【小1小2国語】「スイミー」の教材研究ノート

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「教材研究って、どう進めればいいの?」「子供たちに、授業で取り上げる教材のおもしろさを上手に伝えられない」と悩んでいる先生もいるのではないでしょうか。今回は、「一つの教材につき一冊のノートを準備して、教材のおもしろさをまとめている」という、筑波大学附属小学校の国語科教諭・白坂洋一先生の教材研究ノートを紹介します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

しらさかよういち 鹿児島県出身。鹿児島県公立小学校教諭を経て、現職。学校図書国語教科書編集委員。『例解学習漢字辞典[第九版]』(小学館)編集委員。著書に『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館)『子どもの思考が動き出す 国語授業4つの発問 』(東洋館出版)など多数。

「教材研究ノート」をつくる際の3つのポイント

私は、一つの教材につき一冊のノートを準備して、教材のおもしろさをまとめています。教材ごとにノートを準備することで、さっと確認することができるからです。また、手書きでまとめることによって、発問や授業への気付きを、思い付いた時点ですぐに書き込むこともできるので、とても便利です。

ノートは、見開き単位で使うことによって、全体を一目で見渡すことができます。学びを組織するという観点から、発問や授業展開を考える際には、全体を一目で見渡せるノートが適しています。教材分析が整理され、授業へのアイデアもまとまりやすくなります。

・教材ごとにノートを用意する……表紙を見ればすぐに教材名が分かるので、さっと内容を確認できる
・手書きでまとめる……発問や授業への気付きを、思い付いた時点ですぐに書き込める
・テーマごとに見開きで使用する……教材分析が整理され、授業へのアイデアもまとまりやすくなる


ノートは、子供たちも使っている「5ミリ方眼ノート」を使用しています。【国語・学年別ノート指導】の際にも取り上げましたが、マス目が多い方眼ノートの場合、叙述の取り出し、比較や分類、図式化などの思考活動をノートに表現することが、より容易になります。

5ミリ方眼ノート

白坂先生が愛用している5ミリ方眼ノート(B5)。表紙には、教材名を書き込む。「1冊のノートでは収まりきらないこともあります。その際は、ノートとノートの背の部分をテープで張り合わせ、合冊して使用しています」(白坂先生)

物語「スイミー」の教材研究ノート

ノートに教材研究をまとめる際は、以下の3つを柱にします。

・教材の特性をとらえるための教材分析
・授業を具体化するための単元計画
・発問案と板書計画

さらには、私自身のふり返りとして、
実際に授業した感想や修正点を書き込む

では、物語「スイミー」の教材研究ノートを取り上げながら、「教材分析」から「授業構想」までの流れを紹介します。

「スイミー」は、1年生および2年生の教科書全社に掲載されている物語です。

小さな魚のきょうだいたちと楽しく暮らしていたスイミーが、まぐろにきょうだいを飲み込まれ、ひとりぼっちになるものの、新しい仲間と一緒に大きな魚のふりをしてまぐろを追い出すという物語です。中心人物の様子を軸に時系列で描かれていて、古典劇のもつサスペンスと解決の要素を併せ持ったストーリーです。
また、豊かな主題性を持ち合わせており、原作者のもつ豊かな感性と美的感覚、そして訳者のもつ鋭い語感詩情とが相まって、子供の心をとらえて離さない物語世界をつくり出しているといえます。

教材分析

教材分析は、先行研究や先行実践の洗い出しも含め、かなりの時間をかけて行っています。ここで、教材分析がしっかりと固められることによって、授業構想段階で単元の方向性が見出せるからです。

ノートには、以下に示すを主な観点として、見開きでまとめていきます。このページに至るまでには、先行研究や先行実践からの学びや気付きをメモとして書き込んでいます。

教材分析ノート(スイミー)
は、どのような読みを中心軸として展開するかを明確にするためにまとめた箇所です

①物語「スイミー」の全体像~人物関係図~
物語の全体像をとらえるため、人物関係図にまとめています。人物関係を整理することによって、中心人物の変容点(クライマックス)や伏線、願いやこだわりを明らかにしていきます。さらには、クライマックスである「ぼくが目になろう」に焦点化する発問を案として書き出しています。ここでの主な目的は、全体像をとらえることです。今回は人物関係図で示していますが、例えば、あらすじをまとめるなど、別な方法を取ることもあります。

②教材の特性
授業を構想する際、重要視しているのが、教材の特性です。教材分析を踏まえた上で、どのような特性があるかを列挙していきます。
ここでは、以下の3つを取り上げて構想することに決めています。

・シンプルなストーリー  
・対比  
・豊かな表現技法 

物語「スイミー」には、①人物関係の対比 ②場面の対比 ③中心人物の心情・状況の対比 があります。 主題性を読み解くうえで、有効な教科内容です。
また、豊かな表現技法も見落とせません。例えば、比喩表現は作品世界のイメージに深くかかわっており、読者は場面における情景や人物の様子を生き生きと具体的に想像することができます。
さらに、常体で書かれた本文は、一文が短く、リズム感があるためにスイミーの人物像が強調されます。このリズムとテンポによって、読み手を作品世界へ誘いこんでいく効果があるといえるでしょう。展開部は描写でなく叙事によって表現され、まさに、詩的表現となっています。

③教材のもつ主題性
先行研究から、教材のもつ 主題性をまとめています。教材分析と重ねながら、関連があるのはどこかを明確にしています。
今回取り上げている物語「スイミー」は、1977年から教科書に掲載され、これまでにも数多くの実践がされてきました。そして理論研究もなされてきました。これまでの先行研究から、主題性を中心とした実践が少ないことが分かりました。新たな提案として、この主題性を中心にした授業実践にすることを、ここでは決めています。

④子供の目から見た教材
子供の学ぶ筋を明確にしながら、授業をつくるため、子供の目から見た教材「観」を記しています。子供たちが物語を読んだとき、どんな読後感を抱くか、どこに着目するかを記しています。教材を子供の目でとらえ直すことを意識することで、この物語を読んだとき、子供たちは「どう答えるかな」「どんなことに目を向けるだろう」と思いを巡らせます 。
物語「スイミー」を子供たちの目から見れば、中心人物であるスイミーの勇気と知恵、そしてリーダーシップに憧れを抱くことでしょう。また、ストーリーから、みんなで力を合わせることの大切さや悲しい体験を乗り越えて成長するすばらしさなどを感想として抱くと思われます 。

⑤主たるねらい~単元の中心軸を決める~
を踏まえたうえで、どのような読みを中心軸として展開するかを決めています。ここが学びを組織する段階です。
本単元では、スイミーの言動に着目するとともに、場面と場面の比較から中心人物の変化、変容の因果関係をとらえる読みを展開していくことにしています。
また、子供たちが、 読み方を経験し、身体を通して学べるよう、ペープサート劇を言語活動として位置付けました。

単元のねらい・単元計画

次に、教材分析をもとにして、「単元のねらい」「単元計画」を、以下のように設定しました。

単元のねらい
・ひとまとまりの語や文として音読することができる
・中心人物「スイミー」の変容を言動への着目、場面の比較を通して捉えることができる
・スイミーの動きや会話文を工夫しながらペープサート劇をつくろうとする

単元計画(全8時間)
第一次
音読に合わせてスイミーを動かしたり、出来事や人物の位置を確かめたりしながらペープサート劇をする。(3時間)

第二次
登場人物の言動や場面の比較をしながら中心人物の変容や場面の様子をとらえ、ペープサート劇で表現する。(5時間)

次に、本単元の5時間目にあたる授業を取り上げ、授業構想を紹介します。本時5/8のねらいを次のように設定しました。
(1)ねらい(5/8)
伝えたいスイミー像をペープサート劇で表現することを通して、中心人物の変容を表す会話文に着目し、「ぼくが目になろう」を意味付けることができる。

板書計画・授業展開

本時の板書計画は、次に示す通りです。

板書計画(スイミー)
「板書計画では、大まかなレイアウトとともに、 子供たちの発言のシミュレーション、授業でのポイントを書き込んでいます」(白坂先生)

本時の授業展開を、次のように構想しています(〇は発問案)。

①物語で伝えたいスイミー像を話し合う
〇ペープサート劇で、どんなスイミーを表現したいですか?
本単元における中心的な言語活動としてペープサート劇を設定しています。ここでは、各場面のスイミー像をもとに、一番表現したいスイミー像について話し合 います。

②スイミー像を表現する上で ポイントとなる会話文について話し合う
〇表現したいスイミーが一番表れているのは、どのセリフだろう?
スイミーの会話文に着目し、どのように読みたいか、読み方を検討することを通して、中心活動へ誘うようにしています。

③ペープサート劇について話し合う
劇化は物語の空所部分を埋め、細部を読みこむためのしかけとして機能します。スイミーの会話文をどう読むか、ペープサート劇で表し、中心人物の変容に対する見方・考え方のずれが生じたところで、焦点化発問を投げかけます。

〇スイミーは、怖くなかったのだろうか?
この発問によって、会話文の読み比べによって中心人物の変容点「ぼくが目になろう」を意味付けることをねらっています。

④会話文に着目して、人物の変容を読むよさを話し合う
〇心に残った友だちの発表はありましたか?
ふり返りの観点は、「心に残った友達の発表」です。これにより、子供の学びの筋がどのように形成されていったのかが明らかになるとともに、中心人物の変容に対する見方・考え方を明示化することができるからです。

教師自身のふり返り

本時の授業を通して、教師自身のふり返りを、次のようにまとめています。

ふり返りを書く際は、

①本時の授業をふり返って評価できる点
②本時の授業 における課題と別案
③次時へ向けた自分の考えを書く

ようにしてい ます。

子供たちのふり返りからも、授業では、ペープサート劇による確かめや交流によって「ぼくが目になろう」に焦点化し、学びの方向性を定めることができた点は評価できる。
しかし、子供の学ぶ筋を大切にしなければという意識が働き、子供の学びをつないでいくことはできていたものの、特段の手立てを打つことができなかった点は否めない。
本時の後半部分、子供の意識が5場面のセリフに集中してきたところで「小さい赤い魚のきょうだいたちって、これ言われてびっくりしなかったかな」という発問が功を奏し、子供の学びが深まっていった。

別案として、授業の導入で、スイミーのセリフが5つあることを確認し、「スイミーのセリフの中で、『ぼくは目になろう』はどれぐらい大事か」と課題を焦点化するという展開もあっただろう。それによって、「ぼくが目になろう」というセリフの意味付けに時間を割くことができただろう。
しかし、「スイミーは怖くなかったか」という発問は 、この課題であった場合は機能しなかったと思われる。

教師が「授業」という時間と空間を子供たちと共有しながら、メッセージとして本当に伝えなければならないこと。それは、学び続けることの楽しさであると、私は考えています。
子供たちに、学び続けることの楽しさを十分に伝えるためにも、私は、教材研究ノートづくりを大切にしています。

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