遠足を成功させるカギは下見の徹底
遠足の成功は、念入りな下見の準備にかかっていると言っても過言ではありません。遠足を安全に、スムーズに遂行するためには、気を付けるべきポイントがたくさんあります。しっかり準備をして、楽しく意義のある遠足にしましょう!
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
1.下見までにやっておくこと
秋の遠足の下見は夏休み中に行けるので、余裕があります。一方、春の遠足の下見に行くのは、年度はじめです。校務分掌や学級開きのやることが多く、とても忙しい時期です。そこで、遠足の下見に行く前に「下見の準備」をしておくと、効率よく下見ができます。
効率よく下見をするための大切な準備は、次の5つです。
❶他の学年が以前に行ったときの、しおりと実施報告書をコピーする。
以前のしおりや実施報告書は、下見に一緒に行く先生方の人数分を印刷して渡しておきます。実施報告書の備考欄には、次回に向けての反省点や改善点が書いてあるので読んでおきます。
❷電車やバスなどの交通費や、施設の入館料などを電話で確認する。
実施報告書の備考欄には、交通費も書いてあります。駅に電話する手間が省けます。
❸施設には事前に、下見の日時を電話でお願いする。
施設を利用する場合は、下見の日に営業しているか、ホームページや電話で確認しておきます。遠足日と定休日が重なっていたらすぐに、遠足日を変更します。施設によっては、下見も事前に申し込みしないと入れないことがあります。
❹電車やバスなどを降りてから目的地までの行き方を地図で調べる。
目的地までの行き方の地図や、活動場所での地図を事前に調べておきます。そして、地図を印刷して一緒に下見に行く先生方に渡しておきます。もし、学年団でスマホのLINEグループを作っていたら、地図のアドレスを送ることもできます。
❺勤務校の住所、電話番号、FAX番号、校長先生の名前をスマホの電話帳に入れる。
下見のとき、施設や電車の団体申し込みで、学校の「住所」「電話番号」や「校長先生の名前」を書くことがあります。スマホの電話帳に入れておくと、すぐに書くことができます。
人気の科学館や博物館などは、新年度できるだけ早くに、電話やFAXで予約をしておくことをおすすめします。予約が遅れるほど、どんどん空いている日時がなくなっていきます。
2.特別支援担当の先生と確認すること
障害者手帳を持っている子どもは、障害者手帳の級によって、電車代やバス代、施設の利用料の割引があります。そこで、遠足の下見までに、特別支援担当の先生に次の確認をしておきます。
- 障害者手帳を持っている子どもはいるか。
- 障害者手帳を持っているなら、何級か。
- 障害者手帳を使うか。
★障害者手帳を持っていても、「他の子どもと同じ料金がいいです」「手帳を持たすのが不安です」などの理由で、敢えて使わせない保護者もいますので、注意しましょう。
遠足当日や下見に行く特別支援担当の先生は誰かを、特別支援の主任や教務主任の先生に確認しておくことも必要です。
授業をしない支援サポーターの方が引率で行く場合、交通機関や施設の申し込み方法が違うことがあります。支援サポーターの方は、団体申し込みでなく、個人で交通費などを支払ってもらう自治体があるからです(もちろん、その後、かかった費用が返金されます)。
また、特別支援担当の先生は遠足の下見と当日の両方行くのか、それとも当日だけ行くのかも確認しておきます。この確認をしないで下見に行ってしまうと、電車や施設の申し込みをするときに、引率者の人数が食い違ってしまいます。また、再度申し込みをしないといけなくなり、二度手間になってしまいます。
3.下見中に決めておくべきこと
遠足関連の仕事は下見中に終わらせるのが理想です。そうすることで、学校に戻ったら、遠足以外の仕事をする時間が生まれます。「遠足の下見中に何をするか」をあらかじめ確認しておきましょう。
次は、下見中にやっておくことの一例です。
- 学校から目的地までかかった時間の確認。
- 電車やバスの交通費などのお金を持ったり、支払いをしたりする先生は誰か。
- 電車に乗る場合、何両目に乗ったらいいか。
- バスに乗る場合、バスが来るまで子どもを待たせておくスペースはあるか。
- 車椅子を使う子どもがいる場合、駅や施設のエレベーターはどこにあるか。
- どこでトイレ休憩をとるか。便器はいくつあるか。
- お弁当をどこで食べるか(暑いかもしれないので、日陰がある方がいい)。また、近くにトイレはあるか。
- お弁当を食べ終わったときの遊び道具(大縄やドッジビーなど)を持って行くか。持って行くなら、誰が持つか。
- 施設を利用する場合、活動の開始時刻と集合時刻はどうするか。集合場所はどこにするか。先生方には、施設のどこに立ってもらうか。
- グループ活動をさせるか、させないか。
- 先頭で歩く先生は誰か。
- お弁当を食べる前に諸注意をする先生は誰か。
- 学校の救急セットを持つ先生は誰か。
- 学校に帰るために目的地を出発する時刻。
- しおりや実施計画書、実施報告書を誰が作るか。
グループワークには細心の注意を
私の場合、一番、時間をかけて相方の先生と話し合うのが、10の「グループ活動をさせるか、させないか」です。
遠足のグループ活動は、高学年なら林間・臨海学習や修学旅行に向けた練習になります。グループ活動は、一斉に引率するよりも教師の目が届きにくく、子どものトラブルに気づきにくいものです。特に、グループ活動で屋外でのフィールドワークをさせると、交通事故や迷子の危険が大きくなります。集団行動が苦手な子どもがたくさんいる学年の場合、春でなく秋の遠足でグループ活動をさせた方が無難かもしれません。
先頭になるクラスは交代する
意外と見落としがちなのは、11の「先頭で歩く先生は誰か」についての確認です。
学年主任の先生のクラス(1組)がずっと先頭で歩くと、「1組ばっかり先頭でずるい!」と、他のクラスの子どもから不満が出ることがあります。特に、高学年で反抗的な子どもが多いと、不満が出やすくなります。そこで、「行きは1組が先頭、目的地内は2組、帰りは3組が先頭」のように、先頭になるクラスを交代します。
学年主任以外の先生も話す機会をつくる
12の「お弁当を食べる前に諸注意をする先生は誰か」についても同じです。
学校を出発する前や、施設内、お弁当を食べる前、学校に戻ってからなどのタイミングで、先生が子どもたちに話をします。
学年主任の先生(1組)が全ての機会で話をすると、2組や3組のクラスの子どもたちが「私のクラスの先生は何も話さないな。1組の先生が偉いのかな」と思ってしまうかもしれません。
そうならないように、学年主任の先生ばかりでなく、他のクラスの担任にも全体の前で話す機会をつくります。1人の先生に仕事が偏らない工夫にもなりますし、若手の先生の成長の機会にもなります。学級経営、学年経営で大切な配慮かと思います。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