自尊感情を引き出す個別指導【4年3組学級経営物語13】

9月②「がんばり発表会」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。自分磨きの夏季休業を終え、ひと回り成長した渡来先生! 久しぶりの教室で、学級目標を子どもたちに熱く語る中、教室には空席が二つ…。愛、情熱、共にさらにパワーアップした渡来先生は、生徒一人ひとりと向き合いながら、「認めあい支えあう学級づくり」に挑みます!
目次
<登場人物>

主人公。教職1年目。教師になる熱意に燃えて、西華小学校に赴任。 やる気とパワーは人一倍あるものの、時には突っ走り過ぎるのが玉にキズ。しばしば飛び出す口癖から「トライだ先生」と 呼ばれるようになる。4年3組担任。

教職20 年の経験豊富な学年主任。4年1組担任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。

教職3年目。4年2組担任。新採のトライだ先生を励ましつつも一 歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
個別指導(その2)~リュウの場合~
対人関係が苦手で、過去に不登校も経験したリュウ。いつも独りで自由帳に何かを描いており、オタク、ネクラと陰で言われています。
夏休みに入り、ずっと自室にこもるリュウ。
心配したお母さんが、自由帳を取り上げました。
再び心を閉ざしたリュウ。*ポイント1
*ポイント1
「10歳の壁」とは…
この時期の子どもは、抽象的・論理的な思考ができるようになります。自己肯定感をもち始め、社会性の面では、集団の規則を理解して活動に主体的に関わったり、自分たちでルールをつくり守ったりできるようになります。友達関係も、単なる「仲よしグループ」から「信頼できるグループ」へと変化していきます。以上のような様々な面での発達と、その個人差が、「10歳の壁」となっているのです。
この壁を乗り越えることは、子どもにとっては「飛躍のチャンス」です。次のような点について留意しながら指導を進め、子どもの「飛躍」を後押ししましょう。
① 抽象的な思考への適応を重視し、他者の視点に対する理解を深めることができるようにする。
②自己肯定感を育成する。
③ 自他の尊重の意識や他者への思いやりの心などを育む。
④ 集団における役割の自覚や主体的な責任意識を育成する。
⑤ グループによる体験活動を実施し、実社会への興味・関心を持つきっかけをつくる。
話を聞き、家庭訪問した渡来先生が、部屋の前で呼びかけました。
「リュウ。叱られたのか、お母さんに…」
ドアがそっと開き、暗い表情のリュウが顔を出しました。
「みんな僕のこと、オタク、ネクラって。お母さんも…。どうせ、友達いないし」
胸の思いを吐き出すリュウ。
フウッとため息をつき、預かった自由帳をパラパラ広げる先生。
「…ん!」

ため息が、驚きの声に変わる先生。
「リュウって、こんなにマンガ描くのが上手だったんだ! 得意なのか?」
真顔で聞く先生に、恥ずかしそうにちょっとだけ頷くリュウ。
「これは葵先生のピアノ、大河内先生のジャグリングと同じくらいすごい…。特技認定だ!」
リュウの肩に手を置き、ニッコリ微笑みます。
「今、閃いた! その特技を生かす方法を!」
不安そうなリュウ。
先生が大胆に提案します。
「名付けて、デビュー大作戦! このマンガ、絵はすごく上手だけど、ストーリーは未熟だよ。そこで提案だ! 先生が、楽しいストーリーを考える。リュウは、それをマンガにするんだ」
話を続ける渡来先生。
「題名は、『オタッキー参上!』。主人公のオタッキーが、オタクパワーで世直しをする話だ。オタッキーはリュウの分身だ。さあ、一緒に明るいマンガをつくろう。時間がないけど、デビュー目指して頑張ろう!」