今のサービスの原型となる学習管理システムを自分で作り始めたのです」

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択されて得た研究費なども活用しながら、2011年頃に完成。2015年には法人化し、完成後も改良を重ねたシステムを「スクールタクト」としてリリースした。コロナ禍でGIGAスクール構想が急激に進められたことも追い風となった。ちなみに、会社名やサービス名に使われている「タクト(指揮棒)」は、後藤氏がプロの指揮者としての顔を持つことにちなむ。

「指揮者というと、すべてを指揮する独断的で強いリーダーシップをイメージする人がいるかもしれませんが、本来は演奏者たちのやりたいことを感じ取って、彼らのパフォーマンスを最大化するのが指揮者の仕事。僕が指揮をするときにいつも心がけている、パフォーマンスの最大化を教育の現場でも実現したいと思っています」

文字入力の過程がリアルタイムで見える

授業支援ソフトは、スクールタクト以外にも複数社が開発しており、激しいシェア争いが繰り広げられている。課題の提出、一覧表示など、できることには共通点も多いが、開発のビジョンや機能の細部、あるいは画面デザインやレイアウトにはそれぞれの違いが表れる。

スクールタクトが特に重視している機能が、利用者がキャンバス上に文字を入力したり図表などを描いたりする様子が、リアルタイムで教員や児童生徒にも表示される仕組みだ。多くのソフトは文章を作成し、完成後に送信ボタンを押すことで初めて共有されるが、スクールタクトでは書き始めた段階からその過程を見ることができる。机間巡視をしなくても、児童生徒それぞれの理解度が瞬時にわかるので、必要に応じて個別に対応することが可能になる。

先生の画面からは、生徒一人一人の画面を確認。授業チャットでは、全員とメッセージやファイルのやりとりが可能。

「オンライン授業の場合、提出された成果物に対して、どれが正しいとか間違っているといった議論をしてしまいがちなのですが、我々はプロセスを共有することで対話を生んでいくことを重視しています。これは、リアルタイムで表示できるからこそ実現できること。おそらく他社製品にはない、スクールタクトだけの特徴的な機能です」

リアルタイム表示は、教師=子ども間だけでなく、設定を変えれば全員で共有することもできる。そのため、グループワークはもちろん、クラスメイトがどのような思考でその回答に至ったのかを知ったり、悩んでいる友達に教えてあげたりといった学び合い効果も期待できる。

さらに回答のページには、多くのSNSで使われている「いいね!」やコメントを残す機能もある。一斉授業のようなスタイルであっても孤独感は少なく、みんなで一緒に学んでいる感覚が生まれ、学習者のモチベーションアップが期待できる。ちなみに教員用の画面では、誰が誰に対して「いいね!」をしたか、コメントを残したかというログを図にして表示する「発言マップ」という機能がある。

「ログを見ることで、人間同士の関係性がわかります。『この子はみんなを褒めて授業を盛り上げてくれているな』とか『この子はいろんな人の意見を見て、吸収しているな』とか『この子は一人で頑張るタイプだな』といったことがわかるので、先生方からは子どもたちの知らなかった側面が見えたという声が多く聞かれます。授業を楽しんでいる子ども、不登校への注意が必要な子どももわかります」

画像左の発言マップでは、クラス内の関係図がひと目でわかる。画像右では、キャンバスの相互閲覧数がわかる。

AIによるテキスト分析で振り返りの質を向上させる

2023年夏頃からの導入を予定しているのは、AIによる振り返りテキスト分析だ。振り返りの重要性は認識されているものの、実際の現場では、ただの感想になっているケースも多い。スクールタクトでは、1998年にグラハム・ギブスが提唱した「リフレクティブサイクル」の理論をベースに、事実、感想、要因、仮説、結論の5観点に該当するテキストを抽出できる機能を実装する。

「高校で行った実証実験では、振り返りの観点が多数含まれた振り返りを先生が紹介するほか、生徒それぞれが自分の判定結果を参考に改善する姿も見られました。お互いに学び合いながら、振り返りのスキルが向上していったようです」

