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平川理恵✕のもきょう(野本響子)教育談義レポート#2~「いい教育ってどんなもの?」を考えるために大切なこと――一斉指導vs探究学習の二項対立を超えて

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第1回では、不登校という「経路」を通らなければ学び方の選択肢を持ちにくい現状、文部科学省が掲げる理念の実装、そして「いい教育」が話題にのぼりました。第2回では、「いい教育」を考えるための議論は、なぜすれ違いがちなのか。混迷しがちな「今後目指すべき教育」に関する議論をどのように交通整理すればいいのかについて考えます。

本記事は、2026年9月15日にVoicyで生配信された2本の「教育談義」(全3時間!)を、ギュッと濃縮してお届けするものです。音声でじっくり聞きたい方は、こちらからアーカイブをお聞きいただけます。▶ 教育談義・前半 ▶ 教育談義・後半

平川理恵 前広島県教育長。広島では年間予算1580億円、2万6000人の教職員のマネジメントを行う。

野本響子 文筆家・編集者。マレーシアでの子育てを経験し、海外の教育現場を取材。

「いい教育」を議論する前に

野本 日本で教育の話をすると、方法論の話になりがちだと感じています。「宿題は出したほうがいい」「出さないほうがいい」「先生がきちんと教えるべきだ」「子どもにもっと自由にやらせたほうがいい」といった風にです。でも、その前に、一つ大切な問いがあると私は考えています。

前編でもお話ししましたが、私が海外の大学院で教育学を学んだ時、最初に問われたのが、「あなたは、どんな教育観を持っていますか?」ということでした。

海外で教育の話をする時は、自分の意見を言う前に「私はデューイの思想に共鳴しています」「ピアジェやヴィゴツキーの考え方を授業に取り入れています」などと、自分がどんな教育観に立って教育を考えているのかを示す人が多いのです。

デューイ 経験を通した学びを重視した教育思想家。/ ピアジェ 子どもの認知発達を研究した心理学者。/ ヴィゴツキー 他者との関わりの中での学びを重視した心理学者。

自分や相手の教育観がわかると、議論の前提を整理しやすくなります。教育哲学を共有しておくことで、話合いの地平線ができる。だから、「どの教育方法が正しいのか」を議論する前に、自分は何を大切にしているのか、相手は何を大切にしているのかを知ることが大切だと思います。

「どんな子どもを育てたいですか? そのために、必要な学びは何ですか?」

自分がどんな教育観に立っているのかを明らかにして議論すれば、「宿題を出す/出さない」「先生が教える/子どもに任せる」といった方法についての議論だけを戦わせるのではなく、なぜ、その方法を選ぶのかという部分を話し合える。議論がぐっと深まりやすくなると思うんです。

豊かな「探究的な学び」のために

平川 今、日本の教育には、大きく二つの学びの流れがあると思うんです。一つは、先生が教科書に沿って知識を教え、子どもがそれを学び、テストで習得度を測る従来型の一斉指導。もう一つは、子ども自身が問いを立て、調べ、考えながら学んでいく探究型の学びです。

今、学校では「探究学習」が重視される方向に変わりつつありますよね。子どもが自分で問いを持って、自分で考えながら学んでいく。これを「いい教育」と考える人は多いと思うんです。

野本 私も探究的な学びは大切だと思っています。ただ、「子どもが主体的に学ぶ」ことと、「子どもに全部任せる」ことは、同じではないと思うんですよね。完全に学びが任されていると、自分の好きなことを深く追究できる一方で、興味の範囲がだんだん狭くなっていくこともあります。
自分が知らない領域やテーマは、そもそも「学んでみたい」と思うこともできない。だから、先生から自分では選ばない課題を与えられて、「何それ?」と興味を持つことも大切です。

平川 だから、どっちもありなんです。知識を教えてもらう学びにも意味があるし、自分で選んで深めていく学びにも意味がある。学校には他の子もいるから、ある子が魚についてずっと調べていたら、隣では宇宙を調べている子がいる。「何それ?」ってなる。向こうでは百人一首を学んでいて、「それも面白そう」となる。自分一人では出会わなかったものに、他の人を通して出会えるんです。

野本 それって、「社会構成主義」の学びですよね。

社会構成主義 知識は一人で獲得するだけではなく、他者との対話や関わりを通してつくられていくと考える学習理論。

平川 それに、子ども自身も変わります。ある時は「自由に学びたい」と思っていても、後から構造化された学びの中に入りたくなることもある。そこから、また自由に探究したくなることもある。子どもの学びって、行ったり来たりするんです。

