学校課題を個人的な問題にすり替えていませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #35】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第35回は、<学校課題を個人的な問題にすり替えていませんか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

ご依頼には背景を

11月くらいになると、「緊急のご依頼」をいただくことがあります。例えば次のようなものです。

「当校の○年生の学級がうまくいかなくなって困っております。是非、先生からご指導をいただきたいと思っています。」

ここまでは、よくあることです。困っておられることだろうから、なるべくならお力になりたいとは思います。しかし、そこに更に次のようなお願いが付加されることがあります。

「つきましては、先生からそのクラスで一時間授業をしていただき、学ばせていただきたいと思っております。」

ここで、「おや?」と思うわけです。背景が明記されていれば、納得することもできますが、意図がよくわからないのです。「学ばせていただきます」という言葉はとても便利な言葉で、特に教育業界においては、全てのコンテクストを吹き飛ばすくらいの破壊力があります。考えようによっては、「あなたは学級経営を専門にしてあちこちで発信しているんでしょ。だったら、お手並み拝見」みたいなニュアンスを感じないこともないわけです。そこで、ご依頼主に質問をさせていただきました。

「ご依頼、大変光栄に思います。また、先生方のご苦労に対してできることをさせていただければと思っております。研修に先立ちまして、いくつかお聞かせください。

まず、私のような現在小学校の教壇に立っていないいわば『引退教師』が、現役の先生方の前で授業をさせていただく意図はどのようなものでしょうか。また、今回の研修は、学校の校内研修にどのように位置付いているのでしょうか。

と言いますのは、学級経営の問題は、一時間なんとなくうまくやったからといって解決するものではなく、年間を通じた一貫性のある指導が必要であることはご存じのことだろうと思います。もし、事態の解決をお望みならば、今回の研修をきっかけにして、継続的な取り組みが必要です。多忙な先生方が一貫して取り組むためには、全校体制で計画的に取り組むことが求められます。いかがでしょうか。」

後日、管理職の先生方からは、校内研修計画と共に、大変誠実なご回答をいただきました。研修の意図に納得いたしましたので、無理矢理日程をねじ込んで、学校を訪問させていただきました。

力量不足ではなく知識不足

実際に対面した高学年の子どもたちは、こちらをかなり警戒していたようでした。いわゆる飛び込み授業というのは、「有名な先生が来るから楽しみだね」といったインストラクションがなされていて、導入段階から周囲の期待感と相まって、一種の興奮と高揚感に包まれて始まるわけです。しかし、機能が低下したクラスの場合は、そうはいきません。

私の場合は「謝罪」から入りました。

「他のクラスはお帰りしたのに、自分たちだけ残されて、正直、『なんで自分たちだけ?』と思った人もいるんじゃない?」

多くの子どもたちが頷きました。

「ごめんなさいね。でも、ここに集まってくれて、みんなにはとっても感謝しています。今日は、先生たちの勉強のために協力してくださいね。よろしくお願いします。」

その言葉が届いたのかどうかはわかりませんが、子どもたちはとても立派でした。よく話を聞き、実に協力的に活動しました。時には拍手をし、時には歓喜の声を上げたり、ガッツポーズをしたりしていました。終わってからも、「楽しかった!」と担任に言っていたそうです。

研修には、地域から職員数の2倍を超える先生方が集まり、熱のこもった時間となりました。先生たちの研修態度は、学校によって異なり、地域によっても差があります。しかし、何度も研修会を担当させていただけば、先生方が本気で参加しているかどうかはすぐにわかります。質問コーナーでは中堅教師から、自主的に質問が出るなど、すばらしい研修態度だったと思います。特に、当該の担任の先生は、とても前向きに話を聞いてくれていたと思います。

学級が荒れる場合、確かに教師の授業力や学級経営力に問題があるのかもしれません。特に小学校の場合は、学級担任の力量が問われることになります。ただ、その問題は「能力がない」ことよりも、「知らない」ことから起こっているようです。

学級経営に困っている先生方が、少なからずいるにもかかわらず、校内研修等でしっかり学ぶ機会がない学校も多くあります。ある小学校では、学級崩壊の様相を示すクラスが複数あり、また、そのため病休に入る職員がいるにもかかわらず、校内研修は、授業研究しか行っていないようでした。その学校では、クラスが荒れてきたので、教務主任の発案で、A4程度の学級経営に関する資料を読み合わせただけだったと言います。先生方に必要な知識を得る機会が不足していると言わざるを得ません。

また、地域の学校が荒れ気味で、所謂、機能しない学級の出現率が高い地域で、人間関係づくりのために行っていることと言えば、月2回のスキルトレーニング・タイムなどという学校もあります。地域や子どもの実態に合わないようなカリキュラムを運営しておいて、いざ、事が起こると、子どもが悪い、親が悪い、地域が悪いと悪者を探し、最後には、あの先生の力がないからだと、クラスが荒れることの責任を一部の教師に「なすりつける」ようなことをしている現状もあります。

こうした問題は、一教師の個人的な問題ではなく、学校というチーム全体に投げかけられた問題なのです。

『総合教育技術』2020年2月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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