小3体育「水泳運動」指導アイデア
執筆/埼玉大学教育学部附属小学校教諭・首藤祐太朗
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・塩見英樹、埼玉県教育委員会主任指導主事・河野裕一
目次
授業づくりのポイント
中学年の水泳運動は、「浮いて進む運動」及び「もぐる・浮く運動」で構成されています。水に浮いて進んだり、呼吸したり、さまざまな方法で水にもぐったり浮いたりする楽しさや喜びに触れることができる運動です。
水泳運動で最も大切なことは、安全に十分配慮し、子供が安心して運動に取り組めることです。新型コロナウイルス感染症の影響で、昨年度水泳運動が実施できていない学校も多くあることと思います。まずは、子供が安心して、水泳運動を楽しむことから始めましょう。そのために、まずは水泳運動の心得を守れるようにきまりを確認していきます。子供が安心して取り組むことができる環境のなかで、け伸びや初歩的な泳ぎ、もぐる・浮くことなどの基本的な動きや技能を身に付けられるようにしましょう。
水泳運動は、技能の差が大きくなりやすい運動です。単元の前半では一つ一つの動きをていねいに確認していきましょう。単元後半には、運動を楽しく行うために見付けた自己の課題の解決を図れるようにしていきます。そして、自分に合った場を選び、活動を工夫するとともに、友達と仲よく運動をしたり、安全に気を付けたりしながら取り組めるようにしましょう。
※初歩的な泳ぎとは、呼吸しながらのばた足泳ぎやかえる足泳ぎなど、近代泳法の前段階となる泳ぎのことです。
水泳運動では、バディシステムや子供どうしの学び合いを活用することで、効果的な指導が期待できます。しかし、感染症拡大防止の観点から、本実践では教師の見とりと声かけを中心に学習を進める計画としています。
単元計画(例)
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、授業前後の手洗いを徹底しましょう。更衣室やシャワーは密になりやすく工夫が必要です。人数を少なくできるように時間をずらす、場所を変えて着替えをするなど、学校の利用できる施設に合わせて工夫をしていきましょう。
楽しむ① オリエンテーションを充実させ、安心して運動に取り組めるようにしよう
水泳運動においてオリエンテーションの時間は、安全に楽しく学習を進めるためにとても重要な時間です。子供に指導する内容を精選し、きまりや学習の進め方が確実に理解できてから泳ぎ始めるようにします。
また、低学年の水遊びの学習を終え、水泳運動の入門期にあたる三年生の学習では、何よりも楽しみながら取り組むことが大切です。
そのために、学習のなかにゲーム要素を意図的に取り入れ、夢中になって水泳運動に取り組むことで、結果として、これからの泳ぎの基本となるけ伸びや全身の力を抜いて浮くこと、呼吸をしながらのばた足やかえる足泳ぎが自然と身に付くようにしていきます。
オリエンテーションで確認することの例
オリエンテーションでは、きまりや学習の進め方などをしっかりと確認します。そうすることで、安全かつ効率的に授業を進めることができるようになります。

《リーダー》全体に指示を出します。全体を見渡せる位置にいるようにしましょう。
《フォロワー》水泳運動が苦手な子供など、個の対応を行う役割です。子供は一緒に水に入ってくれる教師がいると、安心して運動をすることができます。
子供と確認していくきまりの例
①リーダー(教師)が話をする場所を確認します。そこにリーダーが立ったときには、必ず全員が話を聞くことを確認します。水泳運動は子供への声が通りにくいため、このきまりは命を守る大切なきまりになります。
②「あいさつ⇒水慣れ⇒今日の目標の確認⇒主運動⇒ふり返り」など、学習の流れを毎時間変えることなく進めることで、教師、子供ともに何をする時間なのかを把握して学習を進めることができます。
け伸びや初歩的な泳ぎ、もぐる・浮くことなどの基本的な動きや技能を身に付ける運動の例
もぐる・浮く
●くらげ浮き
●だるま浮き
●大の字浮き
●背浮き
浮く動きは、「脱力」がポイントです。子供がいろいろな姿勢で浮くことを経験できるように、フォロワーの教師が近くで支えたり、ヘルパーなどの補助具を積極的に活用したりしていきましょう。
け伸び
頭を下げて、おへそを見ると進むよ。速さよりもきれいな形で進むことが大切だよ。

