採点・添削は聖域か?【妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」第7回】

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妹尾昌俊の「半径3mからの“働き方改革”」
特集
小学校教員の「学校における働き方改革」特集!

学校の“働き方改革”進んでいますか? 変えなきゃいけないとはわかっていても、なかなか変われないのが学校という組織。だからこそ、教員一人ひとりのちょっとした意識づけ、習慣づけが大事になります。この連載では、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた妹尾昌俊さんが、「半径3m」の範囲からできる“働き方改革”のポイントを解説します。

執筆/教育研究家・合同会社ライフ&ワーク代表 妹尾昌俊

多忙の内訳を見よ

学校での働き方改革や業務改善というと、みなさん、どんな取り組みをイメージするだろうか? 私が全国各地の校長等からよく聞くのは、「会議を見直しました」という声だ。

もちろん会議の精選や効率化も進めてほしいが、これには重要な2つの見落としがある。

第一に、会議の見直し程度では、この過労死ライン超えが多数いる学校現場の時間を生み出すには不十分である、という事実。第二に、働き方改革が職場のコミュニケーションや協力関係を阻害するものではあってはならないということだ。つまり、必要性の薄い会議や非効率な進め方は改善するべきだが、なかには、もっと増やしたほうがよい会議や声がけもある。

そこで、各学校で(教育委員会等も)もっと注目してほしいのは、多忙の「内訳」である。おそらく会議以外にもたくさんの時間を使っている業務はある。典型的なのは部活動だが、それ以外もある。人にもよるし、学校の置かれている状況にもよるが、あなたの学校ではどうだろうか。「忙しい、忙しい」と言うわりには、その内訳をちゃんと見ているだろうか。

丸付け、コメント書きは最後のとりで?

朝日新聞(2018年6月10日)にある公立小学校教諭の声が紹介されていた。

昼に給食をかきこむように食べると、すぐ教室で宿題の丸つけです。「堂々としたいい字だね」などと全員のノートにコメントも書き添えます。「ちゃんと見ているよと伝えたい」。新任の時から続けている「最後のとりでみたいなもの」です。

出典:朝日新聞2018年6月10日

この先生にかぎらず、宿題、テスト、その他提出物のチェックや採点に時間をかけている教師は多い。国の教員勤務実態調査(2016年実施)によると、週60時間以上勤務している教諭(つまり、過労死ラインを超えていると思われる人)の平日1日のうち、成績処理、試験の作成・採点、提出物確認等にかけているのは、小学校で41分、中学校で43分であり、それぞれ1日に占める比重は約5.6%、約5.9%である。

これは学校行事などと並んで、かなり比重の重いほうである。平均的な姿としては、会議などよりも、コメント書きや採点に先生は時間をかけている。教師にとって負担感が強いといつも言われる事務作業も、成績処理関連に比べると短時間である。

しかし、コメント書きや採点について、働き方改革でメスを入れようという声はあまり聞こえてこない。それは、新聞記事で紹介されていたように、教師にとって忙しくても減らすべきではない「最後のとりで」、聖域であり、子どもと向かう大切な時間と見なされているからだろう。とりわけ、小学校においては、きめ細かくケアすることが重要視、当然視されている。

ICTが本当に必要なのは校務だけでなく、採点・添削

本当にこのままでいいのだろうか。仮に、教師に時間が十分あるなら、また生活にゆとりがあるなら、コメント書きなどをじっくりやるのもよいだろう。だが、現実にはその反対である。過酷な状況にあるのだから、コメント書きなどは必要なものに限って、減らすとともに、採点・集計作業を教師以外にやってもらえるなら、任せたほうがよい。

減らす方法としては、たとえば、授業中に児童生徒同士でチェックし学び合ったり、コメントを書かなくても授業中に口頭でフォローしたりしてもよい。また、教師以外に任せる方法としては、採点の一部をスクール・サポート・スタッフや支援員にお願いしている学校もある。

それから、働き方改革でのICT活用というと、校務支援システム導入のほうに注目しがちだが、実際には、採点や集計の一部をコンピュータやAIにしてもらうほうが多くの時間が浮くケースもあると思う。

例えば、手書きのテスト結果をスキャンして、パソコン上で同じ設問ごとに一覧表を示して丸付けができるサービスや、採点結果を読み込んで自動集計する商品もある。また、読み込んだデータをもとに採点をほぼ丸ごと外注できるサービスも。それから、文字認識や画像認識などの技術も発達しているので、コンピュータによる自動採点も相当できるようになっているようだ。

驚いたのは英語学習だ。たとえば、“I’m from Australia.”とパソコンに話しかけてみると、自分の発音のよくないところをチェックしてくれる。また、“Where are you from?”のような、ある程度オープンクエスチョンへの回答(答えは複数ある場合)であっても、かなり正確に文法・構文と発音をチェックしてくれる。

つまり、技術的にはICTで採点や一部のコメント出しは十分にできる時代だ。ひとりの教師がやるよりも、はるかにすばやく、かつ個々の児童生徒の進捗や弱点等に応じてきめ細やかに。あとは予算の問題だろうと思う。

教師にとって優先順位が高いのは、コメント書きや採点ではなく、採点された結果を見て、多少の考察と分析を行い、次の授業等に活かしていくということのほうではないか。長時間労働で作業に埋もれ、そうしたクリエイティブに思考できる時間が取れていないとすれば、それこそ、「最後のとりで」が危なくなっている。

『総合教育技術』2018年11月号に加筆

野村総合研究所を経て独立。教職員向け研修などを手がけ、中教審・働き方改革特別部会委員などを務めた。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』『学校をおもしろくする思考法』(以上、学事出版)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、最新著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP研究所)がある。

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