野本 かつて私が働いていたプログラミング教室では、最初、何も知らない子どもたちにアプリを作らせた後、理論を学び始めるスタイルをとっていたことがあります。多くの習い事は、最初、基礎を教えて、だんだん難度をあげていきますが、その反対です。そうすると子どもたちは、「これを作るためには、この基礎の学びが必要なんだ」と気づく。最初に「これを作りたい」という全体像があって、必要になったものを後から学んでいく。そういう学び方が合っている子もいるんですよね。

平川 探究学習も同じです。「これを知りたい」「これをやってみたい」という問いがあっても、それだけで学びが深まっていくわけではありません。問いを追究していくためには、必要な知識や技能があります。やりたいことと、それを実現するために必要な知識や技能――その間に「梯子」をかける。
この梯子がないまま、「自由にやっていいよ」と子どもに委ねてしまうと、探究は行き詰まりやすい。
子どもたちに自由に任せるだけではなく、必要に応じて教師が知識を手渡したり、別の世界と出会わせたり、次の一段に上がるための足場をつくったりする。探究学習には、そうした仕組みも必要なのだと思います。

野本 全員にその方法が合う、というわけでもありません。基礎から順番に積み上げていかないと不安になってしまう子もいます。教科によっても違うし、発達段階によっても違います。だから、「探究学習だからいい」「一斉授業だからダメ」という話ではないんですよね。

探究学習も一斉指導も「方法」である

平川 そうなんです。学ぶ内容、学ぶペース、学び方。それらを選べるようにしていくことが大切なんだと思います。

野本 探究学習も一斉指導も「方法」なんですよね。探究学習を取り入れれば、それだけで子どもが主体的になるわけではない。逆に、一斉授業だから主体性が育たないとも限りません。大事なのは、なぜ、その方法を選ぶのか、という問いを持つこと。その方法を選ぶことによって、子どもの中にどんな学びを生み出したいのか、そして、実際にはどんな学びが生まれているのか。ここでも最初の「教育哲学」に戻ってくるんです。

平川 学校も同じだと思うんですよね。自由を最大限に尊重する学校があってもいいし、基礎的な学びをしっかり積み上げる学校があってもいい。海外には、イエナプラン、モンテッソーリ、シュタイナーなど、それぞれの教育哲学を掲げる学校があります。大切なのは、その学校が何を大切にしているのかを、先生だけでなく保護者も理解できることだと思うんです。

野本 そうすると、担任や校長が替わった途端に教育が180度変わる、ということも起こりにくくなります。

日本では、素晴らしい実践をされている「カリスマ先生」に注目が集まりがちです。でも、その先生が他の学校に異動したら、地域にとっては実践そのものがなくなってしまう。それでは、子どもたちが困ります。

だからこそ、誰か一人の先生のやり方ではなく、「私たちは、何を大切にして子どもを育てるのか」という根っこを、学校全体で持つ必要があると思います。「探究か、一斉授業か」「自由か、管理か」などと方法論だけで正解を決めようとするのではなく、その奥にある「なぜ?」について話してみる。そこから、「いい教育」を考える対話が始まるのではないでしょうか。

次回からは、いよいよ教育現場の「今」へと具体的に踏み込んでいきます。実際に現場にいらっしゃる方々をゲストにお招きし、お話を伺っていきます。

(文/楢戸ひかる)

平川理恵(ひらかわ・りえ)
京都市生まれ。(株)リクルートに入社。企業派遣により1998年、南カリフォルニア大学経営学修士(MBA)取得。1999年、留学仲介会社を起業し、10年間黒字経営を果たす。2010年、全国で女性初の公立中学校民間人校長として横浜市立中学校長に就任。2018年より広島県教育委員会教育長。年間予算1580億円、2万6000人の教職員のマネジメントを行う。その間、文部科学省等の政府審議会委員なども務める。2024年8月、株式会社アカデミア・ネクサスを設立。

野本響子(のもと・きょうこ)
文筆家・編集者・大学院生。パソコン雑誌・カメラ雑誌編集者を経て、マレーシアに11年滞在し、現地教育機関を取材。著書に『子どもが教育を選ぶ時代へ』(集英社)、『東南アジア式「まぁいっか」で楽に生きる本』(文藝春秋)など。

楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。教育・お金をテーマに取材・執筆。近年は、不登校の子どもたちの学びの場やギフテッド教育を継続的に取材し、多様な学びの選択肢を探究している。Webサイト「主婦er」運営。著書に『ギフテッド応援ブック』『不登校だから、輝ける!』(ともに小学館)など。

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