#36 これからも自分の可能性を信じて【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は芸術祭の映画の脚本原本より、長縄の本番が終わった後のシーンです。優勝はできなかったけれど、子どもたちがこの経験を通して得たものとは。映画の上映が終わると、感動に包まれた保護者達と誇らしげな子どもたちの姿がありました。

第36話 教室4 大会の後

大人になっためぐみ&だいすけ

ゴースト3「マミが最後に変なお願いをしたから、優勝できなかったじゃないのよ。」

ゴースト2「そうよ。私たちは優勝させようと思って、あきらくんのけがを治したり、なな子ちゃんを跳べるようにしたのよ。」

ゴースト1「あなたたち、まだわからないの。」

ゴースト3「えーっ? 何が?」

ゴースト1「私たちの名字は何?」

ゴースト2「立花」

ゴースト1「お母さんの名前は?」

ゴースト3「めぐみ」

ゴースト1「お父さんは?」

ゴースト3「えーっ、まさか!」

ゴースト1「そうよ。あの二人が私たちのお父さんとお母さんよ。つまり、あの二人が結ばれないと私たちはこの世に存在しなくなるのよ。」

ゴースト2「えーっ、そうだったの…。」

(呆然と立ちつくすメイとモモ。その向こうでめぐみとだいすけが仲よく話をしている)

ゴースト2「そう思って見ると、なんだかお似合いのカップルだね。」

ゴースト3「なんか、お父さんとお母さんを見直しちゃったな。」

ゴースト1「そうだね。」

ゴースト2「私たち、親とけんかして家を出てきちゃったんだもんね。」

(ちょっと間をおいて)

ゴースト1「私たちの時間旅行はこれでおしまい。そろそろもとの時代に帰りましょう。私たちは過去を振り返っている場合じゃないのよ。私たちの新しい未来に向けて出発!」

【放課後 朝礼台の上】(芸術祭)

(夕方、みんなは校庭の朝礼台に座っている)

あやか「ねえ、私たちがこれまでがんばってきたことは意味があったのかなあ?」

あきら「さあ、どうだろう?」

こうへい「優勝はできなかったけど、不思議と満足感があるよな。」

ガリ勉太郎「勉強だけでなく、こういうのもいいかもしれない…。」

のぞみ「青春って感じだよね。」

かなえ「これで終わっちゃうなんて、寂しいね。」

たまえ「またいつか、クラスのみんなでやりたいね。」

だいすけ「確かに優勝はできなかった。でも、決して無駄なんかじゃない。」

めぐみ「そう、これからも自分の可能性を信じて…、新しい自分を見つけるために…、
 IT’S MY NEW DAY!(イッツ・マイ・ニュー・デイ!)


エンディング挿入歌 松田聖子「It’s my new day」

劇をみているお母さんたち

映画の上映が終わると、会場からは大きな拍手が巻き起こった。

もうそこは教室ではなく、私たち3組の子どもたちにとっては、アカデミー賞の授賞式会場だった。泣いているお母さんがいれば、誇らしげに自分たちの演技を振り返る子どもたちがいた。

あれだけがんばったのに、子どもたちは優勝できなかった。しかし、一生懸命に努力した証を映画という形で残すことができた。

この映画の噂は、あっという間にフリー参観に来ていた保護者に広がり、5時間目の2回目の上映の時には、他の学年やクラスの保護者まで観に来たので、教室が満杯に膨れ上がった。結果的に2回の上映で、観客動員108名。目標を達成することができた。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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