小学校における教科担任制、どう考えますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #30】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第30回は、<小学校における教科担任制、どう考えますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

教科担任制を検討へ

柴山昌彦文部科学大臣(当時)は、中央教育審議会に今後の初等中等教育の在り方について諮問しました(「新しい時代の初等中等教育の在り方について」平成31年4月17日)。ご存じのように、この中で小学校における教科担任制について述べられました。諮問では、直接的に小学校高学年における教科担任制を検討するようにとは書いていませんが、「教科担任制の導入や先端技術の活用など多様な指導形態・方法を踏まえた、年間授業時数や標準的な授業時間等の在り方を含む教育課程の在り方」の検討を促すということは、実質的にそのように解釈していいのだろうと思います。読者の皆さん、特に小学校の関係者の皆さんは、これについてどのように捉えていますか。

明治図書出版が、この5月1日から6月1日にかけてWEB上で「小学校高学年の教科担任制に賛成? 反対?」と題してアンケートをとりました。すると、賛成が80.5%、反対が19.5%でした※1。回答者数や回答者の立場が記されていないので推測になりますが、「先生方は」と呼びかけているので、回答者は教員だと思われます。大まかな印象としては、賛成多数と見ていいのではないでしょうか。

諮問の背景には、英語教育、コンピュータプログラミングなど、専門化する教育内容が入ってくるので、そうした知識をもつ教員が指導する必要があるためだと思われます。学校教育の変化が緩やかだったときは、教員は自分が経験したことを教えることができればそれで仕事はできていたわけです。しかし、変化が速くなってくると、自分が教わったことや教えることを想定していなかったことを教えなくてはならなくなったわけです。そのことは他ならぬ教員自身がわかっているからこそ、アンケートのような結果になるのではないでしょうか。

授業準備の負担が減ったり、その分、特定の教科の準備ができたりするでしょうから、結果的に授業の質が高まることが期待されます。先行的に実践している地域では教員からも保護者からもそのようなメリットが伝えられています。働き方改革が叫ばれる昨今、ワークシェアリングの観点からも、教員の負担が軽減されるならば、それは歓迎すべきことだと言えるでしょう。

教科担任制を支えるもの

かく言う私は小学校の教員時代のある時期、ゆるやかな教科担任制を体験しました。最初からそうだったわけではなく、自然発生的にそうしたシステムが始まりました。それは生徒指導困難校のやむにやまれぬ事情が生み出したものかもしれません。その学年(6年生4クラス)が特別に荒れていたわけではありませんが、いつ何時、生徒指導の事案が起こっても集団指導体制がとれるようにと、学年主任が提案したものです。「130人を4人の教師で担任する」という方針の下に、象徴的に「ゆるやかな教科担任制」をとったのです。「ゆるやかな」とは、中学校のように完全な教科担任制ではなく、それぞれの得意教科を中心に、弾力的にいくつかの教科を分担しました。

私は、音楽、家庭科、理科(教務主任)に入っていただきました。一方で、他のクラスの社会科や体育を担当しました。また、文化祭の前には、図工の指導をさせていただきました。絵画指導は、指導者による差が顕在化しやすい内容の一つです。差が出ることにより子どもたちや保護者から不満が出ることがあります。それを考慮してのことです。1年間固定的に授業の交換をしなくても、単元を交換することがありました。学年で道徳をすることもありました。

最初は戸惑っていた子どもたちでしたが、やがて慣れてきたようで、隣のクラスの女子たちが私に女子同士のトラブルを相談することもありました。そんな風にしていてもやはり問題は起こります。隣のクラスのある男子が、担任の指導に不服があり、反抗的な態度をするようになりました。怒鳴ったり、授業を妨害したりしたので担任はかなり参っているようでした。

すぐに学年会を開き、対策を考えました。私はその男子の昨年の担任だったこともあり、私が彼と話をすることになりました。彼と一対一で話をすると、彼は担任への不満も口にしましたが、その多くは家族への不満でした。それでまず、私が仲立ちをして担任と話をしました。担任に気持ちを受け止めてもらうと、彼は、以前よりも少し素直になりました。担任は、保護者に事情を説明し、今度は担任からの働きかけで、彼はお父さん、お母さんに自分の気持ちを伝える機会をつくってもらい、両親と話をしました。兄は比較的優秀であり、また、受験期でもあって彼は家族の中で孤独感を味わっていたようでした。それ以来、彼の反抗的な行動は影を潜めました。

小学校高学年における教科担任制に賛成か反対かと問われたら、私は賛成です。今、小学校の先生の中にはパンク寸前の方が少なからずいます。この状態では、カリキュラム・マネジメントやアクティブ・ラーニングは勿論、資質・能力の育成は遠のくばかりです。しかし、現在の小学校における教科担任制の議論は、授業の質の向上、学力向上などの認知的能力の側面や教員の負担軽減といった働き方改革の側面が強調されています。子どもたちは多様なニーズを抱えており、それに伴って多様な問題が起こります。子どもたちのメンタル面のサポートを置き去りにしてはなりません。

教科担任制の成功は、生徒指導や教育相談などのシステムとセットです。分担は、分断することではありません。目的の下に分かち合うことです。チーム化した組織があって初めて、分担が成り立つことを忘れないでおきたいものです。

※1 教育zine 編集部「小学校高学年の教科担任制に賛成? 反対?」教育zine、Edu アンケート、明治図書ONLINE(2019年7 月16 日閲覧)

『総合教育技術』2019年9月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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