「GRIT」とは?【知っておきたい教育用語】
「やり抜く力」を定義する言葉、GRIT(グリット)。なぜ今注目を集めているのか、その特徴や背景を含めて考えていきましょう。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
「GRIT」とは
グリット(GRIT)とは、アメリカのペンシルヴァニア大学のアンジェラ・ダックワース教授によって提唱された「やり抜く力」の心理的特性です。グリットは具体的には以下の要素から成るものとされています。
Guts(ガッツ):困難に立ち向かう「度胸」
Resilience(レジリエンス):失敗してもあきらめずに続ける「復元力」
Initiative(イニシアチブ):自らが目標を定め取り組む「自発性」
Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる「執念」
以上の4つの頭文字を取った造語(GRIT、グリット)で、GRITという単語自体にも気骨や根性などの意味もあります。
グリットの考え方
ダックワース教授は、コンサルティング会社での勤務や公立中学の数学教師の経験から、成績が優秀な学生に共通した特徴は、必ずしも頭の良さや生活環境ではないと捉えるようになりました。一般に成功には才能や知性が大きく影響していると考えられがちです。しかし、才能や知性があってもそれを生かすことができない人も少なくありません。ダックワース教授は、成功にはグリットが関係していると考えたのです。
グリットを身につけている人はどのような人か、その人はどのようにグリットを身につけたか、それらを心理学的手法を用いて検討しました。著書では「高い才能をもちながら途中で挫折してしまった人」や「周囲と比較して際立った才能を持っていなくても成功を収めた人」などを例に挙げながら、グリットを説明しています。
現代社会は格差社会が進行し、社会的な成功にはもって生まれた環境や資質の影響が大きいとされています。ダックワース教授の「誰にでも成功する可能性がある」とのメッセージは閉塞感の漂う社会に光明を見出すものとして衆目を集めることになったとも言えるでしょう。
グリットを高める方法
ダックワース教授によればグリットは大人になってからでも高めることができるとされ、成熟した「やり抜く力」の鉄人に共通する特徴として以下の4つを挙げています。
1.興味を結びつける
自分のやっていることを心から楽しんでこそ「情熱」が生まれる。
2.練習
「粘り強さ」の一つの表れは、「昨日よりも上手になるように」と日々の努力を怠らない。
3.目的
自分の仕事は重要だと確信してこそ、「情熱」が実を結ぶ。
4.希望
希望は困難に立ち向かうための粘り強さ。
ダックワース教授の研究によれば「興味は情熱の源」であり、「どの職業においても、『やり抜く力』の強い人びとはフロー体験も多い」としてフロー(没頭)と「やり抜く力」が密接に関係していることを明らかにしています。また、「『意図的な練習』は行為であり、フローは体験」であるとしてフロー体験に支えられた「意図的な練習」がグリットを高めると述べています。さらに「目的、すなわち人びとに貢献したいという意志もやはり情熱の源」であるとしています。
グリットスケールの開発
ダックワース教授は自分自身の現段階でのグリットを測定する「グリットスケール」も開発しています。このスケールでは、用いることで、自身の現在のグリットを測定できます。「グリットスケール」では以下の項目が示されています。
1.新しいアイデアやプロジェクトが出てくると気をとられてしまう
2.挫折してもめげない
3.すぐにべつの目標に乗り換えることが多い
4.私は努力家だ
5.達成まで何か月もかかることに、ずっと集中して取り組むことができない
など10項目に回答するものとなっています。
「やり抜く力」の強い人びとが持っている深い情熱は「興味」(フロー)、「目的」(貢献)、「希望」によって支えられ、それが練習などの努力やそれへの粘り強さを導いていると捉えることもできるでしょう。
▼参考資料
アンジェラ・ダックワース 著/神崎朗子 訳『やり抜く力 GRIT(グリット)―人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』ダイヤモンド社、2016年