#18 夢を抱かせる職業【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は先生の夏休みの過ごし方についてです。世間の情報から遮断された場所ともいえる学校という場所。夏休みのような機会に、教育以外の様々な体験によって自分の引き出しを多くしていきたいものです。

第18話 夏休み

スイカと蚊取り線香

子どもたちが夏休みに入ると、教師も勤務時間が終わると同時に退勤できる日が多くなる。また、年次休暇(有給休暇)も比較的取りやすくなる。

そこで、ちょっとした旅行に出かけたり、普段はなかなか会えない人に会ったりできる。朝学校へ行き、夜家に帰るだけの日々を当たり前のように繰り返す生活が、いかに狭い世界であるかを改めて実感する。

新聞を読んだり、テレビのニュースを見たりする時間も十分にもてないので、世間の話題には全くついていけない。例えば同窓会などで友人と会話をしても、どうにも話がかみ合わない。

得意気に学校の先生業を語るのが唯一できること。自分の話はできても、人の話には興味がもてずに話が聞けないのが教師なのかもしれない。

今でも思い出すことがある。

あの地下鉄サリン事件が起きた日、あれだけの大きな事件が起きていながらも、その日はたまっていた仕事を片付けていて学校からの帰りが遅くなり、家ではテレビも付けないまま床に入り、次の朝は、起きて新聞も広げないまま登校した。

地下鉄サリン事件のことを初めて知ったのは、恥ずかしながらクラスの子どもからである。いかに学校とは、世間の情報から遮断された場所なのか…。

私の周りを見渡せば、友人、知人はほとんどが教員である。

幸いにも私は、昔、劇団にいたり、バンドを組んでいたりもしていたので、夏休みには、友人の芝居を見に行ったり、コンサートや映画に出かけたりもした。また、スポーツ観戦も好きで、プロの野球やサッカーの試合も観に行った。本物に触れる体験はとても刺激になった。

さらに、意識して本も読むようにした。教育書ではなく、自己啓発本や話題の本を読んだ。これらの体験が日頃の各教科の教材研究の隠し味になるのは間違いない。

全体の奉仕者である公務員は、発言も慎重に考えなければならず、教師の一言一言は公教育にふさわしいものでなければならない。

しかし、それだけではつまらない。やはり、遊び心はいつももっていたいと感じている。

また、教師とは、未来への大きな可能性を秘めた子どもたちに夢を抱かせる職業でもある。教師は子どもたちのどんな夢に付き合えるのか? 

それが自分のいる公務員という狭い範囲の世界だとしたらとても残念だ。

様々な夢に付き合い、人生の先輩として少しでもアドバイスができるように、こうした機会に教育以外の様々な体験によって、常に自分の引き出しを多くしていきたい。

お盆も明け、夏休みも残すところ2週間余りとなった。

残りの日数を数えると、大人であっても少し気が重たくなるのだから、子どもはなおさらかもしれない。

7月の授業参観で書いた未来日記通りの生活ができただろうか? 大きな病気やけがをしている子はいないだろうか? そんな思いで、私は子どもたち全員に、残暑見舞いの手紙を書いた。

残暑お見舞い申し上げます。
夏休みも残りわずかとなりました。
未来日記のような生活は送れていますか?
元気な○○くん(○○さん)に会えるのを楽しみにしています。
     ロベルト朝見より 愛をこめて…

その数日後、子どもたちからも残暑見舞いが届き始めた。

返事が届いたのはクラスの3分の1程度であったが、海や山に行ってきたことや宿題が予定通りに終わったことなど、楽しい思い出とともに未来日記のことなどが綴られていた。

中には、ありきたりの言葉で書かれた手紙もあり、いかにも、親に無理やり書かされた感が丸出しであったが、それはそれで気持ちが伝わってきた。

気がつけば、あっという間に夏休みが終わった。子どもたちのいない教室の静寂も今日までである。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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