け伸びはすべての泳ぎの基本となります。頭を下げ、体が一直線になるようにしましょう。また、自分の動きは見えないので、一人ひとりに「OK」や「おへそを見よう」「頭を下げよう」と声をかけましょう。
初歩的な泳ぎ
●ばた足泳ぎ
●かえる足泳ぎ
息継ぎのときには、「ンーーッパァ」と声を出すと、息を吸いやすいよ。

ばた足は、膝ではなく太ももから動かすようにしましょう。かえる足は、動き方が分からない子供も多いので、プールサイドで足の形を練習してから、ビート板やヘルパーを使っての足の練習を行い、次に手の動きを入れるなど、一つずつ確認をしていきましょう。
楽しむ② 課題に合ったコースを選び、課題を改善できるようにしよう
単元後半では、単元前半の学習を基に、自己の能力に適した課題を見付け、その課題を解決していくことをめざします。自己の課題がうまく見付けられない子供には、教師からの声かけを積極的に行いましょう。子供の動きに対して、その場ですぐに声かけをすることで、子供は「け伸びはできるんだな」「かえる足はもう少し練習したほうがいいんだな」と、自己の課題を適切に見付けることができるようになります。
自己の課題を捉えることができた子供については、課題解決のために設定した場を自分で選ぶようにすることで、効果的に学習を進められるようにします。子供が自分で選んだことに対して、「今日できるようになりたいことは何? よく考えているね」など、理由や根拠を明らかにし、認める声かけを繰り返すことにより、主体的に学習に取り組む姿勢も涵養していきましょう。
課題を見付けられる声かけの例
導入場面での声かけ
子供への声かけは、学習の段階によって使い分けることが効果的です。学習の導入場面では、「今日の授業では何ができるようになりたいの」「記録会で何メートル泳げるようになりたいの」といった目標について確認をする声かけを多くしていきましょう。
活動場面での声かけ
運動を行っている場面では、「け伸びのときに、頭が出てしまっているよ、おへそを見てみよう」「ばた足は、太ももから動かせるともっとよくなるよ」など、できるだけ多くの子供に、動きの直後に声かけをしていきましょう。動きに対しての声かけは、自分の課題を適切に見付けることにつながります。子供たちは自分のことを見てほしいという欲求がたくさんあります。声をかけきれない場合には手でOKサインを出すだけでも、動きに対するフィードバックになり、効果的です。
ふり返りの場面での声かけ

毎時間の最後に設定している記録会やふり返りの時間では、「今日は、目標を達成できた」「なぜ目標を達成できたの」と、目標に対する声かけをしましょう。
そうすることで、今日の学習が効果的であったか、また次回の授業では何を改善していけばよいかを考えることにつながります。
課題の解決のための場の工夫
水泳運動は、技能の差が見られやすい運動です。単元の後半では、子供の能力に合った場を用意することで、効果的に指導をすることができます。場を用意する際は、リーダー(監視者)をプールサイドに一人配置し、それ以外の教師でコース別に指導をしましょう。リーダー(監視者)は適宜交代し、集中して監視ができるようにするなど、安全面を徹底することが大切です。
ばた足とかえる足を同時に行う場の例

かえる足を中心に行う場の例

場を設定するときに大切なことは、子供の実態に合わせることと、何を身に付けることができるようにするのかをはっきりとさせることです。何を学ぶ場所なのかを明確にすることで、子供は自分の課題に合った場を選ぶことができます。課題が解決できたら、ほかの場へ移動することができるようにし、課題に合った解決方法を適切に選ぶ力を育てられるようにしましょう。
イラスト/高橋正輝、横井智美
『教育技術 小三小四』2021年6/7月号より