「縦に横に目を開く機会」を職員に提供していますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #31】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第31回は、<「縦に横に目を開く機会」を職員に提供していますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

いらない研修会

本稿を書いているのは8月です。夏季休業と言っても、先生方には休みなどほとんどないことでしょう。私のような者でもこの期間、ほぼ無休で講義や演習をしているということは、それだけ先生方が研修をしているわけです。学校関係者ならばご存じのように、教育公務員特例法第4章第21条に「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」との規定があります。多忙化解消の流れで数が減っているとはいえ、先生方の負担軽減にはほど遠い現実があります。

全ての研修が無駄だとは申しませんが、廃止してもいいものはありそうです。読者の皆さんなら、そんな研修の一つや二つはすぐに指摘できるのではないでしょうか。例えば、真夏に町中の先生方を強制的に集めて実施する教育講演会のようなものです。着席した瞬間に、目を閉じて寝始める方があちこちに見られます。涼しいホールで、座り心地のよいシートに深く腰掛けたら、眠りたくもなるのはわかります。「お疲れさまです」と思う一方で、公費を使った研修会で、しかも勤務時間内に昼寝をしていていいものかと、ふと考えてしまいます。

そういう方は、問題の外に置いておくとしても、講演によって変化が起こるかと言ったら期待は薄いのではないでしょうか。学校の抱える課題が高度化、複雑化しているこのご時世に、そこそこの「いい話」を聞かせて、何かが変わるかといったら何も変わらないのではないでしょうか。ずっとその町で行われてきた事業だから、誰も「止めよう」と言えないのでしょう。しかし、今の学校にそんなことを続けている余裕があるのでしょうか。私はルーティン化している研修は、バッサリ切ったらいいと思っています。思い切って捨てると本当に必要な「やるべきこと」が見えるはずです。

今年(2019年)の夏、「やるべきこと」だと思った研修会の一つに、札幌で8月11日、12日に開催された北の教育フェスティバル主催(代表、山田洋一氏)の研修会があります。「10年後を見据えた教育・変わるもの・変わらないもの」をテーマに教師が今、本当に考えなくてはならないことを議論しようという会でした。講師は、青山新吾氏(ノートルダム清心女子大学)、川俣智路氏(北海道教育大学教職大学院)、坂本建一郎氏(時事通信出版局)、堀田龍也氏(東北大学大学院情報科学研究科)、坪井大輔氏(株式会社INDETAIL)、山田洋一氏(北海道公立学校)、そして、私でした。膨大な情報量なので、研修会の内容そのものについて詳細は述べられませんが、研修会自体の枠組みが実によくできていました。ある程度の勉強をなさっている方ならば、この講師の並びを見ただけで、この会のねらいが透けて見えることでしょう。

「宇宙」から「足下」へ迫る

会は、時事通信出版局の坂本氏の話から始まります。坂本氏は、あのベストセラー、麹町中学校の工藤勇一氏の『学校の「当たり前」をやめた。─生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革』を世に出した編集者です。なぜ、この書籍があれほど話題になったのか、時代を見抜く目をもっていると言えるでしょう。口調は穏やかですが実に鋭い切り口でこれからの世の中の姿を示しました。

それを受けて、IT企業社長の坪井氏が求める人材、そして、教育に寄せる期待を語りました。堀田氏は、Society5.0を見据えながら学習指導要領の改訂に関わった立場から、そのねらいを伝えました。私は、これからの学級の在り方、川俣氏は、一人一人に学びを保障する授業の在り方を話しました。そして、青山氏は、特別支援教育を切り口に、徹底して個を語りました。参加者にしてみるとGoogleEarthで自宅を探すような感覚だったかもしれません。宇宙空間から段々と足下に迫ってくる感じです。しかし、フロアの受け取りは様々でした。難しいと感じた参加者もいたようです。

1日目の感想の中には、「もっと具体を」と、方法論を欲しがった方もいました。それは、個々の参加者が問題なのではなく、ここ何十年かの間に教師の間に染みついた学び方の癖のようなものだと思います。だから、講師も全体コーディネートをしている山田氏も、何度もフロアに声をかけました。「やり方だけ持ち帰ろうとしないで欲しい」「答えを尋ねるのではなく、自分で考えて欲しい」「自分には何ができるか、自分のコンテクストに落とし込んで欲しい」と。講師の多くが教師教育にも携わっているので、伝える情報だけでなく、学び方についても助言を与えていました。すると、参加者の視点が、徐々に、「明日の授業」から「世の中や子どもたちの将来」へ、そして、「やり方」から「在り方」へ移り、また、主な関心が「自分が何を獲得するか」ではなく、ここで得た学びを「自分の周囲にどう還元するか」に広がっていきました。

私がこんなことを言わなくても、皆さんの目は十分に未来に開かれていることでしょうし、やり方よりも在り方が大事だと認識していると思います。ただ一方で、授業で用いた手立ての善し悪しのみに関心が寄せられる授業研究会、特別支援の必要な子や学力低位の子が「ただ居る」だけの学級経営・授業、従来の価値観に引き寄せた自分都合の学習指導要領の解釈、方法論を陳列するような研修会を見聞きすることが少なくないのが現実です。先生方の視野や関心があまりにも、現在、学校内、やり方に縛られ過ぎていて、資質・能力、社会、そして未来に広がっていかないことが気になります。「今とこれから」また「学校、社会、世界」のように縦に横に教師の目を開く機会がもっと必要だと感じています。

『総合教育技術』2019年10月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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