ほめ方、𠮟り方について教えてください(前編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#9】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学
ほめ方、𠮟り方について教えてください(前編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#9】

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、子供のほめ方、叱り方をどうしたらよいか考えている先生のご質問に対して「快答」していただきます。

Q 昨年度、同じ学年を組んでいた先生はとても厳しい方で、授業中によく隣の教室から子供を叱る(怒る?)大きな声が響いていました。そのたびに、「ああ、あんなに厳しく叱らなくてもいいのに。私はなるべく子供たちをほめて育てたい」と思っていました。ただ、子供たちを成長させるには叱ることが必要な場面もあると思います。そこで、子供たちを伸ばしていくための、ほめ方、叱り方について教えてください。(20代・小学校)

プロセスをほめ、尺度を決めてから叱る

 ほめ方、叱り方について考えるためには、まず、なぜほめたり叱ったりするのかについて考えることが必要でしょう。我々が教育を行う過程で、なぜ子供たちをほめたり叱ったりするのでしょうか? それは、子供たちに期待する行動や行為を安定的、持続的にしてほしいと願うからでしょう。例えば、「誰とでも仲良くする」というような、期待する好ましい行動がいつでもできたほうがよいし、その先もずっと継続的にできたほうがよいのです。そのために、ほめたり、叱ったりするわけですよね。

そのように、子供も含めた私たちの行為がより安定的で持続的なものになるにはポイントが2点あると思います。それは自覚と実感です。

まず一つには、自分のどういう振る舞いや行為が適切で望ましいのかということを、本人が自覚していなければおそらく再現はできないわけです。「いろんな人と仲良くできていたよね」と自分自身が気付いて分かっていなければ、持続的に再現はできないわけです。もう一つは実感ですが、(望ましいと考えられている)行為を行ったときに、楽しかった、嬉しかった、気持ちがよかった、心地よかったなどの、快適な状態だという手応えをつかめることが重要です。

つまり期待される、望ましい行動をしたことを子供自身が自覚し、そこに好ましい手応えが付与されると、そういう望ましい行為をまたしてみようとか、もっとやってみたいという態度化が生まれてくるのだと思います。多分、私たちはそれを期待して、子供たちをほめたり、(それとは逆の行為に対して)叱ったりしているのではないでしょうか。

そう考えると、ほめることは大事だし、時には叱ることも必要なのだけれど、基本的には自分の行為が自覚でき、そこに手応えを付与したいわけですから、ほめられるほうが子供にとってよいだろうと考えられます。ですから、第一優先としては、まずほめることを増やしましょうということになるわけです。

時には叱ることも必要だが、子供が自覚と実感をもてるよう、まずはほめることを増やしていきたい。

その上で、具体的にどのようにほめたらよいかを考えてみましょう。

最初に、自覚と実感という原理にのっとって考えてみると、まずほめるときには具体的であることが大事だと思います。子供自身が何をほめられているのか分かるということです。自分の行為のどういうところが期待されているのか、自覚できるからこそ再現も可能になるわけです。先生はほめているのだけれど、本人は何をほめられているのか分からなければ、自覚できないし、実感ももてません。それでは再現はできないですよね。

次に、結果や成果(プロダクト)よりも過程(プロセス)をほめることが大事だと思います。できた、できないよりも、そこに至る過程で、子供が繰り返し取り組んだとか、自ら挑戦し続けているという過程を評価してほめることが大事だと思います。もちろん、最終的な結果もほめたほうがよいと思いますが、途中にある取組や行為をほめてあげることができると、教師にとってもほめる対象が広がりますし、何よりも子供にとっても最終的な結果だけではないものが価値として見いだせると思います。一生懸命がんばってもできないことはありますし、実際に「毎日チャレンジしたけれど、逆上がりはできなかった」という子供だっているでしょう。そうすると、できた、できないの判断だけでほめたのでは、余りにも表面的で薄っぺらなものになってしまいます。ですから、過程をほめることが大事になってくるわけです。

