子供に任せ、トライ&エラーで力を伸ばす【楽しい学校をつくる特別活動~研究発表会のあり方②】

第2回目の今回は、特別活動での子供に任せるポイントを紹介します。単行本『楽しい学校をつくる特別活動~すべての教師に伝えたいこと~』(小社刊)の発刊を記念して、執筆者の1人である尚絅大学平野修教授(前熊本市立帯山西小学校校長)に、特別活動や自主研究発表会のあり方等についてうかがいました(取材は2022年2月)。インタビューを2回に分けてお届けします。

平野先生インタビュートップ平野先生写真

※本記事は、2回連載の第2回目です。

第1回目の記事はこちらから

特別活動に一番大事なことは、子供に任せる姿勢

――特別活動を実施していくうえで、効果が見えにくいという状況があると思いますが、そのときはどのようにされますか。

平野 エビデンスと言うと数字的なものばかり言われていますが、そればかりではないと思います。特に特別活動のように数字として表しにくいものを無理して数値にだけにエビデンスを求めることは危険だとも感じています。例えば、写真やビデオを使って子供の表情の変化から変容を求めたり、子供へのインタビューや感想などから変容を図ったりすることも十分に効果を図るエビデンスとして有効だと感じています。

本校(熊本市立帯山西小学校)では、大分大学の長谷川祐介先生にお願いして、本校の研究に即した調査項目を作成していただき、共同で特別活動の実践における効果というものも探っていきました。様々な、角度から効果を図ることが大切な気がします。

――特別活動を実施するうえで、平野校長先生がもっとも心がけていることを教えてください。

平野 それは子供に任せることです。子供に任せるとは、ほうっておくというのではなく、先生とかかわりながら、一緒に作っていくということです。先生方は、指導者としての立場からきちんとしたものを子供たちに作らせようとします。そうなると、どうしても指導が強くなり、子供たちはさせられた感が強くなり、先生の言う通りにしておけばいいと感じてしまいます。結果、受動的になり学びにつながりません。表面的な見栄えや格好にこだわるのではなく、失敗したら失敗したで、次に何ができるか、トライアンドエラーで考えさせていくことが大切なのです。1つの活動を見栄えで成功させるのではなく、それを通して、どういう力を子供たちに付けていくのかというスタンスで見てほしいのです。

子供たちがやりたいようにやりたいことをやって、結果、どうだったのかを振り返る。うまくいったところはどこで、うまくいかなかったところはどこなのか。どうすればよかったのかを考え、次につなげていき、自分たちて活動を作り上げていくことを大事にしてほしいのです。

そのためには、先生たちには、どういう子供たちを育てるのか、どういうふうな子供たちにしたいのかということを、いつも念頭に置いていてほしいと思います。活動をするのが目的ではなくて、その活動を通して、どういう力を子供たちに付けるかというところが重要です。特別活動は非認知的な力を付けていくので、短期的に結果を求めるのは難しいのです。子供たちの変容を、長期的に見ることが重要です。

「うちの学校の子供たちは言われたことをするけれど、自分たちで考えないんだよね」という先生たちを見受けますが、そういうふうにしているのは、先生たちなのです。

本校も最初は、「子供たちはまじめで、言われたことはするけど、自分たちでやってくれない」という先生たちの声がものすごく多かったのです。しかし、今は、先生たちの子供に対する評価は全く違います。子供たちは自分たちで自主的に活動をやっていますし、それを先生たちは楽しんでいます。先生たちが楽しむという姿勢が大事です。特別活動は楽しまないといけません。

コロナ禍だからこそ人と人のつながる喜びを

――当分はコロナ時代が続きそうですが、コロナ時代に特別活動はどのような役割を担えばよいでしょうか。

平野 コロナ禍だからこそ、特別活動を大事にすべきだと思います。人と人がつながる、集団の社会のなかで個がどう生きていくかというのが、とてもわかりにくい社会になっています。社会の中で人はますます孤立化、個別化する傾向にあります。

人と人とがつながるよさとか、みんなと何かをする喜びとかを経験させる場を学校で与えないと、子供たちはこれから社会で生きていくことが難しいのではないでしょうか。その意味からも特別活動を大事にしていくことが必要です。これからの社会には、利己的な人間、他のことをあまり考えない人間が多くなっていくような気がします。そのような時代だからこそ、特別活動の役割はますます大きくなると感じています。

――学校行事の制限や中止のなかで、どのようなことがわかってきたのでしょうか。

平野 各学校で学校行事の意義を再認識する機会になったと思います。学校行事がなくなることによって学校行事がいかに大事だったのか、いかに子供たちの心を育てたのかということがわかったのではないでしょうか。特に校長は、そのことを強く感じていると思います。

コロナ禍が終わったときに行事のねらいをしっかりもって、実践してくれたらうれしいと思います。

行事も児童集会もなにもなければ、学校は楽しくないでしょう。それは大人も一緒です。このコロナ禍で先生同士も仕事以外の話をしないようになっています。雑談など、一見無駄に思える時間がいかに大事か、考えないといけません。

――特別活動を広めるために、今後どのような取り組みをしていけばよいと思われますか。

平野 若手の新職員が増えてきているので、若手の人材育成が大事です。集団作りができない人たちが多くなってきているため、そこに対する人材育成が大きな課題の1つです。学級経営や集団作りと関係付けながら、特別活動を考えていかないといけません。

人材を育てるためには、魅力ある学習会、研修会がかぎになります。私が開いている学習会は、熊本で月1回、オンラインで行っています。それを他県とつなげ、ネットワークを広げていくことで、若手の実践家の発表の場を確保したり、交流を深めたりすることも大事になってくると考えます。

――平野先生の特別活動の今後の目標を教えてください。

平野 特別活動に限りませんが、今、不安を感じているのは、学校はブラックだというイメージができていることです。メディアにはブラックばかりが出ているけれど、「学校は本当に素敵なところなんだよ」というメッセージを発信しないと、ブラックのイメージばかり先走りしてしまいます。今の教員の志願者の減少はこのことにあると思います。優秀な人材を集めるためにも、学校の楽しさ、子供と接することの楽しさをまずは伝えていきたいです。私は、学校現場で37年間教員をやっていて本当に楽しかったし、いろいろな子供たち、保護者、先生たちと出会い、関係が作れて幸せでした。特別活動の魅力とともに、学校の魅力を今後は発信続けたいと思っています。

プロフィール
平野 修(ひらのおさむ)
尚絅大学生活科学部栄養科学科教授 前熊本県熊本市立帯山西小学校校長
熊本県小学校特別活動研究会会長、小学校学習指導要領解説特別活動編作成協力者を務める。主な著書に、教育技術MOOK『まんがでわかる!学級経営と学級会』(小学館)など。

※本記事は、2回連載の第2回目です。

第1回目の記事はこちらから

取材・文・撮影・構成/浅原孝子

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特別活動

楽しい学校をつくるには、具体的にどうすればよいのか。コロナ禍の新しい学校生活様式を踏まえた、小学校での特別活動の基本が分かります。文部科学省の特別活動の安部恭子教科調査官と特別活動の実践家である小学校校長(平野修、清水弘美)による鼎談も見逃せません。

著/ 安部恭子 平野 修 清水弘美

四六判/240p ISBN978-4-09-840210-6

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