「校長」を楽しんでいますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #46】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第46回は、<「校長」を楽しんでいますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

研修はエンターテイメント!

コロナ禍におけるある小学校の研修でのことです。職員玄関には「赤坂真二先生、ようこそお越しくださいました」の文字が書かれた立て看板がありました。これはどこの学校でも見られる光景ではないでしょうか。しかし、よく見るとその看板が光っているではありませんか。クリスマスツリーで使われるような電飾があしらわれていました。

出迎えの職員に連れられて校長室に向かうと、私の姿を見かけた校長先生が後ろから「やあやあ、どうもどうも、遠くからありがとうございます」とはにかんだ笑顔で追いかけて来ました。校長室に着くと入り口の大きな暖簾が目に入りました。そこには、達筆な墨文字で「校長室(楽屋)」と書かれていました。

校長室のソファーセットのテーブルにはアクリル板が立てられ、加湿器が霧を吹き、数か所にアルコール等の消毒用具が置いてあり、かなり丁寧に感染対策がなされていました。それでもものものしさを感じなかったのは、部屋のそこここに腹話術の人形やかぶり物が置かれていたり、直筆の見事な書が掲げられたりして、やんちゃなエンターテイメント性と上品で知的な空気が一体となった独特の空気があったからです。

参観授業は、学級活動の話し合い活動でしたが、大きな部屋で子どもたちの間隔は1m程度空いていました。参観は、授業の後半部分をガラス越しに覗くというスタイルです。コロナ禍の今、そこまでしてもこの研修を実現させたかったという校長先生の並々ならぬ思いを感じました。

一旦退室した後、研修のために再び先ほど授業が行われた部屋に戻ると、会場前面に貼られた掲示物に目を奪われました。そこには「学級を最高のチームにする極意をあなたに伝授します! ~赤坂教授ファンクラブの集い~」と書かれた横断幕状の大きな模造紙が掲げられ、笑い転げそうになりました。とことん隙がありません。

研修の冒頭では、校長先生が講師紹介をしてくださいましたが、これがまた一風変わった紹介でした。ポケットからA4サイズ程の赤い包み紙を取り出し、「それではこれから赤坂先生を紹介します」と、さもそこからメッセージが出てくるような仕草で包みを開けました。ところが、何も入っていません。「あれれ」と言いながら、もう一度包みを元通りに折り、一呼吸おいて再び開けると、あら不思議! 折りたたまれた白い便せんがありました。

そう、校内研修は校長先生のマジックから始まったのです。これには職員の方々も「おお!」と感嘆の声を挙げました。校長先生は、職員のその反応に少しはにかみながら、大まじめにメッセージを読み上げました。そこには、この状況にもかかわらず、なぜ私を招聘したのかという熱い思いがしたためられていました。笑わせたかと思うと締めるところはキュッと締める、そのバランスとタイミングが絶妙でした。

感染予防のため研修時間は、大幅に短くしたのですが、そんな短い時間にもかかわらず、先生方の反応がすこぶるいいことに驚きました。若手からベテランまで、みんな頷き、メモをします。ちょっと投げかけるとつぶやきがあちこちで起こります。学習意欲に満ちたクラスで授業をしているような感覚になりました。

そんな先生方の姿に気分を良くして会場を後にしようとすると、何人かの先生方が団扇を振っていました。そこには恐らくアイドルの顔があったであろう場所に私の写真が貼ってありました。

それを見た瞬間に躓きそうになりました。「先生方も付き合わされてお気の毒に……笑」と思いましたが、団扇を持つ皆さんも楽しそうにやっていたので、なんともあたたかな気持ちになりました。

「校長劇場」はここで終わりません。勤務解除後に校長先生の関わるサークルの若手のお悩み相談会が開かれました。本来なら近隣の若手の先生方も呼ぶはずでしたが、状況を踏まえて校内の若手のみの参加でした。ただ、そこは彼のやることです。普通にやるわけがありません。開始時刻になると校長先生の携帯に電話がかかってきて、「はいはい、今日は、どんなお悩みですか?」とまるでラジオの電話相談のようにして他校の先生も参加できるようにしていました。研修としては短い時間でしたが、少人数に絞ったので参加者一人ひとりのお悩みを聞くことができて私としても非常に意義深い時間となりました。

樋熊敏文氏、新潟県三条市立栄中央小学校校長、60歳、別名「マジシャン・トシ」。

校長講話ではその名の通りマジックをしたり、腹話術を披露したり、子ども、保護者、職員、周りの人たちを笑顔にすることを全力で実践してこられた方です。どこの学校の校長になっても、また行政にいても、いつも彼の周りには、あたたかな笑顔と人の輪がありました。ここに紹介できたことは樋熊先生の魅力のほんの一端に過ぎません。

楽しそうに生きている大人のそばに居ることが、子どもにとっての最高のキャリア教育であると聞きます。リーダーシップの基本中の基本は、率先垂範です。飄々と「楽しく生きる大人」を体現する樋熊先生の姿に、閉塞感を打破するリーダーとしての在り方を学んだ思いがします。

『総合教育技術』2021年2月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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