これからの教育「4C」のためにできること

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

長い間学校教育は、読み書き計算(Reading、wRriting、aRithmeticの3語から3R’s=スリーアールズとも呼ばれます)の能力を鍛えるものでした。もちろん今でも学校教育ではこれが基本となっています。しかし、児童生徒にタブレットが支給され、自分のペースで学習を進めることができる現代では、これら定型的な教育内容の伝授という機能は薄れてきています。全米教育協会は、「21世紀型教育」つまり近未来の教育として、4Cという定義を示しました。今これが、世界中に広まっています。
4つのCは、Critical thinking(批判的思考)、Creativity(創造性)、Collaboration(協働)、Communication(コミュニケーション)を指します。

単一の文化や価値観の、身近なコミュニティの中だけで生活するなら3R’sで十分だったでしょう。
しかし、インターネットが生活に不可欠な環境となった昨今、仕事ばかりか私生活でさえも、多様な価値観や文化を持つ世界規模の大きなコミュニティに属して活動することが当たり前となってきています。そのような社会で4Cは、間違いなく必要となるスキルです。一般的にはプロジェクト型学習などで鍛えるスキルだと言われています。そして4Cは学校の授業だけでなく、さまざまな機会を通して養成すべき能力です。今、わたしたちにできることはどんなことでしょうか。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

1 商工会議所主催の起業家教育

ある地方小都市の商工会議所では、「ジュニアエコノミーカレッジ」として、商売体験を通した「起業家教育プログラム」を進めています。市や教育委員会が後援し、学校でも児童生徒に推奨、紹介している企画です。

起業家教育とは、「自ら課題を設定し、考え、解決する力を養う教育」を言います。音楽教育が必ずしも「音楽家」を育てるための教育ではないように、起業家教育もまた「起業家」を育成するための教育ではありません。子供達は、「起業」という言葉や、会社の仕組みなど分かっていなくても、「お客様に喜んでもらうこと」「お金の大切さ」「仕事とは社会に役に立つこと」「チームワークの重要性」など、この教育ならではの価値観や概念に触れることができます。
そして、この教育を通じて以下のような学びに繋がることが企図されています。

子供たちが自ら考え、決めること(想像力・問題解決力・意思決定力)
子供たちが仲間と行うこと(チームワーク・リーダーシップ)
子供たちが自らの結果を受け止めること(責任感、自信)

地元商工会議所の「ジュニアエコノミーカレッジ」ポスター

これはわたしの生活圏に近い地域で開かれた、起業家教育の募集ポスターです。
児童が「会社」というチームを作り、商品やサービスを考えて、実際に地域の「お祭り」で販売することをゴールとします。
このプロジェクトのあらゆる場面で、4Cの能力が必要となってきます。
社員全員で、商品やサービスのR&D(研究開発)を行って商品化し、マーケティングや宣伝も行い、さらには販売接客の方法まで考えて自ら実行するからです。
商工会議所青年部の若手社長を中心とした皆さん、つまりプロが支援してくれるので、最後までプロジェクトを遂行できます。このダイナミックさは、なかなか学校ではできないことです。
全国的にも50か所以上で開かれるなど、広がりを見せてきています。こういった機会に関係団体と学校が協力体制をつくり、教育の場を広げていくことは、児童の4Cを鍛える上で、大変効果的な方法と言えます。

2 クラブ活動を自主的につくる

4Cを学校の中だけで鍛えられないでしょうか。例えば勤務校で取り組んでいる身近な実践に、クラブ活動を利用する方法があります。従来ですと学校でクラブを決めて、教員を配置したり、教員が指導できるクラブを設置したりしていきます。しかし、それをしないのです。このような進め方です。

児童から、やってみたい活動のアイデアを募集する
集約したアイデアの中から実現可能なものを選ぶ
そのクラブのリーダーを決める
リーダーがクラブの名称や活動内容など、詳しい企画書を作成する
企画書を元に担当教員と話し合い、クラブの発足を確定する
募集のためにプレゼン資料や掲示物を作成し、メンバーを募る
集まったメンバーの希望を取り入れつつ活動をしていく

