自尊感情を引き出す個別指導【4年3組学級経営物語13】
9月②「がんばり発表会」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。自分磨きの夏季休業を終え、ひと回り成長した渡来先生! 久しぶりの教室で、学級目標を子どもたちに熱く語る中、教室には空席が二つ…。愛、情熱、共にさらにパワーアップした渡来先生は、生徒一人ひとりと向き合いながら、「認めあい支えあう学級づくり」に挑みます!
目次
<登場人物>
個別指導(その2)~リュウの場合~
対人関係が苦手で、過去に不登校も経験したリュウ。いつも独りで自由帳に何かを描いており、オタク、ネクラと陰で言われています。
夏休みに入り、ずっと自室にこもるリュウ。
心配したお母さんが、自由帳を取り上げました。
再び心を閉ざしたリュウ。*ポイント1
*ポイント1
「10歳の壁」とは…
この時期の子どもは、抽象的・論理的な思考ができるようになります。自己肯定感をもち始め、社会性の面では、集団の規則を理解して活動に主体的に関わったり、自分たちでルールをつくり守ったりできるようになります。友達関係も、単なる「仲よしグループ」から「信頼できるグループ」へと変化していきます。以上のような様々な面での発達と、その個人差が、「10歳の壁」となっているのです。
この壁を乗り越えることは、子どもにとっては「飛躍のチャンス」です。次のような点について留意しながら指導を進め、子どもの「飛躍」を後押ししましょう。
① 抽象的な思考への適応を重視し、他者の視点に対する理解を深めることができるようにする。
②自己肯定感を育成する。
③ 自他の尊重の意識や他者への思いやりの心などを育む。
④ 集団における役割の自覚や主体的な責任意識を育成する。
⑤ グループによる体験活動を実施し、実社会への興味・関心を持つきっかけをつくる。
話を聞き、家庭訪問した渡来先生が、部屋の前で呼びかけました。
「リュウ。叱られたのか、お母さんに…」
ドアがそっと開き、暗い表情のリュウが顔を出しました。
「みんな僕のこと、オタク、ネクラって。お母さんも…。どうせ、友達いないし」
胸の思いを吐き出すリュウ。
フウッとため息をつき、預かった自由帳をパラパラ広げる先生。
「…ん!」
ため息が、驚きの声に変わる先生。
「リュウって、こんなにマンガ描くのが上手だったんだ! 得意なのか?」
真顔で聞く先生に、恥ずかしそうにちょっとだけ頷くリュウ。
「これは葵先生のピアノ、大河内先生のジャグリングと同じくらいすごい…。特技認定だ!」
リュウの肩に手を置き、ニッコリ微笑みます。
「今、閃いた! その特技を生かす方法を!」
不安そうなリュウ。
先生が大胆に提案します。
「名付けて、デビュー大作戦! このマンガ、絵はすごく上手だけど、ストーリーは未熟だよ。そこで提案だ! 先生が、楽しいストーリーを考える。リュウは、それをマンガにするんだ」
話を続ける渡来先生。
「題名は、『オタッキー参上!』。主人公のオタッキーが、オタクパワーで世直しをする話だ。オタッキーはリュウの分身だ。さあ、一緒に明るいマンガをつくろう。時間がないけど、デビュー目指して頑張ろう!」
「認めあい支えあう学級づくり」にトライ!
二学期最初の参観日、たくさんの保護者の方々で満員の教室。
壁一面に展示された、夏の自由研究作品。
一際楽しそうな『オタッキー参上!』は、リュウと先生の共同作品です。
「本当に上手ね」
「すごいなぁ」
休憩時間中の保護者の方々の会話が、リュウの自信を高めます。
「こんな特技があったんだ」
「学級新聞に載せてよ」
みんなに褒められ、照れ笑いのリュウ。
『オタクは、世の中の発展に役立ってきたんだ。プライドを持って、もっといろんなことにトライしろよ!』
優しい眼差しで見守る、渡来先生。
チャイムが鳴りました。
授業再開です。
次は、自由研究発表会。*ポイント2
夏休みの「がんばり発表会」で、自信をもってスタート!
二学期の始めには、夏休みの体験や自由研究、努力したことなど、自分のがんばったことを発表し合う場を設けてみましょう。がんばりを認めてもらうことが自信につながり、気持ちよく二学期をスタートできるはずです。
♢グループ分け
学習グループ… 漢字・読書・計算・リコーダーなど
作品グループ…習字・工作・絵 など
研究グループ…都道府県調べ・観察記録 など
体験グループ…お手伝い・日記・体験記 など
体育グループ…水泳・なわとび・マラソン など
♢発表の仕方
◦実物を見せる…ノート・作品・自由研究など
◦ 実演する…教室内でできる運動系(なわとび・リフティング・水泳のフォームなど)・楽器の演奏・お手伝いの様子 など
◦ 写真を見せる…旅行記・観察日記・自由研究など
◦クイズ形式にする
「西華町の歴史」
「ジャンヌさんの故郷フランス」
「食物と健康」
等々…。
個人やグループでいろいろな成果を披露します。
今回、先生が特別指導した子どもはたくさんいました。みんな、堂々と発表しています。
「生物時計の発表です」
マリが話し始めました。
「体内時計とも言います。私たち生物の体には、睡眠や食事などを取る時間を測る時計のような仕組みがあります。この体内時計がキチンと働いていれば、健康な生活ができます」
自作の絵や図を折々に示しながら、説明を続けます。
そして、結びの言葉です。
「夏休みに私の時計はめちゃめちゃになりました。朝起きられませんでした。修理してくれたのは、トライだ先生です」
一斉に見つめられ赤面する先生。
「毎朝、毎晩、電話でコールしてくれました。そして最後の日、もう4年生だから親に頼らず、自分で生活をコントロールしろ、と厳しく叱ってくれました。先生、ありがとうございました」
深々と一礼し、発表を終えたマリ。教室全員から、大きな拍手が沸き起こりました。
「…最後は先生の力作、『レッツ トライだ 戦国武将』。時間がないです。手短に!」
司会のヒロの言葉に、大慌ての先生。
「人は城、人は石垣、人は堀…」
その時、無情にもチャイムの音が…。でも、落胆する間もなく、教室のみんなから嬉しい声が!
「続き聞きたい」
「トライして!」
本当に嬉しそうな渡来先生、発表再開です。
(10月①につづく)
『小四教育技術』2017年9月号増刊より