いじめ【わかる!教育ニュース#24】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第24回のテーマは「いじめ」です。
目次
2022年に人権擁護機関で救済手続きを始めた人権侵犯7859件のうち、学校でのいじめが1047件
「人権」は、誰もが生まれながらにもっている権利です。生まれた国や性別、人種にかかわらず、自由に考え、行動し、その人らしく生きることが、誰にも認められています。その権利を侵す行為の一つが、いじめです。
2022年に法務省の人権擁護機関で救済手続きを始めた人権侵犯7859件のうち、学校でのいじめが1047件あることが、同省のまとめで分かりました(参照データ)。全体の13.3%を占め、前年と比べてほぼ横ばい。とはいえ、少ないわけではありません。「プライバシー侵害」の18.6%、「労働権関係」の14.5%に次ぐ多さです。
救済に動いた件数はここ数年、徐々に減っていました。とりわけ、20年は新型コロナウイルス禍の影響で激減。他人と接触する機会が減ったのに加え、端緒になる人権相談の窓口の周知が進まなかったためです。ただ、全体の件数は減っても、いじめの割合は10%を切っていません。
近年、いじめの割合は10%台で推移しています。19年には19.1%に上り、ワースト1位に。コロナ禍で休校が多く、ワースト4位となった20年でも、全体の11.7%を占めていました。
全国各地の法務局などには、人権を守る取組を担う部署があり、窓口や電話、インターネットを通じて相談を受け付けています。事実関係を調べ、人権が侵されたと判断した場合に、救済に動きます。対応は7種。当事者間の関係を取りもつ「調整」や、刑事訴訟法に基づく「告発」などがあります。
学校と保護者の信頼関係の弱さが窺える例も
法務省は救済例も紹介していて、学校関連のものもいくつかあります。
例えば、学校で同級生に吃音をからかわれて不登校になった小学生の保護者の相談を基に調べたケース。担任の教員は被害者から何度も相談を受けたのに校長に報告せず、学校全体で対応できないまま、いじめが続いていたと分かりました。法務局がとった対応は「要請」。学校に、いじめ被害防止の取組を促しました。
学校と保護者の信頼関係の弱さが窺える例もありました。悪口や下校時の待ち伏せなどのいじめを受けた中学生の保護者の相談で調べたところ、学校はいじめの訴えがあるごとに調査していたと分かりました。ただ、それが被害者や保護者にきちんと伝わっていない可能性があり、法務局が話し合いの場を設け、関係の修復を図る「調整」を講じました。この保護者には「学校はいじめを隠そうとしているのでは」という不信感もあったかもしれません。
いじめで人権を脅かされるのは被害者だけではありません。関わりを避ける人、傍観しかできない人、相談されて悩む人など様々。加害者や周囲であおる人も、何か鬱屈を抱えているかもしれません。その誰もが「自由に考え、行動し、その人らしく生きる」とは真逆の状態です。いじめをなくすことは、多くの人の人権を守ることになるのではないでしょうか。
参照データ
▽法務省人権擁護局
https://www.moj.go.jp/content/001393246.pdf
【わかる! 教育ニュース】次回は、5月15日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子