【木村泰子の「学びは楽しい」#4】子どもが学ぶ 子ども同士が学び合う授業
雑誌「教育技術」の人気連載「学びは楽しい」が、2022年度よりウェブ版としてリニューアル、再スタートしました! 映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長、木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスします。今回は、「教育の神様」の授業の思い出から、「子どもが学ぶ 子ども同士が学び合う」授業について考えます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
「学び方」を教えること
「知識を教える」ことと「学び方を教える」ことの違いを授業の中で試してみましたか?
私には、これまでの教員生活の中で、今も超えることができない授業があります。前回お伝えした、教育実習で目の当たりにした「教育の神様」と呼ばれていた先生の道徳の授業です。
その日はおそらく授業研究の日だったと思うのですが、多くの先生たちが参観されていました。今もくっきりと覚えています。
先生は教室に入ってくるなり、一言も語らずに、わら半紙を何枚も重ねてひたすら折り始めました。次にこの紙を細かく切り始めたのです。そして、教卓の上にその小さく切り刻んだ紙を山のように積みました。
子どもたちは黙って先生のしていることを見ていました。その時、先生はその小さく切った紙を、紙吹雪のように子どもたちのほうにぶわーっと撒いたのです。
その様子を見て(えっ、この先生おかしい…)と思ってしまったことを昨日のことのように覚えています。
ところが、子どもたちはだれも声を出さないし、いつもの自然な表情です。そこで、初めて先生が「掃除してくれる?」と問いかけました。その瞬間、子どもたちはほうきを持ったり、ちりとりを持ったり、下敷きを使ったりなど、それぞれの方法で拾い集め、数えきれないほど散らばっていた紙吹雪は1分もかからない間に1枚残らずゴミ箱の中に捨てられました。
すると、先生は「ありがとう。掃除の時間はどうして今のようにできないのだろう」と、本時の問いを出されたのです。
この先生が子どもたちに語られたのはこれだけでした。この後は子どもたちがそれぞれに出された問いに向き合って自分の考えを伝え合っていました。これだけの授業です。
ところが、その日から掃除の時間の子どもたちの行動は、これまでとはまるで違ったのです。
この45分の授業の中で先生が話した言葉はたったの3つです。
・掃除してくれる?
・ありがとう
・掃除の時間はどうして今のようにできないのだろう
みなさん、この先生の授業を想像できますか?
「同じ指導案」でも子どもが違う
この授業を目にした日からすでに50年が過ぎているにもかかわらず、私の中には鮮明にこの授業の先生と子どもたちの事実が残っています。
中学校の体育の教員になるために体育の授業ばかり学んでいた私が、突然、想定外だった小学校の現場に赴任したのです。小学校の授業は、この教育実習の先生の授業しか見たことも勉強したこともなかった私には、ただただ、教育実習の2週間の授業記録を見ながら真似をするしかすべがありませんでした。
算数や国語の教科は課題とまとめがブレなければ何とかなりました。ところが、道徳の授業は散々でした。
掃除の時間にトラブルばかり起きてしまっていたある日、この道徳の授業をそのまま真似てやりました。
教室に入ってきて、何も言わずにわら半紙を集めて折り始めました。予定では子どもたちは黙って見ているはずが、口々に「何してるの?」と声を出しています。その様子にめげないで、紙吹雪を作り始めました。
「先生、どうしたん。何するの?」と声は続きます。そこもこらえて、私は何も言わずぷわーと紙吹雪を撒きました。子どもたちはもうびっくりしてしまって、「わぁ!……」と驚きの頂点に達していました。そこで、「掃除してくれる?」と初めて言葉を発しました。
予定では一瞬で子どもたちがそれぞれに行動するはずでした。ところが、予測とはまるで違って、「先生が自分でやったのに、先生が片付けや!」と子どもの声が返ってきました。予定では子どもたちがさっさと掃除をするはずだったのに、私は「???」で困り果てました。
今から思えば、この日の大失敗が授業づくりのスタートだった気がします。同じシナリオなのに、「教育の神様」と私の違いは何かを問い続けました。同じ指導案で3つの発言は変わらないのに、子どもの事実は全く違うのですから。
「学び方」を教えられていない子どもたち
教育実習の2週間は見えるところしか見ていなかったのです。見えないところを見ようとしていなかった自分に気付くには時間がかかりました。教えられることに慣れている子どもと、自分が学ぶ子どもとの違いに気付いたときは、何度も何度もやり直しをしました。
先生が教えてくれることが当たり前だと思っている子どもはうまく教えてくれないことやわからないことがあるのは先生のせいにします。反対に、学ぶのは自分だと納得して行動する子どもは、人のせいにはしません。
「子どもが学ぶ 子ども同士が学び合う授業」のチャレンジはここからでした。先生が教えるのは、いかにして学ぶかの「学び方」で、「わかった!」「できた!」の楽しさは、子どもが獲得したものでなければ、「次もチャレンジしよう!」と思いませんよね。きっと読者のみなさんは「学び方って?」と新たな問いがわいてきたのではないでしょうか。探求してみませんか。
「学び方」を教えられている子どもは、教師のたった3つの言葉で自ら学ぶ。「子どもが学ぶ 子ども同士が学び合う授業」を実現するために、「学び方」について探求していこう。
※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。
きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。