リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #31 「一枚画像」から道徳を問う|守 康幸 先生(宮城教育大学附属中学校)

特集
中学校の記事 まとめました
連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

北海道公立小学校教諭

藤原友和

子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。今週は守 康幸先生のご執筆でお届けします。

執筆/宮城教育大学附属中学校教諭・守 康幸
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

こんにちは。仙台市にある宮城教育大学附属中学校の教員をしております、守康幸と申します。
光栄なことに「一枚画像道徳」執筆のお声がけをいただき、今回実践をご紹介させていただくことになりました。

私は社会科の教員です。藤原友和先生らが出版された『オリジナル地域教材でつくる 「本気!」の道徳授業』(小学館)から刺激を受けて、私も地域教材で執筆しようと考えました。
しかし、現在の勤務校には学区がないため、生徒の居住地や保護者の出身地なども様々で、生徒たちが「地元」と呼べる共通認識が薄いという現実を実感しながら日々の授業を実践しています。

そのような中で、勤務校での「総合学習」の生徒の学びや、その実施にあたって生徒がもれなくお世話になった山形県鶴岡市・温海(あつみ)地域の皆さんとの関わりに実践のヒントを見いだしました。
生徒にとっては本当の「地元」ではないのですが、「身の周りにある何気ないもの」の写真を使って授業ができたらなぁと願って写真を選び、「道徳の授業」を考えたのでした。
とはいえ、校務分掌の関係で学級担任を離れて何年も経ちます。そこで、同僚の知恵も借りながらたどり着いたのが、授業で取り入れている「問い作り」を活用し、同僚の担当する他学年で実験的に1枚の写真から「道徳っぽい問い作り」を行い、よさそうなものに手を加えて教材化しようという試みでした。

本連載の本来のテーマと若干ずれているかもしれませんが、皆さんの「明日の授業に生きる!」ことを願いながら、「中学生は1枚の写真にどのような『道徳』を見出すのか」という教員としての好奇心とともに、問い作りのプロセスを取り上げます。

2 「一枚画像道徳 問い作り」の実践例

今回、問い作りの素材としたのは、以下の写真です。

Ⓒ冨樫シゲトモ

この写真の撮影場所は、山形県鶴岡市・旧温海町にある鼠ヶ関(ねずがせき)。山形県を人の横顔に見立てると、ちょうど「鼻の頭」にあたります。

生徒は、写り込んでいる灯台から、「総合学習」という宿泊行事の調査研究活動で訪れた鼠ヶ関の写真であることに気付きます。
そして、自分たちが知っている穏やかできれいな海とまったく違う様相であることを指摘します。

SUP(スタンドアップ・パドルボード)に乗っているのが総合学習の受け入れを担当していただいたNPO法人のキャプテン・冨樫さんです。
この写真は、2022年8月の大雨で、森からたくさんの流木などの自然物が流れ込んだ翌日、冨樫さんをはじめ現地の方々が海岸の清掃をしているときの様子です。
「この写真から『道徳っぽい問い』を作りましよう。」と指示し、ざっくばらんにアイデアを発言させた後、次のように問います。

発問1 国語の問いと、道徳の問いでは、どのような違いがありますか。

国語は文章の中での言葉を根拠にして考えるイメージで、道徳は自分の体験や経験と結び付けて考える感じがする。
国語は登場人物の心情を追っていく感じで、道徳は「自分がどう思うか」を掘り下げていくイメージ。
道徳は生き方を考えるイメージ。

(注)今回の実験授業は共同で実践に取り組んでいる国語科の教員が行いました。

生徒が考える「道徳」について自由に発言させた後、学習指導要領の存在について話し、生徒に分かりやすいように「道徳の “テーマ”」として、道徳のすべての内容項目を紹介しました。資料として内容項目の一覧を配布した上で、次のように投げかけます。

発問2 改めて、「道徳っぽい問い」を作るとしたらこの写真から、どのような問いが作れますか。(指示:「つながりがありそうな道徳のテーマを示して問いを作りましょう。」)

改めて「道徳っぽい」問いを作り、それぞれの解釈で内容項目と結び付けるよう促します。そして出来上がった問いは、Googleフォームに入力させました。
約90の問いのうち、数が多かった内容項目は以下の通りです(今回は複数の設定を可としました)。

① A-1 自主、自律、自由と責任(31)
② B-7・8 思いやり、感謝(13)
③ D-22 よりよく生きる喜び(10)
④ C-14 社会参画、公共の精神、勤労、D-21 感動、畏敬の念(9)
⑥ D-20 自然愛護(8)

 生徒が作った問いをいくつか紹介します。

このような活動をしている人がいることを知って、自分にできることは?(A-1・2)
もし、あなたがこの写真の撮影者だったら、どのような思いでこの写真を撮りますか。(B-9)
この写真を見る前と後で、自然に関する関心に変化はありましたか。(D-20)
地域をよくしようとする原動力はどこから来るのだろうか。(A-5、C-17)
地域を守ろうと動く人々は自然災害とどのような気持ちで向き合っているのだろう。(A-5)
この人物(冨樫さん)が台風の後掃除をしていたとしたら、あなたはどのような行動をとろうと思いますか。(B-9、D-20、D-21)

