色覚特性をもつ子供も見やすいユニバーサルデザインのカラーチョーク

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子供たちから「黒板の文字が見えない」と言われたことは、ありますか?通常使われているチョークの色は、色覚に障害のある子供には、区別がつきにくいケースもあります。色覚に配慮して開発され、カラーユニバーサルデザインの認証を受けた「ダストレスeyeチョーク」について、日本理化学工業株式会社代表取締役社長の大山隆久さんにお話をうかがいました。

教室画像

色のバリアフリー、様々な色覚特性に対応したチョークとは?

先生方は日頃から、「子どもたちに伝わりやすく、わかりやすい板書」を工夫していらっしゃることと思います。 板書は子供たちにとって、授業の内容を整理して理解し、考えるために、とても大切です。そのため、黒板に書いた文字が「子供たちに、見えていなかった」としたら、子供たちにとっても、先生にとっても、大きな問題です。

日本理化学工業株式会社で開発した「ダストレスeyeチョーク」は、色覚に対応したチョークです。色覚に障害のある人も、白、黄、緑、赤、青の色の区別がついて見やすく、多色に対応しているのが特徴。色覚に配慮して開発された商品として、カラーユニバーサルデザインの認証を受けました。

色覚に配慮したチョークは、なぜ必要?

「色覚」は、色を感じとり見分ける力で、人によって違いがあります。色覚に異常があると、赤色が青色や灰色に見えたりするのだそうです。そのような色覚特性をもつ子供は、黒板に色分けされたチョークの文字の、色の違いを認識することが難しいのです。

色覚には多様性があり、色の見え方の傾向で分けると5つのグループに分けられます。「ダストレスeyeチョーク」は、より多くの人に見やすいチョークにするために、色覚特性の5つのグループのうち、一般的な色覚であるC型および、色覚特性の対象者のほとんどを占めるD型とP型に対応できるように開発されました。D型とP型は、色の見え方の傾向が似ています。

C型の人の見え方
上:ダストレスeyeチョーク
下:通常のチョーク

P型の人の見え方
上:ダストレスeyeチョーク
下:通常のチョーク

D型の人の見え方
上:ダストレスeyeチョーク
下:通常のチョーク

5つの色覚特性とは・・

光の三原色(赤・緑・青)のどの色を感じることができるかによって、5つの型に分けられます。
・C型:一般的な色覚。赤・緑・青の、光の三原色全てを感じる。
・P型:赤い光を感じる錐体が無いか、あるいは分光感度がずれている。
・D型:緑の光を感じる錐体が無いか、あるいは分光感度がずれている。
・T型:青い光を主に感じる錐体が無い。
・A型:3原色のうち1色だけ感じられる。

色覚チョークの開発は、教育現場の変化がきっかけ

教室画像

2000年ごろに学校の先生方から、「学校で色覚検査をしなくなるらしい」と教えていただいたことが、チョークを開発するきっかけになりました。 色覚検査の削除が検討されていて、2003年3月に、文部科学省は学校保健法施行規則の定期健康診断の必須項目から、色覚検査を削除したのです。(しかしその後、2016年4月に色覚検査は原則再開されました。)

色覚異常は、男性の20人に1人(5%)、女性の500人に1人(0.2%)という割合で存在するといわれています。 色覚検査が行われなくなると、子供たちは色覚に障害があったとしても、それを知らないまま成長してしまう可能性があり、とても大きな問題だと考えました。

チョークを作っている企業としてできることは、色覚検査が無くなったとしても、障害の有無に影響されない学習環境を整えることだと考えて、開発にとりかかることに。

板書の見やすさ、わかりやすさは、子供たちの学習意欲にも関わるので、とても大切なことです。「より多くの人にとって見やすいチョーク」の開発は必要なことでした。

コントラスト、明るさ、鮮やかさを工夫し、見やすくする

チョークを開発するときには、色覚に対応し、さらに我が社が求めてきた品質の高さにも対応するものを目指しました。「ダストレスeyeチョーク」は、黄、緑、赤、青の、多色のバランスに配慮しています。色の明るさや鮮やかさに差をつけて、識別しやすくしています。

チョーク開発について、日本理化学工業株式会社には80年の歴史があります。消したときに粉の飛散が少ない「ダストレスチョーク」シリーズを開発し、このシリーズは現在も改良を重ねています。白色のチョークは、色覚の違いに対応するために、黒板に書いたときのコントラストを高める改良もしてきました。

しかし、本格的に色覚の違いに対応したチョークを開発しようとすると、私たちには知識がないことに気づき、どのように開発するのかを、考えることからはじめました。

開発の工程で一番時間をかけたのは、最もよい原料の配合を見つけることです。見やすさ、書きやすさ、消しやすさなど、我が社で設定している基準とも照らし合わせて検証し、何度も改良を重ねます。

開発には、東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤啓先生の協力を得て、色覚についての知識、商品コンセプト、商品開発テストの方法などを相談しながら進めました。当時、伊藤先生はNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の創設に尽力していたこともあり、カラーユニバーサルデザイン機構の方々にも協力していただいて、開発を進められたことは幸運なことでした。

このようにして完成した「ダストレスeyeチョーク」は、2004年に発売されました。

色覚への理解は、子供たちの学習環境を改善する

発売してみると、それまで色覚に対応したチョークがなかったため、「色覚(色の見え方)の多様性は、子どもたちにとっての課題だ」という問題意識が、学校や自治体によって大きく異なることがわかりました。

2018年には、国会の衆議院でカラーユニバーサルデザインや「色覚チョーク」について議論されたことがニュースになり、多くの方に興味をもっていただきました。

教育現場だけではなく、社会全体で、子供たちの色覚や学習環境について考え、改善していこうとしている動きは、とても心強く感じます。 長い時間をかけてチョークを届けている、という実感があります。

見やすい、書きやすい、消える!板書のポイント

商品画像

チョークは、学校で使う場面が圧倒的に多いのですが、さまざまな商品を通して、チョークで書く楽しさを感じていただきたいと思っています。 「書きやすい」「見やすい」「きれいに消える」板書の3つのポイントをご紹介します。

1 新しい黒板は、白いチョークでならす

新品の黒板を使用するときには、まず白いチョークでならします。「ならす」とは、 白いチョークで黒板全体に書いてから、すぐに黒板消しで消すことです。 このようにすることで、新品の黒板の表面にある凹凸が、チョークの粉で埋まり、文字を書くときにチョークが黒板に引っかからず、書きやすくなります。

2 チョークは安定するように持つ

チョークの持ち方は、人差し指が上にくるように持ちます。黒板にチョークを当てたときに、力が入りやすくなり、しっかりと力を込めて文字を書くことができます。

3 消すときは、黒板消しを同じ方向に動かす

チョークを消すときには、上から下へ、上から下へ、と黒板消しを同じ方向に動かします。きれいに消すことができて、新たに文字を書いたときに、文字が見やすくなります。

先生たちが子供たちのために、日々工夫している授業や板書が、しっかりと子供たちに届くように、私たちの開発したチョークが役立てられると、とてもうれしいです。

取材・文/みんなの教育技術編集部

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