研修成果を管理していますか【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #19】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第19回は、<研修成果を管理していますか>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
研修のシーズン真っ只中から
学校が強いチームになるためには、職員の協働力を高めると同時に、個の力量を高めることが求められます。教育基本法9条や教育公務員特例法21条を持ち出すまでもなく、教師には研究と修養の「努力義務」が規定されています。だからこそ現在の学校現場の夏季休業期間は、世間が抱く「夏休み」のイメージとは裏腹の様相を見せるわけです。夏の先生方を忙しくさせている大きな要因として研修が挙げられます。教育現場における研修は、次の3つに分けられます。
⑴自主的な研修
⑵職務命令による研修
⑶職務専念義務の免除による研修
私が関わらせていただいているのは、公的なものでは、校内研修会、教育委員会や地域の研修センターが実施する講座などがあります。この講座には、希望研修と呼ばれる参加者による任意のものもあれば、「法定〇年研」のような悉皆研修もあります。また、教育研究協議会や育成協議会のような地域の教師から構成される団体による研修会も公的な研修と呼べるでしょう。その他にも、主に土日に実施される民間教育団体の研修会もあります。
学校現場の研修が動き出すと、担当させていただく私の動きも慌ただしくなります。8月の前半2週間だけで12回の講座をさせていただきました。訪れた都道府県は、地元新潟から九州まで、10を超えます。中国地方から最終の飛行機と新幹線で帰り、次の日の午前中に地元で講演し、また、午後には飛行機で関西に向かうというようなこともありました。私なんてまだよい方で、本当に忙しい方はさらにタイトなスケジュールで動き回っていることでしょう。忙しいのは講師だけではありません。当然、それを迎え入れる主催者の皆さんも膨大な時間をかけて準備しています。
読者の皆さんがわかり切っていることを、なぜくどくどと書いているかというと、これらの研修の「成果の管理」はどうなっているかということが気になるからです。主催者も参加者も講師も膨大なエネルギーをかけているからこそ、「やりっ放し」の研修になってはならないと強く思います。
担当させていただく研修会ではどれもきちんと趣旨説明があって、研修の意図や講師選定の理由をお話ししてくださいます。私も、そのねらいが達成できるように微力ながら尽力させていただいています。
ただ、「成果」まで責任がもてるかというとハッキリ言って自信がありません。研修後のアンケートを送っていただき、一枚一枚目を通します。参加者の中には、心を込めて書いてくださる方もいます。そして担当の方が、結構な分量のものを丁寧に打ち直してくださっているわけですからいい加減には扱えません。参加者、担当者には感謝しかありませんが、あのアンケートに書かれたことを「成果」と呼んでいいのかわかりません。たとえ8割、9割の参加者が「大変満足」「満足」と答えたとしても、それは「成果」なのでしょうか。
研修の成果
では、研修の成果とは一体なんなのでしょうか。先ほど述べた研修の分類のうち、⑴は、勤務時間外です。任意となりますから、成果があろうがなかろうがそれは自己責任の範疇の話です。しかし、⑵、⑶は勤務時間内ですから、当然、勤務です。参加すればいいというわけにはいかないでしょう。たまに、座るなり深い眠りに入るような方がいます。それは、公費を使って昼寝をするわけですから、職務専念義務違反となるのではないでしょうか。
中原淳氏らは、研修を評価するときの「4レベル」を提唱しています※1。その4つを私なりに整理してみます(詳しくは、著作をお読みください)。
【レベル1】反応
研修会終了後に受講者アンケートに答えるようなことです。
【レベル2】学習
受講者の学んだことがテストされます。教員免許状更新講習はこうした形が取られています。
【レベル3】行動
受講者の現場の行動がいかに変化したかを問います。
【レベル4】成果
受講者が行動を変化させた結果、それが仕事にどのような成果をもたらしたかを問います。
私が知る限り、ほとんどの研修は、レベル1、2ではないでしょうか。いや、教員免許状更新講習を除けば、ほぼレベル1でしょう。アンケートからわかることは研修会の印象程度の話です。印象程度の記述をしてくることが、勤務といえるのでしょうか。しかもそのアンケートは置いてくるわけです。書いたらほとんどの方が忘れると思います。主催者の皆さんは、それでいいとは思っていないでしょうが、学んだことはそう易々と行動化するわけではありません。
この働き方改革の時代に、「変わらない研修」を繰り返し実施する余裕が現場にあるとは思えないのです。もし研修をするならば、変化、つまり、レベル3、4を求めるべきだと思います。変わらないのなら「やらない」くらいの決断をしないと、働き方改革など実現は、夢のまた夢でしょう。教員研修で最も破壊的なことは、先生方が「研修がつまらない」と思ってしまうことではないでしょうか。学ぶことをつまらないと思っている教師が、子どもたちの学習意欲を高められるとは思えません。若手教師が激増している昨今、教員研修について、前例の踏襲や微々たる改善ではなく、根本から考える時期に来ていると思います。
※1 中原淳・島村公俊・鈴木英智佳・関根雅泰著『研修開発入門「研修転移」』ダイヤモンド社、2018
『総合教育技術』2018年10月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。