という流れです。既成のクラブで、これまでと同じような活動を言われたままにやっていくより、6年生を主体としたアクティブなクラブ活動ができます。

<クラブ活動メンバー募集ポスター>

3 実行委員会組織から…

高学年で、特に6年生で複数の学級がある学校では、よく「実行委員会組織」をもちます。これも4Cのための「プロジェクト型学習」と言えます。
例えば勤務校を例にとると、児童をグループに分けて、

修学旅行実行委員会
運動会実行委員会(応援団)
卒業行事実行委員会
卒業文集作成委員会
「△△祭」実行委員会

といった実行委員会をつくります。このほかにも、パレード参加鼓笛隊、学年Tシャツづくり、学級旗づくりなど細かいものを含めると、かなり様々なプロジェクトが進行しています。
勤務校では運動会実行委員会(応援団)が運動会をすすめていくにあたり、学年担任団から日程や方法を指示しません。早い時期から実行委員会内でアイディアを出し合い、決定し実行に移して自分たちの手でつくっていきます。
まずとっかかりとして、児童は自分の組をどうしたいかということを話し合い、そのイメージに合った「四字熟語」を考えていきます。これがなかなかおもしろいです。辞書に首っ引きになり、探し、議論し、これだ!という原案を出していきます。そして、なぜこのスローガンにしたかプレゼンします。メンバーに納得してもらい、運動会に臨むというものです。このように手間暇はかかりますが、自分たちでやったという大きな達成感が残ります。

<四字熟語の運動会各組スローガン>

4 児童の主体性を維持するためには

次に児童会を例にとります。
よく「とき」「ばしょ」「もの」の保証が大事だ、といわれる活動ですが、4Cを身につけさせることを考えると、さらにもう1つの要素が必要だと言えます。

時間
場所
物品(お金)

相談相手


定型化された活動を滞りなく遂行することが求められる児童会のような組織においては、毎月の運営を着実に積み重ねていくためにも、年間を通してやるべきタスクの把握と見通しを持たせることが必要です。そこで児童に月ごとの計画表を配付します。児童の発想・発案だけでは、全ての活動内容を網羅しきれないからです。そして、児童たちに悩みや不安が生じたとき、それを解消できるように、教員が相談をうけ、児童と充分にコミュニケーションをとれる機会を保障するようにします。

児童会の月計画書

わたしには小学生時代の何とも残念な思い出があります。5年生の時です。夏休みの理科の自由研究発表会がありました。理科専科のせんせいが、出席番号順で発表させていきました。
学年単位での発表会でしたが、複数学級で大人数であったため、2校時使っても終了せず、わたしまで番が回ってきませんでした。
翌々日の3校時目、さぁ発表だと意気込んでいたところ、「今日は新しい学習です!」と言われ、これには正直ガッカリしました。
せんせい曰く「うん、もう時間がないので、次に進みますから」ということでした。
何とも煮え切らなかったですが、既に優秀な発表があったこと、そして進度的に先に進めないと間に合わないと判断された、ということでしょう。
ヨーダくん、吉田君、渡部君、ほか何人か、発表の機会を与えてもらえず、ああなんで、うちの姓が「あべ」とか「いとう」じゃないんだ! と、ちょっとだけご先祖様をうらみました。
でも、よく考えてみると、理科専科のせんせいが悪いんです!
わたしが教員となってからは絶対こういったことはないようにしようと心に決め、実行してきました。
4Cは、習得したことのレベルで優劣は決めません。何かを習得することが目的ではなく、活動、まとめ、発表の中でコミュニケーション力を向上させることが目的です。そしてすべての児童生徒にその機会を与えていきます。未来の教育は、ヨーダくん、吉田君、渡部君を救います。


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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。

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