#45 それでも教師か!【連続小説 ロベルト先生!】
バレンタインデーに続き、今回はホワイトデーの特別な日、なんと女子全員の机の中には……。ロベルト先生と子どもたちとの楽しい学級での会話です。
第45話 ホワイトデー
3月14日のホワイトデー。
今日もいつもと変わらず、子どもたちは元気に学校へ登校してきた。しかし、今日の私は教室で子どもたちを迎えず、学校の敷地内のゴミ拾いをしていた。
女の子たちの様子が何やらおかしい。自分の机の引き出しから、他人に見せてはいけない何かをこそこそと取り出し、中身を確かめている。その様子を見ていた男の子は、
「どうした? 何があった?」
と、興味津々で覗き込んでいる。
「いや、何でもない」
と、あわてて机の中に戻す子もいれば、自分のランドセルにしまう子もいる。すると突然…
「キャー!」
と黄色い声。
「どうした?」
ますます不思議がる男の子たち。
「ねえ、手紙読んだ?」
「えっ、手紙?」
「キャー!」
「先生はどこ?」
「外にいたよ」
「行こう!」
女の子たちは、私を捜しに教室を出た。
「先生はどこ?」
「あそこだ」
女の子たちは、私に会うやいなや、
「先生、どういうこと?」
「どういうことって?」
「何あれ?」
「何あれって、先生の素直な気持ちだよ!」
今朝、学校に来た私は、クラスの女の子全員にチョコレートを……あげたいところだが、チョコレートの替わりにドングリと、一人一人へのメッセージを書いた手紙を添えて、女の子たちの机の中に入れておいたのだ。
ーひかえめでありながら、大きな力を発揮する真希ちゃん、ステキです。ー
ーだれに対しても優しく、気づかいができる優衣ちゃん、いつもありがとう。ー
ーどんなことでもあきらめずに全力を出し切る奈々ちゃん、さすがです。ー
ーおもしろいことを考えて、みんなを笑顔にできる美樹ちゃん。最高です。ー
そして、花崎さんにも、
ー真理ちゃんの芯の強さと本当の優しさを知りました。まねしたいですー
女の子たちは、その手紙になんだかんだと言ってはいたが、私は、「一人一人が自分の長所を見つめられるきっかけとなってくれればいい」……そう願った。そして、そんな私の思いを感じてくれた女の子たちは、みんな優しい笑顔と心を向けてくれた。
今度は、その女の子たちの様子を見ていた男の子たちが、ブーブー言い出した。
「先生、女の子ばっかりずるい。ぼくたちにはドングリないの?」
「えっ、ドングリ? 手紙じゃないの?」
「手紙はいらないから、ドングリがほしい!」
「へっ?」
拍子抜けしたが、それでも私は少しもったいぶって、
「今日は、女の子に感謝の気持ちを伝える日だからなー、どうしようかな-」
「それでも教師か!」と上がった声に、私も声をかぶせた。
「……っと、言いたいところだけど、実は男の子の分もあるよ」
「わーっ!」「さすが、先生!」
「今日は特別な日だからね」
ホワイトデーではなくなってしまったが、私から子どもたちへの気持ちを伝える大切な日になったことは間違いない。
執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈
浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。