潤滑油的な対話に必要なユーモア力【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #17】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します
第17回「コミュニケーション科」の授業は、<潤滑油的な対話に必要なユーモア力>です。

ユーモア力は思いやり

話し合い活動の授業を見る機会が増えましたが、話し合いの後に満足した表情になっている子どもたちを見ることはそうそうありません。

自分の意見を発言しても、聞き手はじっと黙っているだけのスピーチ止まりか、「なぜそう思うのですか?」と決まり切った質問に「○○だからです」と答えておしまい、1往復だけの対話止まり……。子どもたちはこのような浅い話し合いで満足するはずがありません。そもそも、温かい人間関係が築けていない学級では、お互いの意見をぶつけ合い、つなげ合い、新しい意見を見つけていく話し合いが成立するはずがないのです。

コミュニケーション力=(声+内容+態度)× 思いやり

私が考えるコミュニケーションの公式で最も大切なのは、「×思いやり」の部分です。どんなに優れたことを話しても、相手を慮る気持ちが0ならば、いつまでたっても思いやりは0で、いくらかけ算をしても0のままです。

話し合いの授業というと、話す内容の正確さや声の大きさ、正しい姿勢など、( )の部分にばかり目が向きがちです。しかしそれだけでは、スピーチやプレゼン、ディベートという一部分にすぎません。議論や意見のつくり方を教えることはもちろん大切ですが、話し合い活動を通して「自分の意見を最後まで言えたし、自分と違う考え方も知った。意見のやりとりって楽しい!」という学びを丁寧に教えていくことも必要です。

お互いに認め合い、温かい人間関係をつくるコミュニケーション力に欠かせないのがユーモア力です。公式に当てはめると、即興力やユーモア力は、「思いやり」に当たるものです。

その場に応じてぱっと言える即興力と場を楽しむ・楽しませるためにつくり込むユーモア力、この2つの力がコミュニケーション力の中核にあるものだと私は考えています。図①のように、2つの力が重なる部分、つまり相手に応じてその場を和ませたり盛り上げたりする力が大きくなるほど、コミュニケーションが豊かになるのではないでしょうか。

誰もが活躍できる話し合い活動に

「相手の意見を聞いたら、その意見に対して感想を述べたり質問をしましょう」と安易に指導し、「うまくいかない」という相談を受けることがあります。実は、意見と感想の間にある大切なポイントである「笑顔」が抜けていることに気づいていないのでしょう。

笑顔で話してくれるから共感してうなずいたり、もっと詳しく聞きたくて質問をする、相手が笑顔で聞いてくれるからもっと話したくなる。このプラスのサイクルがコミュニケーションを豊かにします(図②)。笑顔やユーモアを不真面目だと否定したら、サイクルはぶつ切れのまま動きません。コミュニケーション力は、相手があってこそ伸びる力です。学級の人間関係がぎすぎすしていたら伸びません。
いろいろと調べたことを組み合わせながらつくるのが意見の内容の部分だとしたら、即興力やユーモア力は自分の経験から生まれるものです。そのため、授業では埋もれてしまいがちな子が脚光を浴びる“逆転現象”が起きることもあります。

話し合い活動を行うと、自分の意見を押し通そうとする子どもたちに引きずられて進んでしまうことがあります。一見、活発に見えるかもしれませんが、話の輪から外れた子たちは“お客”になってしまい、すでに全員参加ではなくなっています。こんなとき、悪目立ちではなく、ちょっと斜めからユーモアを交えた意見が出ると笑いが起こり、場の空気がさーっと変わります。車のハンドルの“遊び”のようにワンクッション、余裕が生まれたことで、“お客” だった子どもたちも輪の中に戻ってくることができます。教師は、「ふざけるな!」と否定するのではなく、「○○君、今の意見はさすがだね! 腕を上げたなあ」とほめて、話し合いを再スタートしましょう。

こうした潤滑油的な対話は、友達との普段の会話の中から生まれ、話し合いの場で鍛えられていきます。話し合いが、一部の “学力が高い子” だけでなく、誰もが活躍できる場になることで、「一緒につくる」「一緒に学ぶ」空気感が生まれるのです。

実践!「コミュニケーション科」の授業
お絵かきバトルでユーモア力を鍛えよう!

<徳島県石井町立石井小学校5年1組>

「ユーモア」をひらがなや漢字で表すと!?

