「サードプレイス教育コミュニティ」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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1989年に提唱された、「第三の場」を意味するサードプレイス。近年、地域教育の場として「サードプレイス教育コミュニティ」が増えてきています。なぜ注目されているのか、その特徴や背景を考えていきましょう。

執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム

サードプレイスとは

サードプレイスとは、アメリカの都市社会学者であるレイ・オルデンバーグが1989年に提唱した「家庭でも職場でもない過ごしやすい第三の場所」を指す概念です。彼の著書『サードプレイスーコミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』の中でも、サードプレイスの特徴や条件、様々なメリットが述べられています。また、サードプレイスとは、利害関係がなく、自分らしくいられるコミュニティの中でリラックスすることが目的です。

サードプレイスを決めるうえで、オルデンバーグはこのように条件を定義しています。

・中立の領域:特定の個人や団体、政治組織や宗教組織に属していない場所。
人を平等にする:個人の社会における地位に重きをおかない。
会話が主な活動:遊び心や楽しい会話が活動のメインフォーカスである。
利便性がある:オープンで皆が訪れやすい環境。
控えめな態度・姿勢:健全で、無駄遣いや派手さはなく家庭的な雰囲気。

レイ・オルデンバーグ 著/忠平美幸 訳『サードプレイス-コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書店、2013年

サードプレイスは中立の領域に存在し、差別をなくして社会的平等の状態にします。また、会話がおもな活動であるとともに、人柄や個性を披露し、理解するための重要な手段としています。サードプレイスは、根本的には家とは違う環境ですが、精神的な心地よさと支えを与える点が、良い家庭と酷似しています。

サードプレイスのメリット

オルデンバーグは、サードプレイスに定期的に通い、そこでの社交を大切にすることで、様々なメリットを得られるとしています。誰もが平等に扱われ、友人に会って尊重する会話をすることで、社交や会話の技量が培われ、発揮されていきます。

また、本質的に得られる見返りとして以下の4つを挙げています。

目新しさ(産業化され、都市化され、官僚化された社会に目立って不足しているもの)
人生観(または健全な心の持ちよう)
心の強壮剤(またはサードプレイスを訪れることによる日常的な元気回復)
友達集団(または一人ずつではなく大勢と定期的に友達づきあいすることの利点)

レイ・オルデンバーグ 著/忠平美幸 訳『サードプレイス-コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書店、2013年

サードプレイスでの大きな利点の一つとして、日常的な交友関係が確約されることが挙げられます。友人がより多く集まると、個別で会うときには味わえない高揚感が一人一人の心に生じ、人びとの自尊心に良い効果をもたらすとしています。家や学校、職場のほか、さまざまな価値観を持つ人と交流することでリフレッシュができ、新しい刺激を得ることができます。

また、集団が大きければ大きいほど、付き合いは社交的になり、相手を受け入れているという感覚が高まります。一方で個々の感情的な要求は少なくなることも判明しています。

教育におけるサードプレイス

近年、教育や子育ての場でもサードプレイスの必要性が認識されるようになってきており、地域とのつながりや学ぶ機会の再構築が政府によって推し進められています。

文部科学省は、「地域における家庭教育支援基盤構築事業」により、家庭教育に関する学習や相談ができる体制を整え、社会全体で家庭を支えられるよう2019年度から取組を開始しました。

また、地域と学校が連携して、子どもたちの成長を支え、地域を創成する「地域学校協働活動」や、保護者や地域住民が学校運営に参画する仕組みであるコミュニティ・スクールを全国的に推進しています。2021年度の調査では、コミュニティ・スクールの数は11,856校とここ数年で飛躍的に増え続けています。導入が進んでいくとともに、コミュニティ・スクールの推進員やコンサルタントの派遣をするなどの施策も進められています。

新・放課後子ども総合プラン

2018年9月には、2019年度から5年間を対象とした「新・放課後子ども総合プラン」を文部科学省と厚生労働省の共同で方針を決定。内容としては、全ての児童が放課後を安心・安全に過ごし、様々な体験・活動ができるよう新たに放課後児童クラブや放課後子供教室を整備するというものです。このプランでは、2023年度末までに約30万人の受け皿整備と1万か所以上で実施していくことを目標としています。

神奈川県相模原市にある「子どもの育ち応援団」や兵庫県神戸市にある「東灘こどもカフェ」は、日本のサードプレイス教育コミュニティとして、地域の関係者によって子どものための新しい居場所づくりの活動をしています。子どもたちだけの交流ではなく、地域の高齢者が昔遊びの伝統を伝えていくといった、世代を超えての交流が行われています。

自分らしく過ごせる場所としてはもちろんのこと、社会から孤立した子どもや若者にとっても重要な受け皿となるサードプレイス。今後、NPOや民間企業などによるサードプレイス教育コミュニティ構築の動きが活発化することが期待されています。

▼参考資料
レイ・オルデンバーグ 著/忠平美幸 訳『サードプレイス-コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』みすず書店、2013年
内閣府(PDF)「令和2年版子供・若者白書第4章第1節家庭、学校及び地域の相互の関係の再構築」2021年
内閣官房・内閣府総合サイト地方創生(PDF)「「生涯活躍のまち」づくりに関するガイドライン~新たな全世代・全活躍型のコミュニティづくり~」2020年7月
文部科学省(ウェブサイト)「地域と学校の連携・協働
文部科学省(PDF)「地域における家庭教育支援基盤構築事業」2019年

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