【指導のパラダイムシフト#5】漢字テストのパラダイムシフト②

連載
指導のパラダイムシフト~斜め上から本質を考える~

池田修先生×藤原友和先生のコラボにより、斜め上から本質を考える好評連載。第5回のテーマは、「漢字テストのパラダイムシフト その2」です。

執筆/京都橘大学発達教育学部児童教育学科教授・池田修、北海道函館市立公立小学校教諭・藤原友和

池田修

池田 修(いけだ・おさむ)1962年東京生まれ。国語科教育法、学級担任論などを担当。元中学校国語科教師。研究テーマは、「国語科を実技教科にしたい」「楽しく授業を経営したい」「作って学ぶ」「遊んで学ぶ」です。ハンモッカー。抹茶書道、ガラス書道家元。琵琶湖の話と料理が得意で、この夏は小鮎釣りにハマってます。

藤原友和

藤原友和(ふじわら・ともかず)1977年北海道函館市生まれ。4年間の中学校勤務を経て小学校に異動。「ファシリテーション・グラフィック」を取り入れた実践研究に取り組む。教職21年目の今年度は、教職大学院で勉強中。教師力BRUSH-UPセミナー、函館市国語教育研究会、同道徳研究会所属。

関連記事 ⇒ 前回の「漢字テストのパラダイムシフト」もチェック!

採点、返却時の指示を再考する

漢字テストが終わりました。あなたは、採点をしてその結果を子供たちに返却することになります。 まあ、この先、GIGAスクールで子供の学習環境が変わっていくことに伴って、テストや採点も変わっていく可能性がありますから、これから書くことは10年先には、必要のないことになるかもしれません。

しかし、単に知識を問うテストは、オンラインではしにくいと今は感じています。また、採点や返却を通して、自分の指示を改めて考えておくことは意味があると思います。

Q1. 次の採点は、訂正の必要な採点です。どこがおかしくて、なぜおかしいのか考えてください。

漢字テスト

Q2. また、どうやればいいのか実際の採点を考えて、行ってみてください。

A1.             

A2.             

どこがおかしい、なぜおかしい

このテストの採点、割と見かけます。学生たちに漢字テストを交換させて採点させ合うと七割ぐらいがこの採点の仕方です。まあ、同級生のテストを採点するため多少の遠慮があって、こんなふうに採点するのでしょう。

こんなふうとはなんでしょうか?
それは、問題の数字のところに○×をするというものです。
これがダメです。
なぜダメなのでしょうか。
それは、どこが間違えているのかを指摘していないというところにあります。
×を付けるときは、間違っている場所に×を付ける。これが基本です。

また、もう一つダメな理由があります。
答えが思い浮かばずに、解答欄を空白のまま提出する児童生徒がいます。
この数字に○×を付けると、解答欄の空白は、空白のままとなります。これが問題です。なぜ問題なのでしょうか。
答案を返却したとき、空欄に正解を書き込み、
「先生、書いてあるのに丸が付いていません」
とこの答案タイミングで不正をしてくる子供が出てしまうのです。

カンニングは試験中だけではありません。試験後の答案の回収のときと答案を返却のときにも起きます。数字のところに○×では、解答欄に書き込みが可能な状況をつくってしまいます。これはまずい。

空欄のところには、

をしておく必要があります。これにより、
「ここは、空欄だったのだよ。その証拠」
ということを示すことができます。

人間の心には、闇があり、闇の中には鬼が住んでいると私は考えています。 その鬼が、ひょっこりと顔を出すことがあります。これが、”魔がさす”でしょう。

「今度の漢字テストで満点を取ったら、Switchのソフトを買ってもらえるんだ」

という子供がいて、たった1箇所書けなかった。だけど、返却された答案を見たら、空欄になっている。そんな子供が後から答えを書いて先生に○をもらおうとするというのは、やってはいけませんが、いけませんが、やってしまうかもしれない。

でも、これは、子供がカンニングをすることができるような採点をした先生に責任があると私は考えます。

問題の数字に○付けをするのをやめて、解答に○付けをする。そして、空欄には✔の印を付けておく。これだけで、子供がカンニングしてしまうのを防げるわけです。私なら、以下のように採点します。

漢字テスト間違い

余談です。答案の正解に○を付けるのは、日本の文化では当たり前すぎるぐらいに当たり前ですが、世界では当たり前ではないことです。例えば、アメリカや中国では、正解は、✔(チェック)を付けると言います。ですから、日本の花丸なんていうのは、かなり特殊なものになるのかもしれません。

Q3. 次の指示は、訂正の必要な解答返却時の指示です。どこがおかしくて、なぜおかしいのか考えてください。

Q4. また、どうやればいいのか、実際の指示を考えて指示を出してください。

訂正の必要な指示の例

「今から漢字テストの答案を返却します。出席番号順に返しますので、名前を呼ばれたら取りに来なさい」
「池田、井上、内田、、、、、山田、渡辺。はい全員の返却が終わりました。立っている人は、席に戻りなさい」
「それでは解説を始めます」

あなたの考え

A3.             

A4.             

どこがおかしい、なぜおかしい

1.「今から漢字テストの答案を返却します。出席番号順に返しますので、名前を呼ばれたら取りに来なさい」

もうお分かりかと思います。
そうです。
「筆記用具を筆箱にしまい、筆箱はカバンの中に入れなさい」
という指示が抜けています。これをしないと、答案返却時のザワザワの中に紛れて、答案を修正する子供が出てきます。出る環境を教師がつくってしまっています。これは避けなければなりません。

答案返却時、本当は、名前を呼ばれた人以外は席を立つことのない状態にしたいのですが、それは 現実問題として難しい。子供たちは返却された答案を見て一喜一憂しています。そして、仲間のところに答案を持っていって見せ合っています。

一方教師は、簡単に一人一人にコメントを言いながら返却しています。 とてもではありませんが、答案返却をしながら、教室の様子を確認するのは無理です。どうしても、死角が生まれます。

だから、こそ、筆記用具はしまっておく必要があります。

2.「池田、井上、内田、、、、、山田、渡辺。はい、全員の返却が終わりました。立っている人は、 席に戻りなさい」

私はこれを「山田さん、渡辺さんの悲劇」と呼んでいます。
私は池田なので、答案の返却は最初の方です。一番最初のときもありました。配慮しない教員は、 答案を表にしたまま教卓の上に置き、一番前の生徒から丸見えということもありました。これは イケダ少年の悲劇です。

イケダ少年はまあいいのですが、「山田さん、渡辺さんの悲劇」とはなんでしょうか。
「池田、井上、内田」と最初に呼ばれた児童は、返却された答案に嘆き苦しみ仲間と慰め合う時間があります。しかし、「山田、渡辺。はい全員の返却が終わりました。立っている人は、席に戻りなさい」としてしまうと、山田さん、渡辺さんは、返却された答案に嘆き苦しみ、仲間と慰め合う時間がありません。

その結果、どうなるかというと、教師が解説をしている最中に、隣の人と嘆き苦しみ、仲間と慰め合おうとするのですが、そうすると
「山田、渡辺、うるさい。ちゃんと解説を聞け」
と叱責されるのです。
ああ、かわいそうな山田さん、渡辺さん。これを悲劇と言わずしてなんと言いましょう。

3.「それでは解説を始めます」

この言葉の前に、1分の時間をとります。
「、、、、、山田、渡辺」
と配り終わったら、タイマーを1分間にセットして
「ピッ」
とスタートさせます。

その間、私はぼーっとしながら、あるものを見ています。
なんでしょうか?
それは子供たちの人間関係です。
答案を見せ合うというのは、心的な距離の近いもの同士が行うことです。答案を見せ合っている子供たちを見て
(へー、あの子とあの子が仲が良いんだ)
と確認したり、
(あれ、あの子は一人だなあ) と気が付いたりしながら時間を過ごします。 そのうちに時間がきます。
「ピピピ……」 と音が鳴ると、本当に見事に子供たちは何も言わずとも、自分の席に戻ります。
解説もスムーズに始められます。
山田さん、渡辺さんも、スッキリして解説に耳を傾けます。
山田さん、渡辺さん、よかったですね。

残念ながら、どうも怪しい

これだけ不正を防ごうと思っていても、悪意を持っている子供がいたら、それはなかなか防げま せん。もうこれは、返却前にコピーをとっておくしかありません。これが一番手っ取り早いかもしれません。

ちなみに私は、このような答案はすべて「スキャンスナップ」でPDFにしてパソコンに保存しています。この保存したものが使われることは滅多にないのですが、簡単に全員の答案がPDFになるので重宝して います。

全員でなく、数人の答案をPDFにするのであれば、スキャンスナップよりも、iPhoneのメモを使った方が楽です。

  1. iPhoneのメモを開く
  2. カメラのアイコンをクリックする
  3. 「書類をスキャン」を選択する
  4. 写真を撮る

これで書類は、簡単にPDFになります。
心配な場合は、これで撮影しておくことをお勧めします。

現場教師によるキャッチボール解説by 藤原友和

「管理的視点」と「共感的視点」

ついにテストが返却される日がやってきましたねえ。
教室は悲喜こもごも。「やったー」という歓声を上げる子もいれば、そっと答案用紙を折りたたんでお便り袋の奥深くにしまい込む子もいるかもしれません。

池田先生の今回の提言。ポイントは二つです。
一つにはカンニングが生じるような「隙」を徹底的に排そうとする「管理的視点」。
もう一つは、テスト後の喜びや悲しみを分かち合う時間を確保しようとする「共感的視点」。

それぞれ解説していきたいと思います。

「管理的視点」のポイント

池田先生が提示された場面は二つです。

・無回答の問いには、問題番号ではなく空欄に×をつけること。
・テスト返却時には、筆記用具をしまわせること。

どちらもカンニングが発生しないようにするという「環境を基盤としたシステム(※前回参照)」ですね。悪意をもち、入念に計算されたカンニングでなければ「つい、出来心で」ということもないと思われます。

管理的視点により、物理的にカンニングが生じる隙を排除する。前回同様に大切な視点だなと思いました。

ところで、私は漢字50題テストに際して「問題番号に×」していました。回答欄の横に正しい漢字を書いておいてあげて、それを見ながら正しい字を練習できるようにしています。

テストが終われば、誤答・空欄は「オリジナルのワークシート」になりますから。この方法、空欄が多い子には使えませんが(笑)、そうならないように事前の練習がしっかりできるように指導をしています。

テスト返却・藤原学級の場合

では、私の学級でのテスト返却の方法をお示しして、カンニングが生じる「隙」がないかどうかふり返ってみたいと思います。

 テスト実施前に「テスト記録用紙」に予想点数が記入してある。)
  黒板前の教卓に、返却の準備をする。(①採点済み答案用紙②解答・解説書)
  間を取りながら出席番号5番まで教卓前に並ぶ。
  並んだ順に解答・解説書を1枚とる。
  出席番号順に答案用紙を取りに来る。戻るときは一方通行
  出席番号6番以降は、「列を途切れさせない」「密にならない」タイミングで列に並ぶ。
 6 席に戻ったら「テスト記録用紙」に実際の点数を記入し、振り返りを書く。

テスト返却は、成績処理の関係で出席番号順にそろえられます。従って、返却も当然のごとく出席番号順ということになります。今はコロナの関係で「密」を避けねばなりませんから、私の教室では出席番号順に間を開けて一列に並び、一方通行で取りに来ることとしています。

そして、小学校では業者テストを使いますので、解答・解説のプリントもテストのセットに含まれています。これを同時に配付します。ですから、解答・解説の時間はあまりとっていません。

