#11 朝、起きられませんでした【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は、不登校ぎみの転校生のお話です。家庭の事情でなかなか登校できない子どもに、ロベルト先生はどのようにアプローチしていくのでしょうか。

第11話 転校生1

スウェットを着た無表情の男の子

それは突然のことだった。

校長先生に呼ばれた私は、三組に転校生が来ることを知らされた。しかし、それがただの転校生ではなかった。

名前は大山太一。五年生の途中から、ほとんど学校へは行っていないという。欠席の理由は病気ではなく家庭の事情らしい。また、中学生に姉がいるが、その姉も学校へは行っていない。

離婚した母は、夜仕事に出かけては明け方に帰ってくるせいもあり、朝は起きられず、子どもを学校に送り出すどころではないらしい。

それでも、週末の金曜日の夕方には、お母さんと一緒に大山くんも学校に現れた。校長室で初めて顔を合わせた私には、おどおどとしているわけでもなく、どことなく冷たい目で一点を見つめている大山くんの様子がとても気になった。

とにかく私は、「六年三組担任の朝見です。よろしくお願いします」と挨拶をして、学校生活や持ち物などについて説明した。そして別れ際に、「土日が挟まってしまうけど、月曜日に学校で待ってるね」と言ってその場を別れた。

週が明けて月曜日、始業の時刻になっても大山くんは学校に来ない。そこで電話をかけてみるが誰も出ない。

仕方なく私は、その日の授業を終えた放課後に、大山くんが住んでいるアパートへ行ってみた。

「大山さんはいますか? 六年三組の朝見です。大山さ~ん。いらっしゃいますか?」

私は数回呼んでしばらく待っていた。しかし、全く反応がない。諦めかけて帰ろうとした時、家の中で動く気配を感じた。

それから私は、また、数回呼んでみると、「カチャ」とドアの鍵が開く音がした。

そのドアが10センチくらい開いたが、そのまま誰も出てこない。私はそっと中を覗き込んだ。

するとそこには、グレーのスウェットを着て、冷ややかな目でこちらを見つめる大山くんの姿があった。まるで野良犬のように…。

私は、大山くんに、

「今日はどうしたのかな?」

とそっと尋ねた。すると、初めて会った人と会話をするかのように…

「朝、起きられませんでした」

と小さな声で答えた。

「お母さんはいるかな?」

「出かけていていません」

「今は一人?」

微かに頷いた。

「そっか。じゃあ明日は起きられるように、早く寝てくださいね」

会話らしい会話もせずに、私は大山くんと別れた。

次の日の朝、やはり大山くんは学校に現れなかった。そこで今日は、2時間目終了後の休み時間に、学年の先生に事情を伝え、子どもたちには長縄跳びの練習を任せて、大山くんの家を訪ねた。

「大山さんはいますか? 六年三組の朝見です。大山さ~ん。いらっしゃいますか?」

私はドアに近づき、中に聞こえるような声で繰り返し呼んだ。どことなく家の中にいるような気配はするのだが、今日はドアが開くことはなかった。

「また明日来ますね~」 

とりあえずそう言い残して、私は大山くんの家を後にした。

いったい何時に来ればよいのか? 大山くんの生活が夜型になっているのを考え、その日は仕事を終えた後、帰りがけにもう一度大山くんの家に寄ってみた。

部屋の明かりがついている。夜の9時を回ったところではあるが、夜分遅くに悪いなんて言っていられない。とにかく大山くんに接触したいという思いで、玄関のドアをノックしてみた。

「こんばんは。六年三組の朝見です。大山くんはいますか?」

今度はすぐさま、家の中で人が動く気配が感じられた。そして、しばらくするとドアが開いた。中から出てきたのは大山くんのお姉さんらしき人だった。

「あっ、こんばんは。あの、私は大山太一くんの担任の朝見です。こんばんは…あっ、ごめん、さっき言いましたね」

大山くんのお姉さんは、不思議そうに私を見つめていた。

「あの~大山くんはいますか?」

そう言うと、

「太一…、先生だって」

と微かな声で大山くんを呼んでくれた。しばらくすると、玄関の奥にある襖が開き、大山くんが出てきた。やはり、グレーのスウェット姿だった。

「大山くん、こんばんは。元気だった? 今日も残念ながら起きられなかったみたいだね」

「…」

「いつもお家で何をしているのかな?」

「…ゲーム」

「おう、そっか。何のゲームにはまっているの?」

「いろいろ」

「そうか。ゲームってやり始めるとなかなか止められないもんね」

「…」

「もう、夕飯は食べた?」

コクリと頷く。

「そっか。明日は朝起きられるかな?」

「…」

「先生、明日の朝7時半に迎えに来るよ。とりあえず外から呼ぶから、起きて出てきてくれる? 学校に行くか行かないかは、その時の調子で考えよう」

「…」

「じゃあ、また明日。おやすみなさい」

そう言って今日は別れた。とりあえず大山くんに会えてよかった。そう思うしかなかった。

そして、あっという間に次の日の朝を迎えた。7時半という約束ではあったが、おそらく時間がかかると思われたので、7時15分に大山くんの家の玄関の前に到着していた。

「おはようございます。六年三組担任の朝見です。大山さんはいらっしゃいますか?」

家の中は暗く、物音一つしない。ドアをコンコン叩いてみた。

「おはよう。大山くん、起きたかな?」

反応がない。それでも私は諦めずに呼び続けた。

「おはようございます。大山さんはいらっしゃいますか?」

それからおよそ10分くらい経過した時だった。中で襖の戸が開く音がかすかに聞こえた。

すかさず私は、

「おはようございます。六年三組担任の朝見です。大山さんはいらっしゃいますか?」

と中に聞こえるように、ドアの隙間から呼びかけた。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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