#20 「忙」という字を見て気がつくことはありますか?【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

2学期が始まって2週間、忙しいスケジュールの中生活する子どもたち。ロベルト先生は中だるみの時期をどう立て直すでしょうか?

第20話 忙しさ

黒板「忙」

2学期がスタートして、まだ2週間しか経っていないというのに、なんだか夏休みは遠い昔のことのように思えてしまうほど、毎日の生活が充実しきっている。

子どもたちは朝登校すると、夏休み中の遅れを取り戻すかのように、始業前の8時5分から長縄跳びの練習が始まる。

さらに、9月後半に行われる運動会の練習も山場を迎え、2時間目休みにほっと一息休憩するのかと思ったら、また長縄跳びの練習が始まる。4時間目が終わると、ようやく給食の時間だ。

そして、掃除を終えて、さあ、今度こそ食後のお昼休みかと思ったら、待ってましたと運動会の応援練習。午後の授業が終わり、「いやあ、今日も1日よくや…」おっと忘れてた! 放課後は親善運動会個人競技種目の練習があった~!

いったい子どもたちの休み時間はどこへいってしまったんだ~という超過密スケジュールで子どもたちは毎日の生活を送っている。家庭で十分に体を休め、次の日の鋭気を養ってもらうしかない。

子どもたちだけではなく、教師も慌ただしく動いている時には注意が散漫になり、子どもたち一人一人に目がいかなくなる。学級としてのまとまりは感じられるものの、子どもたちに落ち着きがなくなり、授業中の私語をはじめ、授業の始まりと終わりの挨拶がいい加減になったり、当然やるべき当番や係の活動をやらなかったりすることが見られるようになった。

子どもたちが疲れているのはよくわかっている。しかし、疲れているから許されるものではない。ここで、ブレない指導をすることが大切なのだ。

それは給食の時だった。

「鶴さんや、亀さんのように、つるつる飲まずに、よくかめかめ、いただきます!」

日直の挨拶とともに食事が始まった。その挨拶もいい加減さが見られたが、数分すると、牛乳を手に持ったまま亮太が出歩き、洋とおしゃべりを始めた。グループ内で話をするボリュームが大きい。時折、奇声のような歓高い声も聞かれる。ふと床に目を落とすと、ストローのビニールくずが数本落ちている。給食中の放送もろくに聞こえない。

この状況を見て、子どもたちが楽しそうに食事をしているなんて勘違いをし、危機感をもたなかったとしたら、教師として失格だ。

私はここで一喝を入れる。

「うるさい! 騒がしいにもほどがある。こんな状態で2学期のいろいろな行事に成果を残すことなんてできるわけがない! 何を考えているんだ! 何も考えてないからこんなふうになるんだ!」

私は、両手で机を叩き、すくっと立ち上がった。

「学級委員、ちょっと廊下に来い!」

私は、田口くんと長谷川さんを廊下に呼び出した。そして、静まりかえった教室に残された子どもたちに聞こえるような声で、

「学級委員がちゃんと注意しないからこうなるんだ! なんのための学級委員だ。よく考えろ!」

怒鳴るような声を二人に浴びせつつも、その後すぐに、今度は二人にしか聞こえないような小声で、

「ごめん、ごめん。うつむいたまま悲しい顔をして自分の席に戻ってくれ。お願いね。このことは、みんなにないしょだよ」

二人は、言われたとおり、静かにドアを開け、教室に戻っていった。私もさることながら、学級委員の二人も迫真の演技である。

そうとは知らずに、さらに気まずい顔で学級委員の二人をちらちらと見ては下を向く子どもたち。

「今、みんなも忙しいのは、本当によくわかる。(給食中ではあったが、黒板にチョークで『忙しい』と書く)この『忙』という字を見て何か気がつくことはありますか? りっしんべんは『心』を表しています。では、『亡』は?」

「亡くなる」

「そうです。忙しい時は、心が亡くなりやすいと言うことです。これが今のみんなの状態です。

心が亡くて何ができると思いますか。心が亡ければ悪いことだって平気でやってしまうでしょ。心が亡ければ、他人を傷つけていることさえ気がつかないでしょ。心が亡ければ大きな事故やけがにつながるでしょ。

心が亡いのはとっても危険な状態です。どんなに忙しくても、どんな状況におかれても、正しいことを判断できる心をしっかりともっていなくてはだめです。以上!」

お説教は簡潔なのが鉄則だ。こうしたブレない指導が子どもたちには効果的である。

このような時期には、子どもたちのいたらないところが見えやすくなり、注意することの方が多くなってしまうが、褒めることも決して忘れてはならない。

もし、一人一人に声をかけることができなければ、その時に力を発揮するのが、宿題のノートへの担任からのコメントである。

「運動会の用具係では、自分の分担だけでなく、よく手伝ってくれていたって塚田先生が褒めてくれていましたよ。先生までうれしくなりました」

「写生会の時、ゴミを拾っているところを見かけました。その場所だけでなく、先生の心もとってもきれいになりました。ありがとう」

「毎日、こんなに忙しいのに忘れ物一つせず、コツコツと自主勉強に取り組めるその精神力は、恐るべし!」

このように、子どもたちは2学期の様々な行事を通して、心も体も成長させていくのだ。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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