加えてもう一つ、ほめるときに良し悪しでほめるのではなく、教師としてとても嬉しいというように気持ちを付随させるほめ方がよいだろうと思います。善悪を判断するのではなく、「そんなふうにがんばってきたことは、とてもすてきだよね」とか、「何度も失敗したけれど諦めずに挑戦していて、かっこいいと思ったよ」というようなほめられ方をしたほうが、「あなたのやったことは正しいよ」とほめられるよりも、子供たちは嬉しいはずだと思います。とりわけ子供たちを日々見続けていて、信頼もあるはずの先生から、そのようにほめられたほうが、嬉しくて「また、がんばろう」という気持ちになるのではないでしょうか。

叱るべきことが明確になったら、毅然と叱ることが必要

ここから少し叱ることについてお話をしていきましょう。まず叱るに少し似ていると思われている行為、怒ると叱るの違いですが、怒るは感情で、叱るはもう少し冷静な状態で不適切さを指摘するということになると思います。子供に対し、怒るという感情に支配された形で接すると、受け手の側も感情的になりやすく、受け止めがたいのではないでしょうか。ですから、教育上は怒るのではなく、叱ることが必須です。

ただし教師も人間ですから、子供の行為を見ていて怒りの感情が湧いたり、怒りたくなったりすることはあると思います。それは大人同士でもあることですから、当然のことでしょう。それだけに、教師がそのような感情と適切に付き合うことが重要だと思います。つまり、教育上必要なのは叱ることなのですが、瞬間的に怒りの感情が込み上げることがあるので、その時に大事なのは少しだけ時間を置くことです。子供が問題のある行動をしたのを見て、思わずパッと言葉が出そうになったときにそれを止め、もう一度飲み込んで考えてから叱るということです。

とはいえ、絶対に許されない行為というのはあると思いますし、それについては間髪入れずに叱るということになります。その時に、子供たちと接するときの階層のようなものをもっていると行動が安定するでしょう。例えば、一般的には命に関わることや人権に関わることは最重要で叱るべき行為と考える先生が多いと思いますが、そこが年度当初に決めてあれば、そのような行為があったときにためらわずに叱れますし、そうでない場合は、「一瞬間を置いて」「少し冷静になって」考えて行動することができると思います。

そういう階層あるいは尺度のようなものが決めてあると、即座にきちんと指導すべきことが明確になる上、指示してもきちんと並べないとか、靴が揃っていないとか、2日続けて忘れ物をするとかなどは、「そこまで厳しく言うことでもないかな」というように、許容できる範囲が広がってくるはずです。そうすると、先生自身も対応する上で気持ちが楽になってくるのではないでしょうか。逆に、(先生自身や学校の)教育的な価値や重点を踏まえた階層や優先順位などが明確に整理されていないと、枝葉のような細かなことまでが気になり始めるのだと思います。だからこそ、自身の価値観の整理を踏まえた優先順位をまず決めておくということが重要です。

叱るべきことが明確になったら、どう叱るかということになりますが、やはり毅然と叱ることが必要だと思います。いけないこと、修正すべきことに対しては指導をきちんとしなければなりませんから、「それはダメだよ~」と緩い顔をしてはいけないと思います。

加えて、子供自身が何がいけないのか理由が分かることが重要です。良くない行動をとった子供自身が、何で叱られているのか分からなければ意味がありません。ですから、要点を押さえて端的に叱ることが大切だと思います。

さらに言えば、子供自身に改善の方向性が見えることが大事です。例えば、友達にひどいことを言って嫌な思いをさせたということがあったら、「ああ、言い方が悪かったんだな」「次はこんな言い方をしないように気を付けよう」と思えることが大事だし、ふざけていて走り回り、人にぶつかって倒してしまったとしたら、「怪我をさせるようなことをしてしまい、悪いことをしたな」「狭い場所で走らないようにしよう」というように、改善の方向性が見えることが大事です。

そこから、よりよい行為に転換してほしいわけですから、やはりダラダラと長時間叱っても(子供は思考停止してしまって)意味がありません。ですから、「先生は良くないと思っているんだよ」との思いを伝え、何がいけなかったか、どうすればよいか、子供と一緒に考えるなどして、次の方向性が見えるようにしていくことが大事だと思います。

今回は、ほめ方、叱り方の基本的な考え方について「快答」していただきました。次回はもう少し教育的な広がりを考えた、ほめ方、叱り方のテクニックなどについてお話をしていただきます。

【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#10】は、こちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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