経済産業省教育産業室長 浅野大介氏インタビュー「GIGAスクール元年、教師とデジタルの新しい関係」

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コロナ下で急速に進んだ学校のICT化。GIGAスクール元年と言われる2021年度、1人1台端末体制のもとで、教師にどう活かしてもらいたいか? GIGAスクール構想のキーパーソン、経済産業省教育産業室長の浅野大介氏に伺いました。

経済産業省初代教育室長の浅野大介さん

浅野大介(あさの・だいすけ)●2001年経済産業省入省。資源エネルギー・地域経済・国際物流等の政策分野を経て、2017年に大臣官房政策企画委員として商務・サービス関連部局の再編を担当した際に「教育産業室」を立ち上げ、初代教育産業室長に(2018年よりサービス政策課長との兼務)。1人1台端末とEdTechを活用した学習環境を実証する「未来の教室」プロジェクトを発足させ、文部科学省等との協働でGIGAスクール構想を推進してきた。

GIGAスクールで「学びの個別最適化」を実現

――「GIGAスクール」とはどんな構想で、子供たちにどのような力を付けることをめざしているのですか?

浅野 1人1台の端末をすべての子供が持つこと、それから高速大容量の通信ネットワークを整備して、いろいろな情報にアクセスして自分で編集できるようにすることが、GIGAスクール構想の本質です。

ですから、まずはいろいろな情報を自分で調べること。つまり、情報を収集するという作業を、オンラインを通じて自由自在にさせてあげてほしいです。それを自分の手で、文章やプレゼンテーションに落とし込んでいく力を付けること。そして、自分の考えやメッセージを効果的に示して、人から意見をもらうこともです。こうした知識のインプット、知識の編集とアウトプットを効率的かつ効果的に行うために、GIGAスクール環境(1人1台端末、高速通信)をフル活用してもらいたいです。

「未来の教室」実証事業のコンセプト図

GIGAスクール構想の前夜、2018年度から、経済産業省では1人1台端末とさまざまなEdTech(エドテック=教育とテクノロジーの融合)を活用した新しい学び方を模索する「未来の教室」実証事業を、全国の学校とともに進めてきました。ここで大切なのは、子供たちの学びは、「知ること」と「創ること(探究や問題解決型学習)」が循環しているということです。

「知る」というのは、知識を蓄えたり、基本的な概念を理解したりすること。例えば、読み書きができるとか、算数ができるとか、基本的な自然の摂理を理科的な意味で理解することなどです。こういう「知る」作業は、人によって理解のスピードや興味をもつ角度が違います。学びの個別最適化には、必ず当事者が「自己調整」することが必要になるため、GIGAスクール環境が役立ちます。もちろん、先生が一斉授業する場面があってもいいけれど、一人ひとりがそれぞれ端末に向かって学習する。しかもそれぞれ学びのレベルが違ってよい。そんな学びを実現したいんです。

今お話ししてきた「学びの個別最適化」とは、スポーツでいえば、自分に適したやり方で、地道に基礎・基本を繰り返すパーソナルトレーニングにあたります。そこには、「何月何日にジムに行きます」というコーチとの約束と習慣があって、さらに、トレーニングの記録が残っている。「今月はあと5キロ重いバーベルを上げられるようにする、食事のとり方をこう変える」といったように、自分にフィットした目標設定があり、コーチがいるから続けられるんです。無理をしすぎていると思えば、目標を修正すればいい。大切なのは、できないからやめるのではなく、アドバイスを受けて自分で立て直すということ。

この習慣は、学校で身に付けるべき一番大事なことではないかと思います。大人になってどんな仕事をするにしても、必ず必要な習慣ですよね。子供たちにはつまずいても自分で立て直す力が必要であり、そのために伴走してくれるコーチが先生です。

GIGAスクール時代における教師の役割

――では、教師の役割も変わってきますね?

浅野 支えるコーチングの役割が大きくなるのではないでしょうか。子供が自分で計画を立てて進んでいくことに対して、どれだけほめたり助言したりすることができるか。GIGAスクール環境では、一人ひとりの学習過程がすべて自分の端末に記録されます。つまり、自動的にポートフォリオが作成されているといっていい。先生は個々の端末を確認すれば、「この子はこんな努力や発想をしていたんだ」などと分かるわけだから、ほめる機会が増えるでしょうし、より適切な学習のしかたを助言することも可能だと思います。

とはいえ、1人1台の端末を最大限に生かすには、EdTechのイノベーションが不可欠です。「未来の教室」実証事業では、「Qubena」や「navima」(5教科が学習できるウェブアプリ)などを導入した実証実験を行い、それらをニュースレターにして全国の学校にお配りしています。1人1台端末が実現したので、これからはEdTechを提供する事業者と先生や子供たちとのコミュニケーションも活発化していき、製品は改良されてより使いやすくなっていくはずです。

AIドリルQubena(COMPASS社)で算数を学ぶ一年生。
AIドリルQubena(COMPASS社)で算数を学ぶ一年生。

――低学年の子供のデジタル使用について、抵抗感をもつ先生も多いようです。

浅野 むしろ、読み書きそろばんのような反復が大事な学習は、EdTech向きです。間違えた履歴もすべてデータで残りますから。例えば、低学年でいうと、算数セットが要らなくなるはずです。数図ブロックや時計とか、まさにアプリのほうが得意な世界です。

他にも、生活科で植物を育てるときに、端末を使うことによって、インターネットで調べたり、写真を撮ったり、資料を作ったりすることもできますよね。リアルとネットの情報とを行ったり来たりすることで、より質の高い経験主義の学習が可能になるのではないかと期待しています。

低学年で懸念しているのはタイピングの問題です。ローマ字は、三年生の学習事項なので。でも、ひらがなを学習するときに、ローマ字も一緒に覚えたらよいのではないでしょうか。手書きもしっかり学習しなければならないけど、文章を書くスピードは端末を使ったほうが速いし、編集や校正も圧倒的に楽で、書字障害の子にも優しい。低学年のうちからたくさん文章を書く練習をしてほしいので、ローマ字入力は必須だと思います。

GIGAスクール時代に付けるべき力

経済産業省初代教育産業室長の浅野大介さん

――コロナ禍においては、ICTの重要度が増しますよね。

浅野 今後の感染状況によって、再び、休校や分散登校をすべき場面もあるかもしれませんが、危機対応も学びになります。大人もテレワークの比率を高めたり、時差出勤をしたり、さまざまな工夫をしています。GIGAスクール環境があるのだから、感染の状況に応じながら、登校する子供とオンライン学習する子供との比率を変えるなどの柔軟なオペレーションを、子供たちと一緒に考えてはどうでしょうか。すべてを先生がしつらえて、子供を従わせるのではなく、この緊急事態をどのようにして乗り越えるかを、子供たち自らが論理的に考える素晴らしいチャンスではないでしょうか。

低学年はある程度の日数を登校して、対面で交流しなければ、学級として機能しづらいことは昨年度経験済みです。ですから、低学年はできるだけ登校できるようにして、学年が上がるにつれてオンライン学習を増やすことも考えられます。もちろん、低学年の子供だけではこんな考えは出てこないでしょうから、上級生と交流しながら、全校集会で考えるとか、やり方はいろいろあると思います。ピンチは学びの宝庫です。

――「未来の教室」実証事業で、低学年担任の参考になるものがあれば教えてください。

浅野 学びの個別最適化と並ぶ、この実証事業のもう一つの目的は、「学びのSTEAM化」(学際融合の探究学習)です。学びのSTEAM化の一環として、2019年より始めた「ルールメイキング・プロジェクト」が、成果を上げています。校則を含む学習環境を、外部の大人の知恵も借りながら、子供たち自らがデザインするものです。例えば、ブラック校則について、この校則のどの部分がどのようにブラックなのかを議論し、それを明らかにすることでルールを変えた学校もあります。

現状、中学・高校を中心に行われていますが、小学校でも同じようなことはできると思います。不登校の子がいるなら、なんでこの子は教室に入れないんだろう、なんで教室にいると気分が悪くなってしまうんだろうとか、クラスの決まり事、教室のしつらえなどを科学的に考えてみる。それを言葉にして、学校で話し合い、自分たちの学習環境を自分たちでつくる。こうした身の回りの課題を解決する学習も「学びのSTEAM化」です。

それをなぜ経済産業省の事業で行っているかというと、日本社会や産業界の抱える課題の多くが、「自分が所属する組織の環境やルールを自分でつくり直せない」ことに起因しているからです。そうして企業も行政もよい答えが出せなくなって、閉塞感を生んでいるのが今の社会の現状なので、「子供のときから自分たちの環境を自分たちで改善する」という癖を付けてほしいのです。

つまり、「学びのSTEAM化」と、先に挙げた「学びの個別最適化」が、日本中の学校で当たり前になることをめざしています。新学習指導要領も同じことをめざしているので、文部科学省と一緒に取り組んでいます。

取材・文/長 昌之 撮影/西村智晴

『教育技術 小一小二』2021年8/9月号より

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