教師の心と体を守るために管理職や自治体ができること

平成30年版「過労死等防止対策白書」によると、教職員の80.7%は業務に関連するストレスや悩みを抱えているといいます。特に最近、現場で目立つのは何らかの悩みを抱えている若手教員とベテラン教員の存在です。彼らに対し、学校として、管理職として、自治体として、どんなサポートができるでしょうか。

提言/兵庫教育大学大学院教授・藤原忠雄

兵庫教育大学大学院教授・藤原忠雄

藤原忠雄(ふじわら・ただお)●公立高等学校教諭、教育センター指導主事等を経て2012年4月より現職。専門は学校教育相談、学校心理学。日本ストレスマネジメント学会常任理事、日本学校メンタルヘルス学会理事。著書に『学校で使える5つのリラクセーション技法』(ほんの森出版、2006年)がある。

ストレス反応を軽減するには

教員が気持ちよく働けるようにするために、どんな学校をつくっていけばよいのかを考えてみたいと思います。資料1をご覧ください。これは幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の教員のストレス反応軽減効果についての分析結果です。○は「効果あり」と断言できるレベルです。×は効果がないわけではなく、「効果はあるが断言できるレベルではない」ことを意味します。これを見ると上司、同僚からのサポートを受けると、ストレス反応が軽減することがわかります。性別ごとに見ると、ストレス反応の軽減に上司及び同僚からのサポートが有効だという傾向は男性よりも女性のほうが顕著です。

【資料1】各サポートのストレス反応軽減効果(直接効果)

                                 (○:効果あり)
出典:藤原忠雄(2014)、教師ストレスへの支援の在り方に関する基礎的研究(学位論文)
クリックすると別ウィンドウで開きます。

このように管理職からのサポートで、すべてのストレス反応が軽減しますが、その一方で、教師のバーンアウト(資料2をご覧ください)へつながるストレッサー経験を調べてみますと、小学校でも中学校でも、管理職は必ず挙がってきます。実際に、校長の心ない一言がきっかけで教員がバーンアウトして休職してしまったケースは珍しくありません。

【資料2】

教師のバーンアウト(教師の燃え尽き症候群)

「教師が理想を抱き、真面目に仕事に専心するなかで、学校での様々なストレスにさらされた結果、自分でも気づかぬうちに消耗し極度の疲弊をきたすに至った状態」

出典:「『教師』崩壊 バーンアウト症候群克服のために」(新井肇著、すずさわ書店、1999年)

つまり、管理職は素晴らしいサポーターになりえますが、一歩間違えると、バーンアウトの原因にもなり、その教員の人生を狂わせてしまうこともあるのです。それだけ管理職の影響は大きいということを自覚しておいていただきたいと思います。

だからこそ、管理職には縦の支援としてラインケアをお願いしたいと思います。ただし、ラインケアといわれても、具体的に何をしたらいいのか、ご存知ない方もいらっしゃるのではないかと思います。資料3をご覧ください。これは小学校・中学校の校長・教頭に対して一般の教員がどのようなケアを求めているかについて調査を行い、そのエッセンスをまとめたものです。一般の教員は、4つの支援を管理職に求めていることがわかりました。

【資料3】

ラインケア(井上博之ら、2009)

①擁護的支援:事故や突発的な問題発生などの緊急時における外部対応や連携を積極的に行ったり、教師の問題解決に向けた努力を認め相談に乗り協働したり、教師を護り問題解決を促進させる。

