「スーツケース」から「ふろしき」に【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #4】

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負の連鎖を止めるために今、できること 校長の責任はたったひとつ
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大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第3回は、<「スーツケース」から「ふろしき」に>です。

小中学生の「不登校」24万4940人の報告をどのように受け止めますか。この想像を超える過去最多の数ではなく、一人の子どもが学校に行くことができずに苦しんでいる事実を真摯に受け止めることから、「学校づくり」を問い直さなければならないと痛感します。校長の責任はたったひとつです。「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ために何ができるかを、校長の最上位の目的として行動するときです。これまでの学校の当たり前に子どもを合わさせようとしている限り、過去最多の数は更新し続けるでしょう。子どもの事実に学び、学校が変わる手段を見出すしかありません。

学校に行くことができなくて子どもが苦しむことで家庭まで崩壊し、挙げ句の果てに子どもは自分が悪いからだと自分を責めます。母親が学校からも見放され、地域からもモンスター扱いをされ、子どもの命を奪い自分も死ぬことを考えた親子も大空小には転校してきました。この母親は、もう一度息子と二人で生きるすべを裁判に求めました。学校にとって裁判は残念な出来事ですが、子どもの命は守られたのです。こんな体験をさせていただいてようやく、校長の責任はたったひとつだと覚悟ができました。大空小に出会わなければ「不登校○○人」と言っていたでしょう。

学校さえなければもう少しましな人生を送れた、という母親もいました。そんな母親が子どもを学校に来させるわけがありません。学校って何のために在るのかを、否応なしに問い直す日々が続きました。全国の校長先生方がみなさん同様に、保護者の意識がネックになっていると言われますが、保護者の壁を越えない限り、子どもは学校で安心して学ぶことができません。ケース会議を開き法律を使って母子分離して、学びを保障した子どももいました。

また、教員の意識が……とも言われます。職員室がなかなかチームになれず、ベテランの教員がかたくなに厳しく指導するのが当たり前だと声高に発言するので、その圧に疲弊して困り感を持っている教員もいます。そのような圧に校長までが引きずられたら、やる気のある教員たちが意欲を失っていきます。校長は誰一人取り残さない学校をつくる責任があることを、圧をかける教員よりも声高に自分の言葉で語ることが大事ではないでしょうか。そのために、今の自校をどう変えればすべての子どもが安心して学びの居場所を見つけることができるかを、教職員のみんなで問い続けるのです。目的を合意さえすれば、手段は教職員が見つけ出します。校長のたったひとつの責任は校長にしか果たせません。

「保護者」を「サポーター」に

大空小には多くの「発達障害」「不登校」のレッテルを貼られた子どもが転校してきましたが、自分から学校に来ます。学校の「空気」が吸えるからです。それは、学校に教職員以外のさまざまなサポーターがいつもたくさんいるからです。

入学式に毎年同じことを言い続けました。今日からみなさんは「保護者」というネーミングはシュレッダーにかけてください。「保護者」は家庭だけ! 学校には自分の子どもの周りにこれだけの子どもがいます。今日からみなさんは、すべての子どもの「サポーター」です。自分の子どもを育てたかったら、自分の子どもの周りにいる子どもたちを育て、自分の意志で学校に来て困っている子どもの横にそっといてください。周りの子どもが育ったら自分の子どもは育っていますよと言い続けました。バトンタッチした校長も同様のことを入学式で言い続けたとのことです。校長が代わっても学校は変わりません。

「自殺・不登校・いじめ」過去最多の言葉を生まないためには、子どもの周りのすべての大人で、困っている子どもが困らなくなる学校をつくることです。サポーターがたくさんいる学校には「安心」の空気が豊かに生まれます。

子どもは親や教員に言えないことをサポーターに言います。親や教員は子どもにとって利害関係があり、評価を握っています。サポーターたちは自分の子どもには冷静にかかわれないときがありますが、自分の子ども以外の子どもには感情を抑え、とてもいいかかわりをします。

顔と名前が一致する関係を

地域の人やサポーターたちの顔を知り、名前を呼びあえる関係性を持つことが、すべての子どもの命を守るためには不可欠の手段です。このような関係性は学校の中でしかつなぐことができません。サポーターたちは、聞いてくれた子どもの困り感を瞬時に職員室に投げ込んでくれます。その情報を受け取った私たちは、そこから作戦を立てることができます。教職員だけでは一人の子どもの命も守れないのが今の学校だということを、全教職員で納得し、学校の在り方を変えるのです。

学校という「スーツケース」に子どもを入れようとしているうちは、入れない子どもがたくさんいます。教職員一人一人の「ふろしき」をつなぎあわせ、そこにサポーターたちの「ふろしき」をどんどんつないでいくのです。「ふろしき」は無限に広がります。そのどこかに「不登校」のレッテルを貼られた子どもの居場所ができていきます。学校を変えるチャレンジを!


 小中学生の不登校児童生徒数が過去最多。子どもが学校に行けずに苦しんでいる事実を真摯に受け止め、「学校づくり」を問い直す必要がある。
 保護者をサポーターに。子どもの周りのすべての大人で、困っている子どもが困らなくなる学校をつくることが大事。
 教職員だけでは一人の子どもの命を守れないと認識し、教職員とサポーターが一緒に子どもの居場所をつくろう!

2021年度 文部科学省「問題行動・不登校調査」より

『総合教育技術』2022・23年冬号より


木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。


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