小学生女子の生理:発達障害を持つ子への支援法【臨床心理士が解説】
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小学校高学年は思春期の入り口です。女子は男子に比べて、ホルモンの変化をきっかけとした月経などにより、心身の変調がおきやすい時期。女子の身体特性をはじめ、この時期の子供への理解に必要なことや、発達障害を持つ子に対してもよりよい支援をするためのポイントについて、NPO法人えじそんくらぶ代表で臨床心理士の高山恵子さんと、思春期相談士・婦人科薬剤師の船津裕子さんにお伺いしました。
監修/高山恵子・船津裕子
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目次
子供の月経は、女性のライフステージと女性ホルモンの働きの理解が大切
女性の身体特性を理解するには、下図のように女性のライフステージを考えてみることから始めるとよいかもしれません。
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思春期は、女性ホルモンの分泌が始まる時期です。皮下脂肪が増えて身体が丸みを帯び、乳房やヒップが大きくなります。月経の発来は、通常11歳〜14歳ですが、早い子だと9歳〜10歳のこともあります。女性の身体は、下図〈女性ホルモンの働き〉のように、二つの女性ホルモンに強い影響を受けています。出ているホルモンによって、『卵胞期』と『黄体期」に分けられ、それぞれの時期で身体の状態は異なります。 卵巣内で卵子が成熟する『卵胞期』は、心身が安定し体調がよい時期です。一方で、排卵後の『黄体期』は、頭痛や腹痛、イライラなど心身ともに不安定になりやすくなります。このサイクルを知っていると、女性の特性理解は早いです(船津先生)
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事例1 「今までとは何か違う」女子
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食欲もなさそうだし何だかピリピリしている
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普段は元気一杯なのに、今日はどうしたのかな? 食欲もないし、何だかピリピリしている感じがする。
たまにボーっとしている日があるなあ
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最近、時々、ボーっとしている日があるなあ。どうしたんだろう? 何かあったのかな?
女性ホルモンの影響で、身体がダルいのかも?
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女性には、ホルモンの変化でボーっとしてしまう時期があります。それは、子供を産むための身体の仕組みなのです。 ボーっとしてしまうのは、むやみに身体を動かさないため。匂いや音にも過敏に反応するのは、周囲から身を守るためです。(船津先生)
特性:黄体期は、イライラなど不安定になりやすい
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黄体期の女性の身体を一言で言えば、『手負いの熊』です。赤ちゃんがいることを想定するので、体をむやみに動かさないようボーっとなるのもホルモンの影響です。その反面、敵から身を守るために、音や匂い、自分の感情などには、普段より敏感になります。(船津先生)
支援策:鬱っぽい状態が、定期的にやってくる
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こういった心身の変化は、ホルモンのなせる業、本人としても、いかんともしがたいことを、まず理解していただきたいと思います。 男性に対しては、黄体期の女性の心身の状態を、『鬱っぽくなる状態が、定期的にやってくるのです』と、お伝えしています。仕事で失敗したり、嫌なことがあったりで鬱っぽい状態は、誰にでも経験がありますよね。その体感をイメージすることから始めましょう。(船津先生)
事例2 PMS(月経前症候群)が辛い子もいる
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忘れ物、失くし物最近、多くない?
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このところ、忘れ物や、失くし物が多いけれど、大丈夫?
本人が一番大変。優しい眼差しで
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忘れ物、失くし物は顕著ですし本人の自責感も高まります。そういう時期だという視点で接してほしいと思います。(船津先生)
生理に関する体調不良。女性なら我慢も必要では?
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「生理は、これからずっとあるもの。そんなことで休んでいたら、この先大変よ」と伝えていい?
養護教諭との連携も検討してみて
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「女性なら当たり前」と、放っておかないことが大切です。養護教諭が情報を持っていることも多いので、連携も検討してください。(船津先生)
特性:不登校やいざこざの背景に、PMSがあることも
「実は不登校や女子同士のいざこざの背景に、PMS(月経前症候群)があることはよくあります(船津先生)」。
PMSとは、黄体期に起こる不快な症状全般を指します。症状は、頭や腰が痛いといった身体的なものから、何となくイライラするといった精神的なものまで幅広くあります。
支援策:「我慢しなさい」ではなく困り感に寄り添う
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思春期相談士としてお伝えしたいのは、心身の不調に対して『我慢しなさい』ではなく、寄り添ってほしいということです。PMSの症状が重い場合は、小学生でも低用量ピルを処方するといった選択肢もあります。 思春期の女の子は摂食障害になりやすく、摂食障害の5年後の死亡率は初期の胃がんよりも高いのです。この時期の女の子は、とりわけ注意をして見守ってあげてください。(船津先生)
事例3 発達障害があると大変さは倍増
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実は、本人が一人で抱え込んでいるかも
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女子は、表面上「ちゃんとしたい」感が強いですね。一人で抱えこんでいるかも。
子供が学校で「過適応」をしていませんか?
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過適応していないか、頑張りすぎていないか、時々、目配りしてあげるだけでも全然違います。(船津先生)
保護者の方が考えすぎなのでは?
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学校では、ごく普通。もしかして保護者の方は、考えすぎなんじゃないの?
早い段階で、サインをキャッチしてあげたい
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サインのキャッチが早ければ早いほど、その子の生きづらさは軽減されます。少し注意してあげてほしいですね。(船津先生)
特性:発達障害傾向がある子は、特性が炙り出される時期
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病院に来るほど生理が辛いと訴える子の中には、発達障害の特性がある子も多いです。ASDタイプに多い想像力の欠如、突然の変化に弱いという特徴がベースにあるとホルモン変化の波は、さざ波ではなく大波に感じられるのでしょう。またADHDタイプは覚醒の悪さや不注意が倍増されることもあります。学校では我慢して過剰適応になっているストレスが、家庭内暴力につながることもよくあります。(船津先生)
支援策:第三者の先生が「ダメじゃないよ」と伝える
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本人と保護者だけだと、『何でうちだけ』とこもってしまいがちです。そんな時こそ、『ダメじゃないよ』と第三者の先生が伝えてあげてほしいのです。女性ホルモンの動きをグラフで見せて、生理や精神的に落ち込む時期を視覚的に理解すると安心する子もいます。(船津先生)
〈監修者プロフィール〉
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高山恵子さん:NPO法人えじそんくらぶ代表『特性とともに幸せに生きる 高山恵子著/岩崎学術出版』など著書多数。診断名にこだわらず、その子の特性を理解し、一緒にうまくいく方法を考える指導を実践・提唱中。
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船津裕子さん:思春期相談士・婦人科薬剤師。思春期の子供たちへの適切な支援の必要性を感じ、思春期に特化した相談室を開設、女性の特性についての啓蒙活動も行っている。
取材・文/楢戸ひかる イラスト/畠山きょうこ
『教育技術 小五小六』2019年9月号より