心の病を抱えた家族に囲まれたきょうだいの行方は<前編>~スクールソーシャルワーカー日誌 僕は学校の遊撃手 リローデッド⑤~


虐待、貧困、毒親、不登校──様々な問題を抱える子供が、今日も学校に通ってきます。スクールソーシャルワーカーとして、福岡県1市4町の小中学校を担当している野中勝治さん。問題を抱える家庭と学校、協力機関をつなぎ、子供にとって最善の方策を模索するエキスパートが見た、“子供たちの現実”を伝えていきます。

Profile
のなか・かつじ。1981年、福岡県生まれ。社会福祉士、精神保健福祉士。高校中退後、大検を経て大学、福岡県立大学大学院へ進学し、臨床心理学、社会福祉学を学ぶ。同県の児童相談所勤務を経て、2008年度からスクールソーシャルワーカーに。現在、同県の1市4町教育委員会から委託を受けている。一般社団法人Center of the Field 代表理事。
夫婦げんかで包丁を振り回す
「昨夜、林さん宅の亜紀さんと晴也君が一時保護されました」
児童相談所から連絡を受けた私は、すぐにふたりが預けられた一時保護所に向かいました。
ふたりに面会すると、小学1年生の晴也君がぼそっとひと言、「母ちゃんが、昨日また包丁を振り回したけ、警察が来た……」。
<また包丁振り回したんか……>
両親が落ち着くまでここで暮らすことをふたりに説明し、私は1年ぶりに林家に向かいました。
林家は、2DKの公営団地に、父母と子供ふたりの4人暮らし。1年前までは、長女と祖母をあわせて6人が暮らしていました。
家の中は相変わらずの汚部屋で、骨組みだけ残したふすま、6畳間に何組もの布団がぐちゃぐちゃに敷きっぱなし、物があふれて足の踏み場もない状態です。父母は部屋の隅に、まるで仏像のようにひっそりと座っていました。
ふたりに事情を聞くと、夫婦げんかで激高した母親が再び包丁を振り回したようです。
「何でまた包丁振り回したん? 病院から処方してもらった薬をちゃんと飲んでないん?」と私が尋ねると、「忘れた」と抑揚のない声が返ってきました。
私は、身の安全を確保するために子供ふたりが一時保護所に保護されたことを伝え、夫婦ふたりに生活改善の必要性を訴えました。今までも何度かホームヘルパーや訪問看護師の受け入れを勧めてきたのですが、「知らん人を家に入れるのはいやだ」と頑なに拒んだため、薬の管理は本人に委ねられていました。
「自分で管理するのはやっぱり難しいけ、いろいろなサポートを受けて生活を立て直していこう。このままじゃ子供たちは家に戻ってこられないよ。子供たちが帰ってこられるよう頑張ろう」
私がそう話すと、ふたりともうなずきました。
その後、訪問看護師が入り、ふたりで精神科デイケアにも通うようになりました。