「意識改革が必要」って簡単に言うな!【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第8回】
学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。
執筆/教育研究家・合同会社ライフ&ワーク代表 妹尾昌俊
目次
「意識改革が必要だ」で満足してはいけない
学校の働き方改革や業務改善のアイデアについて、教育委員会や校長等からよく聞くのは、「教師の意識改革が必要だ」という話だ。私も参加していた中教審の部会でも、そうおっしゃる有識者はかなりいた。
実のところ、私はそういう言い方は好きではない。次のような疑問が浮かぶからだ。
●意識改革ってどんなことをイメージしていますか? ちゃんと具体的なところまで考えておっしゃっていますよね?
●以前から度々意識改革の必要性は叫ばれてきたのに、うまくいっていないとすれば、なぜですか? その反省を踏まえた提案が必要なのではないですか?
●結局個々の教師の責任が重いと言って、意地悪く解釈するならば、あなた方(教委や校長等)の責任逃れ、あるいは当事者意識の薄さが発露された言葉ではないですか?
これに限らないが、学校や教育行政には、抽象的な言葉でごまかす、煙に巻くような場面は少なくない。“校長のリーダーシップが大切だ”とか“教職員が力を合わせて取り組まなければならない”なども同様である。子どもたちに期待しているように、私たちも思考力等を高めて、もっと深く考察しなければならない。
「時間対効果」を高めよう
意識改革と言っても、さまざまなものがあると思うが、私が研修などでよく提案しているのは、「時間対効果」を高めていこうということである。一般的には「生産性」ということだが、教育業界にはこの言葉に拒否反応を示す人もいるので、「時間対効果」と申し上げている。
例えば、あなたの知る授業研究や研究大会はどうだろうか。授業者・発表者ともなれば、徹夜覚悟で準備を進める。あるいは大きな大会であれば、1か月も2か月も前から指導案を何度も書きなおす。そういった経験もあることだろう。
そういうとびきりの授業を観て検討する機会は確かに有意義だと思う。だが、いつもこれでは困る、と思う。
と言うのは、45分や50分のひとつの授業で5時間も10時間も準備にかけられるゆとりは、全国どこの教師にもほとんどない。それよりも、現場で実践・応用可能なのは、15分や30分の準備でもある程度しっかりとした授業ができるようになることではないか。だとすると、授業研究などは、どれだけよい授業ができたかとか、こうすればもっとよい授業になるといった「効果」の側面だけの検討では不十分である。
私はよくこう申し上げている。
「公開授業では、指導案や授業の公開だけでなく、準備にかかった時間も公開してほしい。」
時間で割り算をするという発想をときにはもってほしい。もちろん教育はそう割り切れないことも多いのは事実だ。例えば、読字障がいのある子に時間をかけて指導・支援して、やっと書けるようになった。これを生産性や時間対効果が悪いと評価するのは望ましくないだろう。
しかし、だからといって、時間や負担などを過小評価して、効果だけを見ようというのも極端だ。効果ばかり強調してきたから、これほど学校や教師の仕事がパンクしているのだ。先ほどの例の授業研究などはもっと時間対効果を高める工夫はできると思う。大学の附属学校等でレベルの高い授業を見せるのは大事だが、別の側面としては、生産性無視の学校文化を広げてしまっている。
なぜ、時間対効果を高めることが大事なのか
とはいえ、次のような反論、疑問もあることだろう。
●時間があるときは、しっかり時間をかけて準備したり、指導案等を検討したりすることは大事だ。
●特に若いうちは一度じっくり準備する経験が必要だ。
私もこうした意見に“半分は”賛成である。
確かに深く考えるにはある程度の時間がかかる。とりわけそういう経験や“思考体力”(考え続けられる力)がまだまだな若手ならなおさらだと思う(こうした問題は、本当は若手に限った話ではないけれど)。
しかし、私たちの時間は有限である。何かに時間をかける、かけたいのなら、別の何かはもっと減らすことをしなければいけない。
それに長い時間をかけているからといって、質が伴っているかはクエスチョンだ。これは企業等でもよく言われていることだが、「夜にじっくり検討して21時になった。さすがにそろそろ帰るか」と言って切り上げる。質が高まり納得のいく出来となったから切り上げるのではないケースが多々ある。それに科学的な知見でも、起床後12~13時間を経過した後は、集中力や生産性は落ちる。
あらゆることに時短、時短とばかりの発想では疲れるし、面白くないが、もっと時間対効果を高めようとしたほうが、浮いた時間を別の有意義なことに使えるし、育児・介護等を抱える人にとっても働きやすい職場になる。
時間対効果を高めて損なことはない。
『総合教育技術』2018年12月号に加筆
野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。