映画『風をつかまえた少年』で、学びの本質を考える

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学校にも行けず、食べるものもない。アフリカの貧しい地域での過酷な状況の中、14歳の少年が一冊の本と出会い、独学で作り上げた風力発電で飢饉から村を救い未来を切り開いた奇跡の実話を映画化した『風をつかまえた少年』が、2019年8月2日(金)に公開されました。私たち日本人が恵まれた環境の中で見失っている「学ぶことの意味」「人の幸せ」を改めて考えさせてくれる作品の紹介です。

映画『風をつかまえた少年』より
風力発電の風車を作る、主人公のウィリアム少年。 ~映画『風をつかまえた少年』より

想像を絶するほどの極限の貧困

舞台は2001年、アフリカでもっとも貧しい国と言われるマラウイで育った少年ウィリアム・カムクワンバは、農村のウィンベ村に生まれ、一家4人は農業で生計を立てながら暮らしていました。

しかし、マラウイを大干ばつが襲い、農産物が激減したことで収入が途絶えたことから、食べるものさえなくなってしまいました。このことにより、学費を払えなくなったウィリアムは中学校を退学になり、学校生活は突如終わりを迎えてしまいます。

飢餓や暴動の恐怖。学びたいのに学べない。そんな絶望的な毎日の中で、ウィリアムに転機が訪れます。それは、図書館で出会った風力発電の本でした。発電したポンプで井戸水をくみ上げ、畑に水をまけば、村を飢饉から救えるかもしれない。そこから、科学の奇跡に触れたウィリアムの未来を切り開く挑戦が始まっていきます。

14歳にしてこの苦労…。教育や衣食住に恵まれ、むしろ食品ロスが問題になっている日本では考えられない極限の生活苦です。それでも、諦めずに目標に向かって進んでいくウィリアムの姿はとても心に響きます。

生きるために学ぶ

風力発電に使う風車には、どうしても自転車のダイナモと車輪が必要でした。そこでウィリアムは父親のトライウェル・カムクワンバに自転車を使わせてほしいと相談します。しかし、無学だったトライウェルには、いくら説明しても風力発電のことは理解できません。ましてや唯一の移動手段である自転車を解体して使うと聞き、激怒したトライウェルと口論になってしまいます。

もし、マラウイに無償の学校教育があり、誰しもが教育を受けられる環境であったなら、トライウェルとウィリアム父子は理解し合え、生活苦の問題をもう少し早く解決していたことでしょうし、状況も少し違っていたかもしれません。さらに、農業の不安定さを解決する知恵と技術がありさえすれば、大干ばつによる飢饉に苦しむという現実さえ変えることができたかもしれません。

学びとは、生きていく上で直面する様々な問題を解決していくために必要なもの、自分と家族、共に生きる人の幸せを実現するためのものなのだと改めて強く感じさせられます。

父と子の絆、変化する関係

信頼の絆を取り戻した父と子 ~映画『風をつかまえた少年』より

重たいテーマなだけに、ここまで暗い話ばかりになってしまいましたが、この状況がもたらしたものは、決して悪いことだけではありませんでした。それは登場人物たちの関係の変化です。特にウィリアムと、父のトライウェルとの関係の変化は作中でもとても印象に残るシーンです。

大干ばつが襲ってからは、トライウェルは一家の大黒柱として家族を守ろうと食べ物も口にせず、一人で干からびた畑を耕し続けていました。空腹に加え、家族を守ることもできていない焦りから、ウィリアムの提案にも厳しく接してしまいます。しかし、妻、アグネス・カムクワンバの胸の奥に抱えていた思いを聞き、ウィリアムと向き合うことで、トライウェルは風力発電器づくりに同意し、ウィリアムに希望を託すことにします。

今まで守る対象であったウィリアムの確固たる熱意を見て、息子への深い愛情を信頼へと変えていく姿にとても心が揺さぶられます。

父子二人に限らず、作中では、信頼を欠く政治情勢や過酷な状況に翻弄される村の人々の心情など、様々な情景が描かれていますので、そちらにも是非、注目してみてください!

見どころは、本編ストーリーだけではない!?

出演俳優らの作品にかける努力にも、目を見張るものがあります。

舞台となったマラウイのウィンベ村ではチェワ語という言葉が使われています。そのため、マラウイ出身の俳優以外は皆、映画のためにチェワ語を習得して撮影に臨んだのです!

その中には、主人公ウィリアムを演じたマックスウェル・シンバも含まれています。彼は演技経験がまったくないなか主役に抜擢され、新しい言語まで習得して素晴らしい演技を披露しています(演技がとても自然で、新人俳優だとは、記者には全く思えませんでした)。

自己実現のためにものすごく勉強をし、結果を出す。これは学ぶこと、学べることが身近にある環境だからこそできることなのだと、この作品の表裏を通して私は感じました。

生きるため、幸せを追求するため、そして、自己を実現させるため、様々な方向から学びの重要性を教えてくれる映画『風をつかまえた少年』。教師は時として教育現場で辛い思いをし、教育にかける熱意を失いかけることもあるでしょう。そんなときは、ぜひこの映画を観て、教育の本質とその素晴らしさを実感し、希望をもって教育に携わる活力にしていただければと思います!

風をつかまえた少年
2019年8月2日(金) 千葉・東京・愛知・京都・大阪・兵庫・福岡ほかにて全国順次ロードショー
監督・脚本・演出:キウェイテル・イジョフォー
出演:マックスウェル・シンバ ほか
配給:ロングライド
https://longride.jp/kaze/
©2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA.LLC

取材・文/小椎八重咲

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