クラウドファンディングでお金と仲間を集める【あたらしい学校を創造する #17】
先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。 今回は、先日行われたクラウドファンディングについてのお話しです。
目次
お金と仲間を同時に集める最良の方法
来年4月の開校に向けて準備を進めているヒロック初等部ですが、去る8月中旬にクラウドファンディングを実施しました。それは、前回お話しした保護者の学力観とも関係することです。今回は、ヒロックでなぜクラウドファンディングを実施したのかについて話します。
おかげさまでクラウドファンディングの目標金額として設定した500万円は早々と達成され、最終的に671万8千円にまでなりました。支援者は230人です。僕らとしては、でき過ぎというか、これほど応募があったことに驚いています。非常にありがたいことです。
そもそもオルタナティブスクールを東京で開校しにくい理由は、お金です。地価が高い東京でやろうとすると、半端ない初期費・維持費が必要になってきます。いわゆる「一条校」(学校教育法で規定されている一般的な学校)でないから、公的な補助金も出ない。かといって、誰か特定の人なり企業なりが経済的な面倒をみるというスクールのつくり方は、独立性という点であまり好ましくないと思っています。「口は出さずにお金だけ出してほしい」というのは都合がよすぎると思うからです。
金銭的な負担を分散することが教育の場にふさわしいと考えると、クラウドファンディングでお金を集めるというのは理にかなっています。今後オルタナティブスクールをつくる上で、資金集めの標準的な手法になるかもしれません。
そして、今回行ったクラウドファンディングの目的は、「お金を集める」ということと共に、「仲間を集める」ということがありました。
例えば、募集プランの一つに「バディコース」というのを設定し、このコースで支援いただいた方には、開校するまで「バディ・クラブ」という支援コミュニティに参加いただけます、としました。メンバーは、ヒロック初等部という新しい学校の支援者・関係者であるとともに、一緒に学び合うヒロックの仲間になるという位置付けになります。
バディ・クラブは開校後には「学びの研究所」という組織に移行し、メンバーには引き続きその研究員として、学校運営にお手伝いいただいたり学び合ったりしていく予定です。そのようにして「ヒロックの仲間になれる、学校運営に関われる」というのが、クラウドファンディングの返礼品ということになります。
このバディコースは支援金額を3万円と高めに設定し、100人程度を目途に募集したのですが、その数を上回る方々が集まりました。しかもありがたいことに、公立校や私立校の先生、企業の人など多種多彩な方々に賛同していただけました。アートやアウトドアが得意な方がいたり、英語教室を開いている方がいたりして、ぜひ開校後も手伝ってほしいということを話しています。支援者の横のつながりができてくるのがおもしろい。しかも、ヒロックで公立校の先生と企業の人がつながる場所にもなる可能性が見えてきて、わくわくしましたね。スタート前に、かなり豪華なメンバーに集まってもらったという印象です。
ちなみに開校後の「学びの研究所」では、ヒロックの理念やヒロックで実践していく学びについて定期的に話し合って、「学びとは何か」を研究し、年度末にその成果を発表していこうと考えています。メンバーはクラウドファンディングの支援者だけでなく、外部からも参加者を募りたいと考えています。
僕としては、この「学びの研究所」には、特に公立校の先生に参加してほしいと思っています。ヒロックで行っていく活動の中に、公立校でも導入することができる部分はあるはずだし、逆に、公立校の先生にアイディアを提供してもらい、それをヒロックで実施することもあり得るでしょう。
さらには、そもそも公立校の先生にオルタナティブスクールのことを知ってもらいたいということもあります。学校はどうしても画一的で多様性に欠ける面がありますから、オルタナティブスクールに目を向けてもらい、ヒントを得られれば、ご自身の学級での実践をもっと自由に、ダイナミックにできると思うんです。
教育に関わりたい人々の思いを新たな学びにつなげたい
今回、クラウドファンディングをしたことで、「教育を何とかしたい」と考えている人がいかに多くいるかということに気付かされました。支援者からは、「こういう場をつくってくださってありがとうございます」と感謝されることもありました。教育に関わりたいという熱い思いはあるけれど、関われる場がなかった、機会がなかった、という人たちがいるのです。子供たちに投資したいとか、自分も教育に参画してできることをやりたいとか、そういったニーズが想像以上にあると感じました。
さらに意外だったのは、このクラウドファンディングを通して初めてヒロックのことを知った、あるいはオルタナティブスクールという存在を知ったというような、まったく僕らと接点のなかった方が支援してくださったことです。そういう方が一定数いることにも驚きました。
これは、仲間集めに関連することですが、ヒロックでは「学びの研究所」とともに「ヒューマンライブラリー」というしくみも考えています。図書館にあるのは本だけれど、「ヒューマンライブラリー」にあるのは人材です。ヒューマンライブラリーに登録すれば、子供の学びの支援者や伴走者になることができます。
例えば、探究を進めるうちに「スケボーをやりたい」と言い出した子がいるとします。そんなとき、僕らシェルパ(ヒマラヤ登山のガイドを意味する言葉。ヒロックでは教師をこう呼んでいる)自身はスケボーを教えられなくても、「ヒューマンライブラリー」の登録者の中にスケボーが上手な大人がいれば、その大人をその子につなげることができます。
子供が「スケボーのこの技ができないから教えてほしい」と依頼すると、登録者がそのやり方を撮影した動画を送ってくれるとか、Zoomでやって見せてくれるとか、あるいは近くの公園で実際に教えてくれる、というしくみをつくりたいのです。学びや探究においては、子供が大人とうまくつながることがすごく重要だと考えています。そうした人材をライブラリーとしてストックしたいんです。
今、学校で英語教育やプログラミング教育をすることの負担が強調されていますけど、それは、学校の先生が何でもかんでも教えなければいけないというのが前提の問題でもあります。実はもう、インターネットの普及とともに、次のフェーズに入っているのではないでしょうか。子供が本当に知りたいと思うのなら、英語やプログラミングの専門家につなげてあげればいい。そのためのICTだと言っても過言ではありません。僕らの仕事はそれらを全部教え込むことではありません。もうそういった従来型の学力観は必要ないと思っています。僕ら教師は「良きつなぎ役であれ」ということを、公立校の先生に伝えていきたいです。
次回は、クラウドファンディングの話の続きをしたいと思います。 〈続く〉
蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。
連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック
⇩
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK