「先生が日記を1ページしか書かせてくれない」という保護者の悩みにアドバイス|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

連載
沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

独自の学級経営&教科指導で子供たちのやる気を引き出す「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、「自分の子供は日記を書くことが好きで、丁寧に理路整然とした文章で4~5ページに渡る日記を書いたところ、担任から『日記は1ページのみ』と指導を受けた。子供のモチベーションが下がらないか心配」という保護者、みみゆさんの悩みにアドバイスいただきました。

撮影/下重修

ボクが日記に文字数制限をつけない理由

ボクのクラスに限って言うと、日記に関しては、文字数制限はない

ルールは「毎日出す」ということのみ。

だから極端だけど、「おやすみ」という4文字だけの子もいるし、何ページにもわたる長い日記を書いてくる子もいる。

日記に文字数制限をつけないのは、ボクが日記を続けている最大の目的が、日記という子供一人ひとりとつながるチャンネルをつくり、子供が何か困った時に直接担任にSOSを出しやすくする、ということだからだ。さらに、とにかく何でもいいから毎日書いて出す、ということをくり返すことで、子供たちの「書く」ということに対するハードルを下げ、習慣づけしたいということももう一つの目的だ。

だから書くことが嫌いにならないように、文字数制限をつけないし、日記に書いた文章や文字を細かく添削したりもしない。間違った文字を書いている場合には、さりげなく正しい字を書いたりするけれど、そうした文章指導はおまけのようなものだと思っている。

また日記は必ずその日に返すことを自分に課しているので、ボクのコメントはすごく短い。 それでも、「毎日コメントありがとう」と言ってくれるし、子供たちは喜んでくれていると思う。

先生に指示の意図を聞いてみよう

率直な意見を言わせてもらうと、学校側にも「日記は1ページまで」と設定した意図があるはずだから、一度その意図について説明してもらうとよいと思う

例えば、

・文字数を意識して短く書く練習をする
・書きたいことを取捨選択できるようする
・文章の長さよりも、正しく書くことを重要視している

といった教育的目的があるかもしれないし、

・教員の負担を減らすため
・文章を添削するため、長い文章を読む時間がない

など、教員側の事情があるかもしれない。

「正しく書く」ことが目的なら文字数制限もアリ

もし学校側が「文章を正しく書く」ということにプライオリティを置いているのであれば、文字数制限を設けるというのも理解はできる

ボクも作文の練習の場合は文字数制限をかけるよ。

それは、書く量よりも質、つまり、正しい作文の書き方を覚えるということを優先しているからだ。

もし「原稿用紙1枚まで」と伝えているのに、それ以上書いてきた場合は、「1枚にまとまるように書こう」と伝えるだろう。

「できるだけたくさん漢字を使って20文字の例文を作ろう」という課題を出すときも、どんなにたくさん漢字を使っても、文字数オーバーしたら評価はしない。

だって、文を長く書けばたくさん漢字を使えるのは当たりまえ。20文字以内に収めるよりもずっと楽だ。

さらに言うと、日記も作文も長い文章を書いただけではあまりほめたりしない。長い文を書くだけなら、あったことをただ細かく書けばよいだけなので、あまり難しいことではないよね。

また長く書いた子をほめると「長く書かなくてはいけないのか」とプレッシャーを感じて「作文嫌い」「日記嫌い」な子が出てきたり、逆に「長く書けばよいのか」と勘違いして、毎日ひたすら同じことを長文で書いてくる子も出てきたりするからだ。

子供は少しだけ制限があるほうがやる気が続く

要するに、日記というものの価値をどこに置くかによるよね。

だからやはり先生に直接、日記を1ページで収めなくてはいけない理由を説明してもらうとよいと思う。

ただし、その学校側の理由に対して、子供と保護者が納得するかが問題だ。

学校側は、子供がちゃんと納得するような説明をすべきだと思う。
でももし「本人が書きたいなら、長い文を書いても問題ないはず。むしろ先生は子供をほめてもっと励ますべき」という想いがものすごく強ければ、学校側の説明になかなか納得できないかもしれない。

ただそれは、あくまで保護者の意見だよね。
子供の気持ちはどうだろう? 実は本人は納得していて、「がんばって1ページでよい日記を書こう」と考えたりしていないだろうか

ボクの経験では、子供は少し制限を与えたほうがやる気が持続する。
「好きなだけ」「やりたいだけ」と言うと、最初は喜ぶけど、そのやる気は持続しないことが多い。

例えば、「問題は10問あるけれど、今日は8問しかやっちゃだめだよ」と伝えると、「8問ならいいや」と前向きになったり、不思議なことに「えー! 10問やりたい」と言う子さえ出てくる。

U2という計算トレーニングも、「2分」という制限を与えるから、子供たちのやる気に火が付き、何度もトライしようとする。

お子さんは丁寧に理路整然と長い文章を書けるのだから、書くことがとても好きなんだろうし、それはとてもすばらしいこと。できれば好きなだけたくさん書かせてあげたいという気持ちもわかるけれど、制限があったとしても、それは子供の書く力のレベルを一段上げることにつながると捉えて、励ましてあげてはどうだろう

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沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/

取材・構成・文/出浦文絵

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