先生がいなくても大丈夫な学級を目指す、高学年二学期のリスタート
高学年では、「自治的な学級、自分たちだけで協力して課題を解決していける学級」を育てることが理想です。夏休み明けの二学期にはどのような指導イメージを描き、ロードマップを計画すべきなのでしょうか。「先生がいなくても大丈夫!」な学級を目指す、9月のリスタート後1 か月間の具体的な提案の紹介です。
執筆/北海道公立小学校教諭・大野睦仁
目次
スモールステップを踏んで自治的な学級をめざす
係が主催している週に1回の全員遊び。そこで、トラブルが発生。嫌な思いを持ちながら戻ってきた子がいる中、3時間目が始まろうとしている。
このような場面で、「先生がいなくても大丈夫!」な学級では、子供たちがどんな行動をとるでしょうか。
「全員遊びでトラブルがあったので、少し時間をもらえますか?」と言いに来て、自分たちで話合いを始める。
私の学級では、嫌な思いが生まれたトラブルに対しては、可能な限り、時間を置かずに解決する(方向性を見いだす)ようにしています。そのため、このような要求があれば、その場で時間をとるようにしています。
さて、子供たちがこのような行動をとれるようになると、「先生がいなくても大丈夫!」という自治的な学級に向かっていることを実感するはずです。
しかし、友達のトラブルに対して無関心であったり、そもそもそのトラブルを問題だと思わなかったりする集団であれば、嫌な思いはそのままで、解決しようとはなりません。
また、このような場面では、「自分たちで話し合うことが必要」「お願いをすれば、時間はとってもらえる」「自分たちで話し合うことが自分たちの力になる」というようなことを理解しているからこそ、このような行動が生まれます。
つまり、自治的な学級を目指していくためには、いくつかのステップが必要なのです。
自分たちで話合いを始めるようになっても、次のような場面が出てきます。
・話合いを始めるが、なかなか上手に解決できず、先生に助けを求める。
・話合いを進めるが、一部の子供を非難するような形になってしまう。
子供たちが、最初から上手に話し合ったり、解決したりすることは難しいものです。取り組む中でのつまずきや失敗に寄り添いながら、丁寧に、前に進むためのステップを考えていくことも必要です。
そうすることで、「どの子も自分事として考えて話合いが進み、未来志向の視点で解決できる」「このトラブルは、全体で話し合う必要があるものなのかどうかを判断できる」というような集団になっていけば、子供たちは、自信を持って「先生がいなくても大丈夫!」と言えるはずです。
自治的な学級に向かうための、6つの視点と2つの配慮
自治的な学級に向かうステップは、次の6つの視点をベースにして考えます。
□子供たちが問題意識を持ちながら生活できること。しようとしていること。
□一部の子供の問題(思い)を学級全体でも共有できること。
□自治的な学級になることを子供たちが望んでいること。あるいは、そのよさを理解/実感していること。
□教師自身が自治的な学級に対する具体的なイメージを持っていること。
□そのイメージとそこに向かうためのステップを、子供たちと共有していること。
□子供たち自身でも自治的な学級に対するイメージを持ち、そこに向かうためのステップを踏んでいけること。
これらの視点と、学級の現在の状態を照らし合わせて、どんなステップが必要なのかを考えていきます。
ただ、その中で配慮していかなければならないことがあります。
❶「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」
前述した6つの視点は、どの子も同じように踏むことができるステップではありません。どうしても、個人差が生まれてきてしまいます。
例えば、自分たちで話合いを進める時、司会的な役割を全員が担うのは難しい場合があります。あるいは解決案をなかなか出すことができなくて、話合いは、聞いているだけの時間が多い子もいるかもしれません。
しかし、自治的な学級で一番ベースになることは、「自分たちの学級は、自分たちのものであり、自分たちで創り上げていく」という意識を、子供たちが持っていることです。このことをまず子供たちと共有します。
そして、リーダーシップをとることも大切だけれど、それを支えるフォロワーシップも、同じように大切だと伝えます。
司会の人を支えるためにも、話をしっかり聞いたり、たくさん意見を出したりすること。友達が出した解決策が本当によいかを考えたりすること。こうしたフォロワーシップをとれる人もいるからこそ、「先生がいなくても大丈夫!」なクラスになっていくと伝えることが大切です。
❷「信頼すること」と「アンテナを張ること」
トラブルがあり、子供たちは、次のような行動をとりました。理想の一つだと言えます。
昼休みに、関係する子供だけで自主的に集まって話し合い、解決した。学級全体に伝える必要はないという判断もした。
しかし、後日、関係した子供の保護者から、「○○というようなトラブルがあったことを知っていますか? 娘は、あまり納得していないようなのですが……」と伝えられました。小さなトラブルではありませんでした。それなのに、私はそのことを知らなかったのです。子供たちが自主的に話し合い、解決をしていたからです。
自治的な学級に向かうために、子供たちを信頼し任せることはとても大切です。しかし、一方で子供たちの様子や状況をつかむために、アンテナをしっかり張ることも大切なのです。
9月のリスタート 最初の1週間で意識したいこと
二学期リスタート。子供たちに次の言葉を投げかけます。
自分たちの教室は自分たちで創る。
「『自分たち』とは誰か?」
「『作る』ではなく『創る』。その意味は?」
「『創ろう』ではなく、『創る』にしていることの意味は?」
「なぜ『自分たちで創る』のか?」
これらの問いも子供たちに投げかけ、二学期から目指したいことを共有します。
・みんなが頑張ってきた一学期の積み重ねがあるからこそ、挑戦できること。
・挑戦することで付く力があること。
・長い二学期だからこそ、何度も挑戦し直すことができるということ。
・「先生がいなくても大丈夫!」と言える、最終的なゴールイメージが大切なこと。
これらのことも一緒に伝えながら、丁寧にステップを踏んでいきます。
❶自分たちの教室だと実感する
先の言葉の中で、自治的な学級をイメージする言葉は、「自分たちで創る」という言葉です。
しかし、その前にまずは、子供たちが「自分たちの教室は、自分たちのものだ」という思いを持つことが大切です。
子供たちは、教室が自分の「居場所」だとは思っていても、自分たちで創り上げられる、自分たちのものだとは、あまり思っていません。「ここは自分たちの教室だ」と実感しているからこそ、「自分たちで創る」という思い、行動につながっていきます。
❷自分たちで進められることを見付ける
登校してから下校までの中で、今まで先生が進めていたけれど、自分たちで進められることはないか。という視点で、自分たちの生活を振り返ってもらいます。
例えば、朝の健康観察や毎時間の授業開始時にやっている復習クイズ、給食のおかわりの配膳など、自分たちでやれること、やれそうなことを見付けていきます。見付かれば、どんどん子供たちに任せてやってみる1週間にします。
自分たちで進めているという実感は、とても大切ですが、担任がすべきことまで、子供たちに任せないようにします。
❸自分の教室を変えていく
一学期から取り組んできたことや、教室環境についても振り返ります。
例えば、朝の会や帰りの会のメニュー。変えた方がいいメニューや、新たに付け加えるといいメニューはないか。給食の配膳や掃除のやり方で改善した方がいいところはないか。
教室にこんなものが置いてあったり、こんなコーナーがあったりするとよいのではないか。カラーペンが使いづらいから使いやすいようにした方がよいのではないか。
こうした子供たちの振り返りを基に、変えていけるところを子供たち自身が変えていくようにします。
ただ、こうした取組は、とても時間のかかることです。二学期リスタートの1週間でできることは限られています。
大事なことは、「自分たちの教室(のこと)は、変えていける」という実感から、「ここは、自分たちの教室だ」「自分たちの教室は自分たちで創り上げる」という実感につなげていくことです。取り組むものを精選し、この1週間で取り上げられなかったことは、あせらず時間をかけて、少しずつ取り組んでいきます。
最初の1週間で、自治的な学級に向かうための環境づくり、意識づくりをしていくのです。
2週目以降、最初の1か月間で取り組みたいこと
二学期のリスタートから1週間が過ぎ、その後の1か月で取り組むことは、次の2つです。
■「自分たちで自分たちの教室を創る」とはどういうことなのか。そのイメージが子供たちの中で共有されること。
■そのイメージに向かっていくために、どんなステップが必要かという見通しを、子供たちが持てること。
「自分たちで自分たちの教室を創る」とは、どういうことか。みんなは、どんなイメージを持っているか。子供たちに問います。
〇一学期で言えば……
「学習に集中しよう!」「次の授業の準備をしてから遊びに出かけよう」と声をかけること。多くの人がやる気をもって学習に取り組んでいて、「自分も頑張ろうかな」と思えること。
〇二学期最初の1か月で言えば……
自分たちの振り返りや考えを基に、教室や教室で取り組んでいることを変えていけること。
そして、もう一つのイメージを伝えます。
クラスで新しく取り組もうとしていること。あるいは、クラスの誰かの困り事やトラブルに対して、自分たちで協力して解決していけること。
次に、冒頭の全員遊びのトラブルの場面を例として、紹介します。
「こんな時、みんなはどうする?」と問うと、子供たちは、「自分たちで解決する」と答えます。
「そうだね。こういうことを解決しようとすることが大切だよね」と価値付け、方向付けをします。続けて「では、具体的に、どんな行動をとりますか?」と問うと、答えるのが難しくなります。
そこで、子供たちに「自分たちで自分たちの教室を創る」に向かうステップを提示します。
⑴新しく取り組もうとしていることや、友達が困っていることに対して、自分(たち)にできることはないかと考える。
⑵学級全体で話し合った方がよいのか、関係している人だけで集まった方がよいのかを判断する(その話合いの結果は、先生にも伝えてね)。
⑶学級全体で話し合うことが必要なら、その時間をもらう。
⑷話合いを進める。進めることが難しければ、周りに頼ろう!
⑸話合いのゴールは、課題を指摘することではなく、解決すること。
最後に、実際に模擬的に話合いを進めていく中で、アドバイスしていきます。
ただ、こうした時間をとるだけで、自分たちで協力し合って解決することはできません。とにかくこのような経験を積むこと。機会あるごとに、アドバイスしていくこと。生活の場面だけではなく、学習でも自治的な活動を取り入れ、大切にしていくこと。そして、何より大切なのは、子供の成長を信じ、待つことです。
『小六教育技術』2018年9月号より