菊池先生が黒板に「ユーモア」と書きながら、「聞いたことがある人はやる気の姿勢を見せましょう」と子どもたちに声をかけると、みんなの背筋がピンと伸びた。
「〈ユーモア〉を漢字やひらがなで言い換えるとどんな言葉になるか、辞書やタブレットを使わずに考えてみましょう」
菊池先生の問いかけに、子どもたちは「えっ!?」「うーん」と言葉に詰まった表情に。すると菊池先生が最前列の子の前にしゃがみ込み、「辞書を使わないということは、一人ひとり違った言葉になって当然だよね?」と尋ねた。聞かれた子がうなずくと、「先生もそう思います」とにっこり笑ってその子と握手を交わした

まずは自分で考えたことをノートに書いていく。菊池先生が、「もし思い浮かばなかったら、友達と話し合って写し合えばいいし、話し合いながら新しい考えがひらめいたら書き足すといいですね」と話し、友達との意見交換がスタート。「おもしろい発想力だと思う」「私は『柔らかい考え方』だと考えたけど、その言葉もいいねえ」とあちこちで写し合う姿が見られた
席に戻り、縦1列が発表。

あたたかい……おもしろくてホワホワしたイメージ。
自由発想……一人ひとり自由に考える。
特別発想……普通に使う言葉と違って、その場でおもしろいことを言う感じ。
おもしろおかしい……テレビでユーモア賞があった。
即興力……菊池先生が、授業の始めに「即興力」と黒板に書いて「読める人?」って聞いたから、つながりがあるかと思った。

「鋭いねえ」と菊池先生が笑いながらコメントすると、教室が笑いに包まれた。
菊池先生が後方の女子のところに行ってノートに赤丸をつけ、発表を促した。その子が「個性が出ることだと思います」と読み上げると、菊池先生が「なるほどねえ」とにっこり。みんなもうなずいた

菊池先生が黒板に〈お笑い〉と書きながら、「リアクションの用意はいいですか?」と尋ねると、みんなが期待でいっぱいの表情になった。
〈お笑い! お絵かきバトル!!〉
子どもたちから「おおーーっ!!」と歓声と拍手が教室中に響いた。

そっくりで賞選びはユーモアあふれる観点で

「バトルは生活班ごとに行うので、机を動かしましょう。日本の小学生は10秒以内に班をつくることが法律で決められているのはみんな知っていますよね?」
菊池先生がユーモアを交えて問いかけると、子どもたちはあっという間に机を動かした

お絵かきバトルのルールは次の通り。菊池先生が出したお題のイラストを一人ひとり描く。タブレットを見るのはもちろん、友達の絵をチラ見するのもNGだ。生活班ごとに1枚選び、班ごとで競う。
「それでは、1題め……ミッキーマウス!!」
「ええっ!!」
誰もが知っているが、いざ自分で描くとなるとなかなか難しい。みんな悪戦苦闘している。あっという間に2分が経ち、終了。菊池先生がミッキーマウスのイラストを見せた後、班ごとで話し合って「そっくりで賞」を決める。

話し合いの前に、「なぜその絵を推したのか、気持ちと理由を考えましょう。この2つが結びついたのが即興力です。温かい話し合いをすれば、ユーモア力が出てくるし、話し合いがダイナミックになります」
菊池先生のアドバイスを聞いた子どもたちは早速話し合いを開始。「○○さんの絵を選んだのは、耳のところがハートみたいになっていて、私の絵よりも似ていると思った」「私も、耳の丸い感じや目が特に似ていると思う」。教室のあちこちで楽しそうな話し合いが聞こえた。

続いて2題め。「徳島と言えば?」と菊池先生が問いかけると、「阿波踊り!」「そば米汁?」「あ、すだちくんだ!!」と子どもたちもノリノリだ。
「そうです。では1分間ですだちくんを描きましょう」

1題めよりスムーズに描き出した子が多かったようだ。班ごとに1つを決めて黒板に貼り出し、“推薦者” が理由を述べた。
「頭の毛の3本が似ていたから」
「胸のSの字体がそっくり!」
「マントの位置がよかった」
ユーモアのあふれた理由を聞きながら、みんな笑顔だ。

コミュニケーション力=(声+内容+態度)× ♡

菊池先生がコミュニケーションの公式を書きながら、「今日のバトルは、( )の部分が即興力、♡がユーモア力と言えるでしょう。前の時間でみんなが見せてくれたディベートのように議論をするコミュニケーションもあれば、自分らしさを発揮して人との違いを認め合い、いい空気をつくるコミュニケーションもあります。どちらも大事ですね」と菊池先生が授業を締めくくると、みんな真剣な表情でうなずいた。

そっくりで賞選びは、班ごとのユーモアがあふれ出ていた。


 「一人ひとり違っていい」「間違いはないよ」ということを、「みんなも同じ意見だよね」と無茶振りすることで、子どもたちにより安心感を与えることができる。
 自分で考えることばかり重視される授業の中で、「人の考えを写してもいい」という言葉がけは、子どもたちにとってはとても新鮮。「写す」ことは「相手の意見をよく聞いたから」こその行為だ。
 机間巡視でキラッと光る意見があったら心に留めておく。その子のところに行って赤丸をつけることで、自分の意見を発表するのが苦手な子も自信を持って発表することができる。
 「すぐに動かしなさい」と直接指示すると、せっかく温まってきた空気が冷えてしまう。子どもたちが自ら動きたくなる言葉がけで、さらに場を温めたほうが効果的。

『総合教育技術』2022年2/3月号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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