起爆剤になるか!自由参加の異学年交流活動【5年3組学級経営物語4】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」
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通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。児童会活動で提案した異学年交流活動にコンセンサスがとれず、まずは学級独自の自由参加活動としてスタートさせることになった5年3組。
自主的活動の「お助け会」活動は成功するか!? 学校、学年の活性化にトライする渡来勉先生。子どもたちのためにレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

5月②「異学年交流」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

お助け隊、始動!

「今朝から、お助け隊の活動を始めます!」

朝の職員室、打ち合わせで嬉しそうに話す渡来先生。一か月間の自主的活動が始まりました。活動に期間を設定したのは、大河内先生の発案です。

昼休みには、5年3組中心のお助け隊が1年と仲良く遊び始めました。コミュニケ―ションを重視しニーズをリサーチする、カオリの案です。

一週間後―お助け隊のメンバーが自主的に児童会室に集まり、振り返りを行いました。

「遊ぶだけじゃなく、勉強も教えてほしい…。そんな意見が、意外に多かったんです」

3組のサキやマユミに続き、1組のカオリが発言。メンバーは、少しずつ増えてきています。

「弟のリクエストだけど、読み聞かせもいいわ」

「活動が少しずつ広がっていくね。でも2組のカズやジュンも参加したがっていた。残念だわ」

そう呟くマリに、ハジメが冷静に分析します。

「オニセンの無言の圧力…、参加しにくいんだ」

みんなの不満を、全身で受け止める渡来先生。

「全力でトライすれば道は開く。そう信じたい」

会話が止まった児童会室。その時、ドアが開き1年担任の葵ゆめ先生が入ってきました。

主体的・対話的で深い学びにつながる異学年交流

「すごく喜んでいるわ、1年の子どもたち。今日は1年担任を代表して、お助け隊にお願いにきたの」

葵先生の説明を、興味津々で聞く5年たち。

「生活科に、『がっこうたんけん』という題材があるの。その活動に協力してほしいという意見が学年会で出たわ。お助け隊へのオファーよ!」…ポイント1

「1年に頼られちゃ、協力するしかないぞ!」

「じゃんじゃん教えちゃう、任せといて!」

嬉しそうな5年の子どもたち。しかし、葵先生は首を横に振ると、二人を見て言いました。

「1年たちは学校を探検し調べていく中で、たくさんの疑問を持つ。いろいろ質問してくるわ。その時に、疑問に寄り添ってあげてほしいの。最初から教えず、求められたら応じる。それから、調べた事を発表する際には、発表の仕方等をアドバイスしてね。…お願いできるかな?」

「主体的で対話的な学びですね。凄いなぁ!」

感心する渡来先生に、小声で囁く葵先生。

「この活動で、5年もコミュニケーション力の育成や思いやりの心の醸成が図れる。異学年交流で学びあいの実現ね。代表委員会で十分アドバイスできなかった埋め合わせ、…頑張ってよ」

お助け隊の、新しい活動が始まりました。

ポイント1【他学年との学習活動】
異学年交流(縦割り活動)等は、学校行事や生活科、総合的な学習等を中心に実践します。カリキュラムマネジメントで関連的に取り組み、活動目標のさらなる達成を図ります。
例えば、「がっこうたんけん」では1年は生活科等の目標を、対応する学年は活動する教科領域群(総合的な学習等)の目標の達成を各々図ります。その上で、単一活動として整合するように両学年で丁寧に打ち合わせていきます。「異学年活動のよさ」を生かした学びの機会が実現できるように取り組んでいきたいものです。

広がる「学びの共同体」

「あれが理科室。いろんな実験をする教室だよ。理科という勉強が、3年から始まるからね!」

「この樹の種類は…。ごめん、調べておくから」

休憩時の運動場や廊下、5年3組の教室で、こんな会話がよく交わされます。『がっこうたんけん』への協力が始まり、お助け隊の人数も増えました。そんな様子を見ながら渡来先生が廊下を歩いていると、難しい顔の鬼塚先生に呼びとめられました。

絞り出すような声で、鬼塚先生が呟きます。

「2組も…、今日からお助け隊に参加するから」

驚く渡来先生に、弱々しく語り出す鬼塚先生。

「自主勉強をすっぽかす子どもが増えた。自由参加だから、オレは止められない、…くそっ!」

愚痴まじりの参加宣言に、微笑む渡来先生。

「参画意欲が高まり、生活科への協力で学びに向かう力も…。これは立派な学習活動ですよ」

押し黙る鬼塚先生に、お助けバッジを手渡す渡来先生。活動の中で、子どもたちが考えた手作りのグッズです、2組も加わったお助け隊は、さらに活発化していきました。

ボトムアップから自主的な学校づくりへ

もうすぐ1か月。お助け隊の解散時期が近づいた放課後、渡来先生が1組教室を訪れました。

「6年の参加もあり、ますます広まってきました。高杉先生が認めてくださったお陰です」

礼を言う渡来先生に、ニヤリと笑う高杉先生。

「あの時に、代表委員会の議題に取り上げても中途半端に終わっただろう。しかし、全校的な取り組みにできた。策士だな…、大河内先生は」

えっ、と驚く渡来先生に嬉しそうに囁きます。

「代表委員会の議題を、学級が提案するケースは本校になかった。しかし、学校の活性化にはボトムアップが重要。3組の提案を活かし自主的な学校づくりを進めるよう、私はフォローを頼まれたんだ。あの時、内密で大河内先生に…」…ポイント2

恐縮する渡来先生に、ニヤリとする高杉先生。

「だが、フォローする前に草の根活動が提案された。活動内容も、実践を通じて練れていった」

簡潔な褒め言葉の後、さらに説明を加えます。

「お助け隊は起爆剤…。異学年交流の活発化や内容の充実、参画意欲の向上を図る臨時の課題達成チームだ。成果を児童会活動や学年行事に引き継がせるための、期間を限定した活動だ」…ポイント3

「全部、計画的だったんですね。最初から…」

「学校経営の極意だ…。自主性不足の学校、とくに6年の窮状を5年のボトムアップが覆した。お助け隊が、児童会活動も助けたんだよ」

感心する渡来先生に、穏やかに話す高杉先生。

急にドアが開き、鬼塚先生が顔を出しました。

「これって…、打ち合わせではないですよね」

ニコリと微笑み、手招きする高杉先生。

「極意の伝授だ、…皆でじっくり語り合おう」

「いや、業務効率化! メール送信でよろしく!」

立ち去る鬼塚先生をギロリと睨む高杉先生。

「この無礼者…、礼儀作法から徹底指導だ!」

業務の効率化は、廊下まで轟く咆哮にあっさり吹き飛ばされました。

ポイント2【ボトムアップの大切さ】
学級が提案した代表委員会の議題は、多くありません。しかし、自主的な学校づくりには、ボトムアップは大切です。年間計画の柔軟な運用や実践方法の工夫等が、児童会活動には必要です。
また、学級からの提案を肯定的に受け止め、実現に向けて協力しあう教師の姿勢が、子どもたちの参画意欲を高めていくのです。今回のような、学年や学級による課題達成チームは、筆者自身の実践が叩き台です。ボトムアップ育成の「土壌づくり」の工夫の一つとして提起しました。

ポイント3【異学年交流のさらなる充実】
さらに「心の交流の進化」や「充実した学び」を目指すためには、次の配慮が必要です。
・上学年は、下学年のニーズを探り自主的に解決する過程でリーダーシップを育みます。
・下学年は、甘えや依頼心でなく上学年の支援を受けつつフォロワーシップを育みます。
・課題達成チームを活用して活性化したり、他の教育活動と関連させて内容を深化したりして、異学年交流の目標のさらなる達成を図ります。

(次回へ続く)

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