(生徒の作った問いをテキストマイニングしたもの。筆者作成)

当初は、C-14(社会参画、公共の精神、勤労)やC-17( 国・郷土の伝統と文化の尊重、国・郷土を愛する態度)、D-20(自然愛護)あたりを念頭において授業を構想しました。
A-1・2(自主、自律、自由と責任)やB-7・8(思いやり、感謝)あたりは、質は別として、中学生が「道徳の問い」として考えやすいと言えそうです。

3 実際の授業とつなげるには

私ならどのような問いを作るだろう…。中学生の思考をたどった後に、本稿と別に準備をしていた原稿を見返しました。

発問1:40年前と比べて、流れ着く流木の量が増えているそうです。なぜだろう。
発問2:「自然と共に生きる」とはどのような生活だと考えますか。

社会科の問いと何が違うのだろうかということを改めて考えます。
中学校社会科 地理的分野の「社会的事象の地理的な見方・考え方」とは、「社会的事象を、位置や空間的な広がりに着目して捉え、地域の環境条件や地域間の結び付きなどの地域という枠組みの中で、人間の営みと関連付けること」です。
社会科と道徳科、それぞれの基軸となる社会的事象や人間としての生き方を念頭に置きながら、問いを整理していくことの大切さを再認識させられる取組となりました。

また、藤原先生のご著書や本連載第8回で郡司竜平先生が指摘されているように、「同じ記号体系」の重要さも改めて実感しました。
前述のように学区がなく、生活の中の同じ記号体系が認識しにくい本校の生徒たちにとって、「ご当地」イメージの範囲は家の近くなのか、それとも市町村規模でも機能するのか……。体験や他者との対話を通した学びを重視するのであれば、このようなことへの配慮も欠かせません。あえて隣県の「身の周りにある何気ないもの」を教材に用いたのもこのためです。

この構想の実践は本稿の提出後になります。
先に紹介した生徒の作った問いの中で、「この人物(冨樫さん)が台風の後掃除をしていたとしたら、あなたはどのような行動をとろうと思いますか。」という問いを入口として、生徒がどのように振る舞うかをシミュレートさせながら、その背景を掘り下げていく授業を考えています。
今回の取組で改めて見えてきた「中学生が捉えている道徳」や「中学生が持っている道徳性」をうまく取り込みながら授業づくりを進めていきたいと思います。

4 おわりに

最後に、本稿であえて問い作りの実践を取りあげた理由をもう一つご紹介します。
それは、私自身が「協同的な授業づくり」を大切にしたいと考えていることです。

今回の取組では、一つの写真を基に、教員と生徒とで問いを作りながら「道徳」の授業について考えました。
教員や大人が考えていることを所与として教えるだけでなく、児童や生徒が考えていることや見えている社会像を、対話を通して深めていけるような授業が増えたらいいなと思っています。

そのために、「一枚画像」をきっかけとして、今回の実践のような取組を、教員と生徒、そして教員間で気軽にやってみてはいかがでしょうか。
大がかりな教員研修の場を設けなくとも、手軽なやりとりを積み重ね、教員の同僚性を高めることは教材研究や授業づくりにおいて有効な手段です。
本稿が、ご自身の専門性や、学びの価値について、改めて見つめなおすきっかけになれば幸いです。

【参考文献】
1 藤原友和・駒井康弘編、函館・青森授業づくりの会著 『オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業』 2022 小学館
2 奈須正裕 『「資質・能力」と学びのメカニズム』 2017 東洋館出版社
3 井澤友郭/著、吉岡太郞/監修 『「問う力」が最強の思考ツールである』 2020 フォレスト出版

今後の連載予定
第32回 飯村友和(千葉県・八千代市立高津小学校)
第33回 紺野 悟(埼玉県・戸田市立戸田第一小学校)
第34回 鈴木優太(宮城県・公立小学校)
第35回 肥後漱一郎(埼玉県・戸田市立笹目東小学校)
第36回 吉川裕子(京都府・立命館小学校)
第37回 永井健太(大阪府・大阪市立明治小学校)
第38回 櫻井里佳(北海道・旭川市立知新小学校)
第39回 有我良介(北海道・函館市立桔梗小学校)
第40回 山崎克洋(神奈川県・小田原市立足柄小学校)
第41回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。

<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来
第17回 百年の桜
第18回 わんこそば
第19回 みんなの場所で
第20回 美しい建物の街~弘前
第21回 1枚で3通りの活用 ~西郷瀞のブランコ~
第22回 外国の靴屋さん
第23回 象には絶対に乗らない
第24回 誰かの便利は、誰かの不便
第25回 美しさの見つけ方
第26回 祇園の夜桜
第27回 私たちにできること
第28回 テニスボールに込められた思い
第29回 学びの「値段」
第30回 東日本大震災

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
特集
中学校の記事 まとめました
連載
リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました