【木村泰子の「学びは楽しい」#1】その子がその子らしく育つ
雑誌「教育技術」の人気連載「学びは楽しい」が、2022年度よりウェブ版としてリニューアル、再スタートしました! 映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長・木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスします。毎月22日更新予定です。
エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください!
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子
目次
「学び」とは何ですか?
さあ、ウェブ版「学びは楽しい」のスタートです。これまでとの違いの中で、できることは何かと考えると、互いに双方向での対話が可能になることだと思いました。私が伝えさせていただくことを読者のみなさんが読まれて、感じられることや聞きたいことなどをみなさんの言葉で返していただくことができる。こんな利点があることです。
私はラインやフェイスブックなど、現代の当たり前と言われるツールは何もしていません。娘に「お母さん、ラインぐらいしてよ!」と言われ続け、さすがに今では娘があきらめています。
そんな私が、先日、あるテレビ局の取材の中で、インスタグラムを体験しました。親切に教えていただきながらなんとかその場はクリアーしましたが、(私には無理……)が感想でした。人それぞれなんですよね。それぞれに得意なことや苦手なことがあって当たり前なのですね。だからこそ、できる人も、私のようにできない人も、否定し合ったり、非難し合ったりすることがあってはならないと思います。
実は、このコロナ禍に大空小の卒業生から「校長先生、ラインはしないのですか?」と手紙が届きました。この子は高校生になっていて、小学校の6年間は声を聞いたことがない子どもでした。人の前では話せないのです。私たちはこの子が話せるようになるよう指導しなくてはと思ったのですが、熱心に指導すればするほど登校ができなくなるのです。ところが、大人の前では固くなっている姿しか見られないのに、子どもたちの中では笑顔を見せるのです。周りの子どもたちは、この子が話し言葉をコミュニケーションのツールにしない友達だと理解しているから、文字に書いたりジェスチャーをしたりしながら、当たり前に対話を重ねているのです。
私も彼が1年生の時に1年間体育の授業をしたのですが、みんなが楽しく動き回っている中で、彼は石のように固くなって身動きしないのです。さすがに、これまでの経験の中では出会ったことのない子どもでした。授業者としてはショックなのですね。(この授業は楽しいはずなのにどうして……)
この時の授業の大失敗はかけがえのない学びにつながりました。この子を言葉で話せるようにしなくてはとの教員の願いは、子どもには苦しいだけなのです。周りの子どもたちのように、(言葉で話さなくていいよ)という信頼関係があれば、みんなの中で安心して自分のできることを伸ばしていくことができるのです。
この子の手紙に書かれていたのは、高校を卒業してからの自分の進路についてでした。スマホというコミュニケーションのツールを獲得した彼は、多くの大人たちとつながっていました。
「一人ぼっちの人をつくらないために、大空小の職員室のような場所をつくりたいのです。大空小の職員室は誰も一人にしない場所だったからです。泰子さんもLINEでつながってください」
さすがに、この時は困りました。でも、「私には無理」って返事をすると、ショートメールで彼の言葉が返ってきて、私にもできるショートメールで今も彼とはつながっています。私は大空小を卒業してから、(彼には安心して声を出させてやることができなかった……)と力不足を悔やんでいましたが、大きな勘違いでした。先生は「熱心な無理解者にならないで!」と分かりながら、主語が大人になってしまっていたのですね。
できないことがあっていい!
「できないことをできるように努力する」のが学校であれば、誰一人、「学びは楽しい」と感じる子どもは育たないのではないでしょうか。
「できないことがあるのは当たり前」
「できることを存分に伸ばしましょう」
こんな学校の空気が充満してくれば、結果として、できないことができるようになっている子どもの事実をたくさん学びました。
学びは「その子がその子らしく育つこと」です。それ以外にありません。
ウェブ版スタートに際して
誰よりも失敗をして、やり直しの回数の多い人を「先輩」と呼んでいました。現場で奮闘している先生たちに少しでも「学びは楽しい!」と感じていただけるように、みなさんの「先輩」としてこれからも「自分の言葉」で語っていきたいと思っています。
WEBだからできる双方向の学びをつくっていきましょう。読んでいただいて感じられたことや質問など、気軽に編集部にメールで届けてください。もちろん、すべての方の質問にお応えできる能力は私にはありません。ただ、いただいたみなさんの言葉から私が学ばせていただき、次回につなげていきます。みなさん、いっしょに学びを楽しみましょう! →ご質問やご感想は、下の「木村先生への質問募集フォーム」よりお願いいたします。
「はじめての先生」に
「はじめての先生」ってほかの誰よりも子どもが安心する大好きな存在なんですよ。だからこそ、言うことは聞かないし、暴れるし、反抗するんですよ。
子どもの本音をぶつけることができる唯一無二の存在が「はじめての先生」です。思うように仕事ができないのは当たり前! だからやめてしまったり悩んだりしないで!
応援しています。
きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。
※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。