「変化が起こる」ためのサポートをしてますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #52】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第52回は、<「変化が起こる」ためのサポートをしてますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

若き研究主任の思い

ある学校の研究主任から校内研修のご依頼をいただきました。彼が言うには、「自分が公開授業をすると、『子どもの動きが違う』とお褒めの言葉をいただく。それはそれで嬉しいことではあるけれども、うまくいった理由の分析において、発問がよかった、指示が効果的だった、板書がすっきりしていた、などと授業技術的なことが指摘されるのです。それを聞いてなるほどな、と思うところもあるけれども一方で、自分の授業がうまくいっているとしたら、それは発問や指示の問題ではないと思っています。なぜなら、子どもたちと信頼関係がなかったら、私の発問や指示は子どもたちに届きません、特に学力の低い子どもたちは、学習に向き合おうとしません。また、子どもたちの関係が悪かったら、子ども同士が共に学び合おうとしないでしょう。

校内を見渡してみて、授業に悩んでいる先生や『うまくいかない』とおっしゃっている先生方の様子を見ていると、授業というよりも、それ以前の問題かなと思われるのです。そう、学級経営の問題です。しかし、先生方の関心は学級経営にはほとんどなく、校内研修でも授業づくりの話になってしまうわけです。学級経営を学ぶという文化を校内に浸透させたいのですが、先生、お力を貸していただけませんか。」

というご依頼でした。趣旨は大変よく理解できました。研究主任や勉強された方が、勤務校の課題にとって「効果あり」と見なされる理論や方法論を取りあげようと思っても、話し合いのテーマにすらならなかったりします。特に学級経営はその筆頭です。ある学校では、若手のクラスがいくつも危うい状況になっていて、若手から校内研修のテーマとして学級経営が挙げられても、ベテラン教師から「学級経営は自分自身で勉強するものでしょ」とか「校内研修は授業についてやるものよ」と指導や助言が入ってしまうことがありました。学級経営がそれなりにできる先生や、学級をもたない先生にとっては、確かに必要感のないテーマかもしれません。しかし、実際に悩んでいる教師がいてニーズがあるにもかかわらず、それに向き合わないのはどうなのでしょうか。

若き研究主任は、駆け出しの頃から土日に私費で学習会に参加し、書籍にも少なくない金額を投じて勉強してきました。「授業づくりの基盤は学級経営である」「基礎学力を支えるのは学習意欲などの学力基礎である」などのことを、優れた実践を通してリアリティをもって学んできたので、そうした構造はよく理解していました。

変化のための一押し

そこで勤務校の校長に研修プランを提案します。コロナ禍で講師に来て貰うことはできないので、自分の授業を事前にビデオに撮って送り、それを基にオンラインで講師に指導して貰おうというものです。そのプランは、思いを同じくする校長からすぐ承認が得られ、私にご依頼が来ました。コロナ禍なので、他の先生方も授業を観ていないと言います。通常の研究授業ならば、同じ授業を先生方も観ているので、すぐに助言を入れることができます。しかし、今回はそれができていないわけですから、まずは「事実の共有」をしなくてはなりません。そこで、いただいた授業の映像を直ぐに文字に起こしました。

研修当日は、数分間、授業の映像を先生方に見ていただいて、文字起こしをしたスライド(下図)を基に、彼の指導行為の意味を解説しました。コロナ禍なので、ペアやグループなどによる交流はできない状況で、ほぼ一斉指導型の授業でした。しかし、彼の授業はテンポのよい進行、視覚支援が配慮された導入に加え、子どもの学習課題達成に向けた努力や適切な行動を見逃さず、即時に指摘する学習意欲を喚起する要素に溢れた授業でした。また、授業中は子ども同士の直接的な交流こそありませんでしたが、終末場面で子どもたちのノートを大型テレビに映し出し、他者への関心を示したコメント、例えば「〇〇さんの考え方がとてもヒントになりました」「〇〇さんの解決の仕方がさすがだと思いました」といった内容について、即時フィードバックをして意味付けていました。つまり、指導スタイルは一斉指導でありながら、しっかりと学習者を承認し、学習者同士をつなぐ配慮が存分になされていました。こうした授業における事実を一つ一つ指摘し意味付けさせていただきました。画面越しにも先生方の集中力が伝わってくるような時間でした。

T先生の授業:円柱の体積を求めるには
(0:00)前時の復習(リズム、テンポ)
拍手(切り替え、達成感への補助)
テレビの活用・視覚支援(共有化)
声に出しながらテンポ良く反復(リズム、テンポ)
(モチベーションと本時の見通し)
アンダーライナー(視覚支援)
前時の復習から、これまでの学習でできることできないことを明らかにする(課題の抽出)
問答しながら、本時の課題の確認(3:21)
書いていますか? 机間指導
はやいですねー(承認)
(4:30)机間指導しながら
学習に向かう雰囲気は前向きになってきましたねー
すばらしいですねー(承認)
きちんと定規も使っていて……いいじゃない(適切行動の可視化)
「こまりちゃん」、なんでこまってるの?
見通しです。何を求めるの? 底面積は何を求めるの?

研修翌日から学校が動き出します。学級外の先生方が小さなカードを持ち、授業、運動会の練習、日常生活などで見付けた子どもたちのよい姿を担任に渡す活動が始まりました。それは担任から子どもたちにフィードバックされます。また、緊急事態宣言が解除されたこともあり、研究主任が他のクラスで飛び込み授業をし、それを職員で見合う時間を設定するよう校長が指示したそうです。変化を起こしたいと思う職員は少なからず校内にいることでしょう。そんな思いをアクションに転化させるためには、管理職の一押しや応援がとても大きな力となるのではないでしょうか。

『総合教育技術』2021年12/1月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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