主役は子どもたち!運動会改革にトライだ!【6年3組学級経営物語12】

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通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。

子どもたちが主体的に活動する運動会を目指し、「チーム運動会」を結成して運動会改革プロジェクトがスタート。順調に進むその陰で、鬼塚先生はある悩みを抱えていました…。

さあ、いよいよ運動会の本番! 「最高の運動会」の実現を目指し、レッツトライだ! そして、鬼塚先生自身の主体的な教員人生にもレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

9月② 「最高の運動会」の実現にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。


神崎のぞみ先生

神崎先生(神崎のぞみ/かんざきのぞみ)
高学年の音楽・家庭科の専科講師。インクルーシブ教育にも携わる。大学4年生のときに交通事故で片足をなくし、入退院で休学、留年(渡来先生と同じ年齢)。一度諦めかけた教師の夢へと一歩を踏み出し、西華小の常勤講師に就く。大学時代は陸上選手として活躍し、体力には自信あり。

活動意欲高まる子どもたち、主体的な生き方に悩む鬼塚先生

「リレーや騎馬戦では、自主練習を頑張ろうよ」

「5年との合同練習は、6年がリードしなきゃ」

「それに、応援や準備等の役割も工夫したいな」

講堂で次々と提案される意欲的な意見。それらを要領よくまとめていく司会のジュンたち。後方で見守る渡来先生に、神崎先生が囁きます。

「大改革ですね。練習や役割分担の見直しは…」

「昨日、社会参画の大切さを伝えました。ただ参加するよりも、責任を持って積極的に加わること。それが君たちの成長に、とても大切なことだとね…。でも受け売りです、大河内先生の」 ・・・ポイント1

頭を掻く渡来先生に、真顔で告げる神崎先生。

「責任を持ち、積極的に働く…。一人前の教師として、私も運動会に主体的に参画したいです」

えっと問い返した時、鬼塚先生が駆けつけてきました。そして、不機嫌な表情で呟きます。

「遅れて申し訳ない。親父と電話で揉めていた」

返答に困り、黙り込む渡来先生と神崎先生。申し訳なさそうに補足説明を始める鬼塚先生。

「夏休みから断っているが、地元の研究校への転勤をしつこく勧めてくる。西華小の勤務を続けたいオレの思いを否定し、学校長を通して…」

教育一家の期待に翻弄されながら、主体的な生き方を模索してきた鬼塚先生。子どもたちを見つめる視線に、熱い思いがこもっていました。

ポイント1 【社会参画の大切さ】
学習指導要領で「参加」という表現が、より能動的な「参画」に変わりました。子どもたちの「社会参画」の意識を高め、学校生活で実践を図る必要性が増したからです。その指導が「主体的に社会に加わり、自分事としてその運営に関わろうとする態度や能力等を育てる」という今日的な教育課題の解決につながることを、教える側がしっかり自覚しなければなりません。

動き出す「主体的な運動会」改革!

「まず紅白別に練習、次に対抗試合の予定です」

二週間後、夏の陽が眩しい運動場。集合した6年に練習内容を告げるカズ。続く渡来先生の号令で、紅白対抗リレーの自主練習を始めます。・・・ポイント2

バトンパス練習に励む紅組が、神崎先生に支援を求めました。元気よく駆けていく後ろ姿を見守り、高杉先生が渡来先生たちに囁きます。

「元陸上選手の面目躍如だな。…大河内先生から聞いたが、神崎先生には運動会で準備係を任せるそうだ」

「どうフォローするかですね。心配するより…」

頷く鬼塚先生が、嬉しそうに報告をしました。

「放送係の活動で、オレの出番を奪う子どもが増えた。先生だけが奮闘する運動会は終わりだ」

「先日、応援団OBの中学生たちが来校して『指示待ちはダメだぞ!』と喝を入れてくれました」

笑いを堪え、渡来先生たちに応える高杉先生。

「去年は高学年の連携に苦労したが、今年は騎馬戦も表現活動も自主練習を中心に進んでいる。5年の意欲も高い。望月先生の努力のお陰だな」

バトンタッチの見本を示す神崎先生。そして子どもたちの真剣な表情…。充実した時間が積み重ねられていることを実感する渡来先生。

「では紅白戦を始めます。準備してください!」

カズの合図が運動場に響きました。運動会本番まであと半月ほど、さらなる努力が続きます。

ポイント2【運動会の練習について】
教師の努力や熱意に反比例し、子どもたちの主体的な活動意欲が低下していく…。運動会前、そんな状態に陥ることは少なくありません。「先生に叱られ、やらされるだけの運動会」を、「子どもたちが主役の運動会」に変えなければ改善しません。そのためには、まず「運動会の意義」を子どもたちに理解させ、「効果的な自主練習」を取り入れることが大切な指導であると考えます。

運動会本番で大波乱発生!!

「子どもたちが大活躍する、いい運動会です!」

保護者からの称賛に、感激する渡来先生。ついに始まった運動会。開会式や応援合戦での子どもたちの堂々とした態度に、大きな拍手が送られます。前向きで主体的な高学年の姿勢が、他学年の演技や競技にも良い影響を及ぼします。

小さな波乱が起きたのはその直後…、鬼塚先生が憮然とした表情で渡来先生に呟きました。

「オヤジが来賓席にいる。校長が相手している。教育大学の大先輩で、研究会の実力者だからな…」

「で、どうするんですか。…鬼塚先生としては」

「主体的に行動するのみ。一人の教師として!」

来賓席を睨み、放送の役割に戻る鬼塚先生。渡来先生も、スポット応援の支援に向かいます。

その時、新たな波乱が勃発。準備係の5年が集合に遅れ、活動が停滞。近くにいた子どもたちと運動場に飛び出し、使用済の玉入れの道具を必死で片付ける神崎先生。しかし次は、跳び箱や平均台、ネット等、準備が大変な障がい物競走です。手伝おうと、走り出す渡来先生。

それより早く、児童席にいた6年たちが動き出しました。運動場に駆けつけて後片付けを手伝うと、跳び箱やマット等を懸命に運びます。遅れてきた5年たちも加わり、準備時間は逆に短縮。そのファインプレーに、大きな拍手が響きました。

感動の紅白対抗リレー!

紅白対抗リレー

午前の最終競技、「紅白対抗リレー」がスタートしました。拍手や声援に包まれ疾走する6年たち。けれど渡来先生たちは、ランニングバトンパスが苦手なヒデを不安そうに見ていました。

…数週間前の、自主練習の時のことでした。

「突っ立ったまま、パスを受けるなんてダメだ」

「でも走りながらパスなんて、絶対に無理だよ」

揉めるヒデたちに、アドバイスする神崎先生。

「リオ五輪の銀メダル、男子四百メートルリレーの勝因はランニングバトンパスの工夫なのよ。つまり勝敗を分けるのはチーム力。失敗しないパスの仕方、これからみんなに伝えます!」
・・・ポイント3

その成果が試されようとしているのです。コースに入り、後方の走者をじっと見つめるヒデ。最終コーナーを過ぎた時、前方に向き直り斜め後ろに顔を向けます。どんどん近づく走者…。突然、チームから「スタート!」という声がかかります。その瞬間、猛然と走り出すヒデ。後方に突き出した右手に、走者がバトンを差し出すと「はいっ!」と大声で合図。ヒデの右手に押し付けるように、バトンが手渡されました。

「やったぁ、成功だ!」

「よく頑張ったなヒデ!」

沸き立つチームに見守られ、懸命に走るヒデ。そして、バトンを左手に持ち変え「はいっ!」と大声で合図。見事にパスが決まり、祝福されます。大喜びする神崎先生は、傍らで感動する渡来先生に興奮した口調で決意を述べました。

「来年、採用試験を受けます。自信はまだ無いけど…、一歩踏み出さなければダメですよね!」

涙腺が緩む渡来先生。まだ勝負がついていないリレーに、全神経を集中することにしました。

ポイント3【ランニングバトンパス】
リオ五輪でのランニングバトンパスの成果は、運動会でも十分活用できます。簡単に述べると、㋐バトンを受け取る側のスタートのタイミング、㋑渡す側の手渡し方、㋒受ける側の受け取り方、そして信頼関係等を指導して練習を積ませることです。㋑では掛け声が有効で、支援学級の児童にはこの様な視点でサポートすると効果的です。


昼休みの廊下に立ち、ボソッと呟く鬼塚先生。

「戻ったよ、オヤジ。遂に諦めた…、というか西華小の素晴らしさが分かったようだ。自分の選んだ道で頑張れと、校長に言っていたそうだ」

敢えて無表情を貫き通す鬼塚先生。高杉先生が弁当の山を抱え、ずんずん近づいてきました。

「主体的に活動するには、腹ごしらえから…。早く食べて、午後の打ち合わせを始めるぞ!」

顔を見合わせる渡来先生と鬼塚先生。

揃って、「はいっ!」「了解!」と大声で返事をしました。

(次回へ続く)

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