それよりも、テスト実施前に記録用紙に「予想点数」を書いて、返却された後に「実際の点数」および「分析」を書かせるようにしています。

その日の宿題は、間違えた問題をもう一度解くこと。そして、なぜ間違えたのか、どうしておけば間違えなかったのかを文章で記述するという課題を出しています。

とはいえ、セキュリティは穴だらけですね。

得点記録用紙に点数と振り返りを書かせるために、筆記用具は出しっぱなしです。

点数記録と振り返りを書いている間は立ち歩いていますし、解説もほとんどありません。せいぜい個別対応しているくらいです。

カンニング、誤答の書き換えはどの程度発生しているのでしょうか。

感覚的には「ない」と思いますが、見逃しているだけかもしれません。見直します(笑)。

ではここから、そもそもカンニングが起きづらい雰囲気はどうつくるのかということについて、池田先生の示してくれた「共感的視点」を軸に話を進めていきます。

「共感的視点」で保障される交流の「質」を高める

池田先生は、出席番号順でテストを返すことでどうしても発生してしまうタイムラグに注目されています。そして「山田、渡辺の悲劇」が起きていることを指摘し、テスト配付完了から1分間を交流の時間としています。加えて、この時間における「素」の生徒の動きから、人間関係を観察しています。

中学校の先生は試験監督に自学級以外にも行きます(池田先生は、元中学校教員です)から、生徒観察の機会を逃さないこうした視点は、小学校に勤めている私にも大変参考になりました。

生徒には生徒の感情があり、人間関係があり、テストに対するさまざまな思いがあります。そしてそれを生徒同士の「横の関係」において十分に外化させることは、生徒さんたちの気持ちを考えたときにとても大切な時間になるだろうと思いました。

まさしく、「共感的視点」で生徒の気持ちに寄り添った結果、この後の解説を聞くときにはスッと気持ちを切り替えて臨むことができたのではないでしょうか。

さて、この話と「カンニングがそもそも起きない雰囲気づくり」とはどのように関係するのでしょうか。友達同士で答案を見せ合っているとき、そこではどんな会話が交わされているのか考えてみると、ヒントが得られます。

「この問題できた?」

「ねえねえ、ここ、本当は……ってわかってたのに、……って書いちゃった」

「単位忘れてた!」

「迷ったけど、こっちであってた!」

「ここ、勉強してたのに、間違った!」

いかがでしょう。読者の皆様の学級も同じ? それとも全然違いますか?

おそらく、あたらずとも遠からず。「テストに対する自分のアプローチとその結果」を、とても分析的に情報交換しているのではないでしょうか。

この分析が、テストまでの学習のサイクルに組み込まれ、今回のテストの点数が、次回のテストに向けた計画へフィードバックされたとき、テストはあくまでも自らの「学習スキルの現在地を示すもの」と転換していきます。

「テストの点数が良かったか」ではなく、「学習の進め方がよかったか」にふり返りのポイントが移っていく、ということです。

先程の藤原学級のレポートで少し紹介した「テスト記録用紙」はそのために、単元の学習計画と家庭学習の計画にリンクさせています。

繰り返しますが、テストの点数は(数値化された学力ではなく)自分の学習スキルのバロメーターです。そのように捉えたときに、答案を見せ合う子供たちの交流の「質」が上がっていくのではないでしょうか。

いやー、テスト一つでここまで頭を使ったのは初めてかもしれません。

奥が深いですね。

ではまた次回、よろしくお願いします!

池田修先生×藤原友和先生コラボ連載「指導のパラダイムシフト~斜め上から本質を考える~」ほかの回もチェック⇒
第1回 避難訓練のパラダイムシフト
第2回 忘れ物指導のパラダイムシフト その1
第3回 忘れ物指導のパラダイムシフト その2
第4回 漢字テストのパラダイムシフト その1

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