AIによるテキスト分析は、振り返りだけでなく、グループ学習の際のメンバー決めなどにも活用できるのではないかと後藤氏は語る。

「個別最適な学びがあるなら、協働最適な学びもあると思っており、どういう組み合わせで人が集まればより良い学びになるのか、またそれを実現するためのテクノロジーについて研究しています。文章の“意味の距離”のようなものをAIで判定して、それが遠い人、あるいは近い人とグルーピングすることで、協働最適な学びが実現できるのではないかと考えています」

そうしたグルーピングを教員が行う場合、教師が全員分の文章を読んで、考え方を理解した上で組み合わせていくのでは、かなり時間がかかってしまう。AIを使えば、その時間が短縮され、働き方改革にもつながるだろう。

様々な授業に対応するワークシートは約8,000種

すでに導入している学校現場での評判は、おおむね良好なようだ。一斉授業、探究学習、協働学習、反転授業など、様々な学び方のスタイルに対応でき、ホームページ上には授業での活用例が動画でアップされている。授業で活用できそうなワークシートは、社内の教材制作チームが作ったものに加えて全国の先生がボランティアでアップしたものもあり、約8,000種が使える。多くの単元を網羅し、そのまま、あるいは少しアレンジして使えるのは、ITが苦手な教員や経験が少ない新人にとって心強い。タングラムの教材では動かせる図形を指定できるなど、タブレットならではの特性を活かしたものになっている。

また、性格が内向的な子どもや、ゆっくり考えてから答えるタイプの子どもにとっては、タブレットなどを使った授業は相性がよい。従来型の授業では、発表することが得意な子どもの発言機会が多かったが、タブレットを使うことで、おとなしい子どもが活発に授業に関わる様子が見られるという声も数多く聞かれている。

課題テンプレートから学校内で使用する課題を作成・登録することができる。

“協働最適”や“個性最適”な学びにより少人数学級での授業も充実させたい

スクールタクトとしては、協働最適とともに、“個性最適”な学びも推進していく。

「“個別最適”な学びでは、例えば計算の問題がわからないとき、数値を1桁にするなど簡単にしてから解くというのがセオリーですが、“個性最適”の場合、学習者が好きなスポーツやアニメが登場するなど、学習者の個性に配慮した問題になります」

さらに、少子化など全国の現場ニーズに合わせた対応も検討していく予定だ。

「地方の単学級や少人数学級と都心部などの人数が多いクラスを接続した合同授業の提案を検討しています。スクールタクトを使えば、同じ場にいなくても『いいね!』やコメントができます。少人数の学校では、感想や意見が固定化してしまう傾向があるため、共に学ぶ人数を増やしたり、場合によってはAIを活用したりしてもいいと思っています。匿名モードにしておけば、AIが文章を書いてもわからない。そのような形で学び合いを活性化することで、少人数学級でも多様な意見に触れることができるようになります」

生徒の個性や魅力を引き出し、授業への参加意欲を高める。

フィロソフィーなきDX化への懸念

一方で、近年の学校現場でのDX化において不安を感じる部分もあると、後藤氏は指摘する。学校のDX化を進めるにあたって、EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)に目を向ける必要が出てくるが、日本では、フィロソフィー(哲学、理念)なく進めているケースが多いのではないかと後藤氏は言う。

「熊本大学で教育哲学を研究する苫野一徳氏とも話しているのですが、本来であれば望ましい姿があり、そのためのエビデンスであるはずなのに、フィロソフィーなきエビデンスになっているのではないかとの懸念があります。この状態で進めると、子どもたちを管理する形になってしまいかねない。子どもたちが使えるサイトを制限したり、進路を早期分別して、子どもの選択肢や可能性を狭めるようなことは、教育DXのめざすべき方向ではないはずです。このような教育を目指すためにこのテクノロジーを使うのだという明確なフィロソフィーを社会全体で共有する必要があります」

テクノロジーで教育の変革をめざす後藤氏に、教育現場に立つ先生方へメッセージをもらった。

「スクールタクトは、『学びとマナビが、ひびき合う。』というキャッチコピーを掲げているのですが、先生から知識をインプットされたとき、子どもたちは多様な感想や印象を受けます。キャッチコピーの中の「学び」「マナビ」に漢字・ひらがな・カタカナが入っているのは、子どもたちの学びの多様性を表現しています。お互いの対話を通して理解し、響き合うことができれば、1+1を2よりも大きくすることができるはず。個性最適や協働最適を意識した授業を行ってほしいと思います」

取材・文/安部晃司

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