②人間関係支援:職員間の人間関係で困っている場合、その理解や助言を行ったり、協力体制を整えたりする。

③親和的支援:日頃から見守りや声掛けを行ったり、アドバイスや情報提供を行ったり、親身になって援助を行う。

④私的支援:個人的な心配事や不安に対する理解を示し助言を行う。

出典:日本ストレスマネジメント学会第8回大会プログラム・抄録集 pp.59-60

擁護的支援は、「何かあったら責任は私が取る」と言ってくれたり、対応が難しい保護者の家庭訪問には同行してくれたりしてほしい、ということです。教員一人を矢面に立たせず、守られている感覚を与えてくれるような支援をしてくれる管理職が求められています。人間関係支援は、職員室の人間関係がギスギスしているときに、見て見ぬふりをせずに関係調整をしてほしい、ということです。親和的支援は、日常的な支援として管理職のほうから、声かけをしたり、アドバイスをしたりしてほしい、ということです。教員は家庭人でもありますから、育児・家事・介護など、プライベートで大変な時期もあります。私的支援は、そのことに理解を示し、労いの言葉や助言がほしい、ということです。

一般の教員はこのような支援を望んでいます。よく見ていただくとわかるように、これらの支援を無意識に行っている管理職は全国に数多くいらっしゃると思います。決して特別なことを求めているわけではないことを知っていただきたいと思います。

また、横の支援として、同僚からのサポートも必要です。学校における同僚性は、これまで十分には研究がなされてこなかった分野なのですが、最新の研究結果をご紹介します。同僚との良い関係、快適な職場風土を醸成するための8つの視点があることがわかっています。資料4をご覧ください。8つの視点とは、共感性、互助性、快適性、節度性、真摯性、連携性、建設性、進歩性であり、これらを意識して教員集団づくりをしていけばいいということです。

【資料4】

小学校教師の同僚性に関する8つの視点(西永円ら、2018)

①共感性:お互いを共感的に理解しようとする。

②互助性:必要な時、お互いに助け合おうとする。

③快適性:笑いや喜びが共有できる居心地の良さがある。

④節度性:馴れ合いではなく、適切な距離感が保たれている。

⑤真摯性:個々が責任感をもち、仕事に誠実に取り組む。

⑥連携性:情報共有をし、共通理解の下に協力し合う。

⑦建設性:様々な意見を全体で共有できる。

⑧進歩性:理想を追求し、高まり合おうとする。

出典:日本ストレスマネジメント学会第17回大会プログラム抄録集 p.45

結局、縦と横の良好な人間関係が必要であり、それらがうまく機能している職場ではストレスが軽減するのです。

ただ、教員のバーンアウトを予防するには、管理職や同僚からのサポートなど、職場での情緒的支援のほかに、自己効力感が必要であることもわかっています。自己効力感とは、自分が教師として機能できると確信をもてている状況を意味します。資料5をご覧ください。小学校の場合は児童理解と指導援助での自己効力感です。児童を理解できることと、児童を指導援助できるという確信がもてている教員はバーンアウトしにくいということです。中学校の場合は生徒理解と協働的問題解決での自己効力感です。中学校では生徒の気持ちを理解できることと、協働的に問題解決できるという確信がもてている教員はバーンアウトしにくいということです。

【資料5】

バーンアウト予防につながる主な緩衝要因

共 通:情緒的支援の「職場」

小学校:自己効力感の「児童理解」と「指導援助」

中学校:自己効力感の「協働的問題解決」と「生徒理解」

出典:藤原忠雄(2014)、教師ストレスへの支援の在り方に関する基礎的研究(学位論文)

これらを踏まえ、管理職は研修権を保障し、自己効力感を高めることができるように研修を充実させる必要があるのです。

〈参考文献〉
1)村上正人, 松野俊夫, 中村延江, 葛西浩史, 桂戴作:健常人のストレス状態に関する研究─ストレスによる症状のあらわれ方とその対策について─. 心身医療1(1):72-82, 1989.
2)折津政江, 村上正人, 桂戴作:人間ドックにおけるストレス感とストレス. 健康医学5(1):115-118, 1990.
3)今津芳恵, 村上正人, 小林恵, 松野俊夫, 椎原康史, 石原慶子, 城佳子, 児玉昌久: Public Health Research Foundation ストレスチェックリスト・ショートフォームの作成─信頼性・妥当性の検討─. 心身医学 46(4):301-308, 2006.

取材・文/林孝美

『総合教育技術』2019年10月号より

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!

学校経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました