#42 これまで子どもたちを育ててくださった保護者のために【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は3月初旬に行われる最後の授業参観、親への感謝の会に向けた準備のお話です。子どもが親に感謝の気持ちを伝える場面は、一生のうちで数えるほど。ロベルト先生の考える感謝の会はどのようなものになるでしょうか。

第42話  夢

大山くんのお母さん

「先生、じゃあね!」

「先生、元気でね!」

「えっ? どうしてみんな行っちゃうの?」

「先生をおいて行かないでよ、ねえ、待ってよ!」

「うわっ! 夢か…」

この時期になると私は必ず夢を見る。それは、子どもたちとの別れの夢である。

もうすぐ子どもたちは緑ヶ丘小学校を卒業し、中学校へと巣立っていく。それは友達同士との別れでもあるが、担任と子どもたちとの別れでもある。4月からともに過ごしてきた六年三組38名とはたくさんの思い出ができた。

子どもたち一人一人の夢や目標にこれからも寄り添って力になりたい、そんな親心が自然に湧いてくる。しかし、いつまでも子どもたちを私が引き留めるわけにはいかない。

子育ての「さ・し・す・せ・そ」とは、「さ」は「支える」、「し」は「信じる」、「す」は「勧める」、「せ」は「背中で教える」、そして、「そ」は「そっと…離れる」である。

とってもとっても寂しいが、残りの生活をしっかりと締めくくって子どもたちを送り出そう。

感謝の会 1

子どもたちは、3月初旬に行われる最後の授業参観の準備に入った。保護者に予告しておいた「感謝の会」の準備である。

これは、子どもたち一人一人が書いた作文を参観日に来ていただいた親に直接読み上げるというものだ。子どもたちにその計画の話をすると、「やだよ」「恥ずかしいよ」と予想通りの反応が返ってくるが、ここは絶対に譲れない。

よくよく考えて見れば、子どもが親に感謝の気持ちを伝える場面は、一生のうちで数えるほどだ。例えば結婚式でのそんなシーンが思い出される。後は…なかなか思いつかない。次はもしかして親が亡くなってしまったお墓の前か? そんなことを考えれば、この日は本当に貴重な日となる。

子どもたちに手紙を書かせる。こういう手紙は書き慣れないせいもあって、「これまでいろいろと面倒をみてくれてありがとう」とか「これからもよろしくお願いします」など、本当にありきたりの言葉しか出てこない。これでは誰がどの親に書いても同じ内容になってしまう。

「まず、皆さんの肝に銘じてほしいことは、この授業参観の主役は、皆さんではなく皆さんの親です。だから自分のことよりも親が喜ぶことを第一に考えてください。

それから『ありがとう』という言葉を連発している手紙がありますが、本当に感謝の気持ちを込めようとすると、『ありがとう』という言葉では軽々しく感じてしまうことがあります。ですから一つや二つくらいがいいと思います。

そして、『いろいろ』なんて曖昧な言葉を使わないで、皆さんと皆さんの親でしかわからないような具体的な思い出を入れましょう。そしてその時、自分はどう思ったのかを入れると感動が伝わりますよ。皆さんの目標は、この手紙で親を泣かすことです」

「えーっ!」

どうしていつも子どもたちは、教師の言うことにいちいち反発するのか…。再度言うが、これだけは絶対に譲れないのだ!

作文を書くと同時に、子どもたちにお願いしたことがある。

「皆さんに協力してほしいことが二つあります。その一つは、もし親が好きな曲があれば、その曲を何気なく聞いて来てください。すでに知っている人がいれば教えてくださいね。

それからもう一つは、皆さんの小さい頃、3~4歳くらいの写真をできればこっそりと持って来てください。もちろん後でお返しします。こっそりが無理だったら、何に使うか言わずに『先生に言われた』とだけ伝えて持って来てくださいね」

次に、読む練習をする。せっかく感動する内容が書かれていても、声が小さかったり、読むのが速すぎたりしたら感謝の気持ちが伝わらない。少しゆっくり目に、気持ちを込めて読む。

最後に教室の飾り付け。飾り付けのコンセプトは、保育園、幼稚園のお遊戯発表会風に折り紙の輪飾りや手書きのプログラムなど、手作り感を出すことだ。

いざ準備が始まると、その気になって取り組むのが三組のよいところ。みんな夢中で教室の飾りを作ったり、手紙の表紙をきれいに飾ったりしている。好きな音楽や写真も集まって来た。曲の中にはまさに私の青春時代と一致しているものも多く含まれていた。

ちらっと見せてもらった子どもたちの幼少期の写真はどれも本当に可愛く、今でもその面影を残している。改めて一人一人の子どもたちは親に大切に育てられて、こうして大きく成長してきたことを実感できる。

この「親への感謝の会」は、これまで子どもたちを育ててくださった保護者のためにも、絶対に成功させたいと強く誓った。

参観日当日は、事前に「BOYS&GIRLS」で知らせたり、プログラム入りの招待状を作って渡したりしておいたので、全員の保護者が参加してくれた。

転校してきたあの大山くんのお母さんも参加している。気持ちを伝えれば保護者にも伝わり、仕事を休んでまで協力してくれる。兄弟姉妹がいる家庭は他の学年も参観しなければならないので、我が子が読むときには必ずいてもらうようにも頼んでおいた。

教室の机はすべて廊下に出してしまい、子どもたちが使っている椅子を保護者用として教室の後方に並べた。子どもたちは教室の前方に左右に分かれて床に座った。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文部科学省教科調査官) 画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追究中。

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