リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #10 あえて「分かりにくい」写真で|小林雅哉先生(北海道公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促していく……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第10回は、小林雅哉先生のご執筆でお届けします。
執筆/北海道室蘭市立地球岬小学校教諭・小林雅哉
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
はじめに
私自身、一つの場面、一枚の写真、一つの言葉を「じっくり味わう」ということが、少なくなっているような気がします。どんな情報も、「すぐに/たくさん/いろいろと」手に入る時代だからかもしれません。だからこそ、今回お話をいただいた、この「一枚画像道徳」は、とても面白い企画だと思いました。
「すぐに/たくさん/いろいろと」情報を集め、提示すると、学習者にとっては分かりやすいかもしれません。しかし、その「分かりやすさ」は、学習者の当事者性、主体性を減少させ、受け身にしてしまうという側面もあるのではないかと考えています。
自己紹介が遅れました。
北海道で公立小学校教員をしています、小林雅哉と申します。
少し前から、登山を始めました。あるとき、登山の途中に、ボランティアで登山道の整備を行っている山岳会の方と出会いました。毎年、何十年もこの活動を続けているということでした。
言われてみれば、誰かが草刈りをして整備してくれているのは一目瞭然なのですが、恥ずかしいことに私自身、その光景を見るまでは考えもしていなかったのです。
このことを授業にして、子供たちに伝えたいなあと思い、たくさん写真を撮らせていただきました。私が感じた「感謝」の気持ちや、感動は、「一生懸命作業をしている人たちの写真」を見せた方が、分かりやすく伝わるかもしれません。
しかし今回使う写真は、「もっと『分かりやすい』写真もあっただろうなあ」と思いつつ、あえて選んだやや「分かりにくい」一枚です。
1 「一枚画像道徳」の実践例
対象:小学5年
主題名:感謝の心をもって
内容項目:B-8 感謝
以下の写真を提示します。
発問1 写真を見て、分かったこと、気付いたこと、思ったことを出してください
●山の頂上だ。
●ホロホロ山という山。
●1322.4mって書いてある。結構高い。
●北海道自然100選の山と書いてあるから、有名。
●先生が登った山でしょ?
●手前に機械が置いてある ➡ 草を刈るやつだ。
●ここまで機械を持ってきた。
写真から、いろいろな情報を見つけたことをほめた後、次のことを説明しました。
●私が登った山で撮った写真であること
●手前にある機械は草刈り機で、登山道の笹を刈ってくれていたこと
●「山岳会」の人たちが、ボランティアで登山道整備をしてくれていたこと
子供たちは、地域の自然についての学習で登山を経験しています。その際、整備された登山道を歩いていたので、そのことを想起させます。
「自分たちが歩いた道も、誰かが整備してくれていたんだな」と気付く子がいました。「階段のようなところもあったよね」と、思い出す子もいました。
また、児童が登ったのはこれよりも標高の低い山だったことを話題に挙げると、「低い山でも汗だくだったのに、この高さまで作業しながら登るのは大変だね」「草刈り機は重そうだよね」という声も挙がりました。
山岳会の方に聞いたところ、燃料を入れた草刈り機は6㎏以上の重さになるそうです。そのことを子供たちに伝えたら、「それは無理だわ~。」などの声が挙がりました。
草刈りをしている人が写った写真もあったのですが、あえて「頂上に草刈り機が置いてある写真」にすることで、そこまでの過程を想像させたいという意図がありました。自分たちの経験と結び付けながら、子供たちはよく考えてくれたと思います。かなり大変な活動であることも、理解できたようです。
一通り、意見が出尽くしたところで、山岳会がこの大変な作業を、ボランティアで何十年も続けているということを子供たちに伝えました。
発問2 「山岳会の人たちは、( )を願って、何十年もこの活動を続けてきた」( )にどんな言葉を入れますか?
子供たちは、次のような言葉を入れていました。
●みんなが楽しんでくれること
●安全
●山がきれいになること
●登った人の笑顔
●みんなが山を好きになってくれること
●北海道でナンバーワンの山になってもらいたい
子供たちの振り返りを見ると、「ボランティアで、何十年も登山道を守ってくれていることがすごいと思った」「登山をする人を楽しませるために、大変な作業を続けていることが、すばらしいと思った」「登山をするとき、山岳会の人が草刈りなどをしてくれたことに感謝したい」などの考えが出されていました。
「登山」という、子供たちの生活にはあまり身近ではない材ではありましたが、地域の大切なものを守っていこうと活動している人たちへの感謝の気持ちをもつきっかけにはなったのではないかと考えます。
2 他教科等とのつながり
5年生の宿泊的行事では、自然体験学習を行っています。登山、森や川での活動などがプログラムに組み込まれています。また、それと関連させる形で、総合的な学習の時間で地域の自然や環境問題についての学習を行っています。
自然や環境についての学習で子供たちに課題設定をさせると、「絶滅危惧種がいる」「まちにごみが落ちている」「工場があるから、環境が悪化するのではないか」など、マイナス面に注目する傾向があるように思います。(筆者の経験則ではありますが)
問題点がたくさんあることは否定しませんが、「地域やまちの発展のために活動している人たちによって、良くなっていること/維持されていること」もたくさんあります。これから進めていく学習では、この「一枚画像道徳」をきっかけとして、そういったプラス面にも注目させていきたいと考えています。
結びに
スライドをパンパンと切り替えながら、子供たちに説明することに慣れてしまっている自分がいます。今回、一枚の写真を子供たちとじっくり見て話をしましたが、「こういうの、やっぱり楽しいな」と思う自分も発見することができました。
第11回目は、一体どんな写真なのでしょう。私も読者の一人として、じっくり味わうのを楽しみにしたいと思っています。
リレー連載「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?