LD(学習障害)を正しく理解してケアできていますか?【専門家が解説】
読み書きが苦手など、特定の分野が苦手な子はいませんか? その子は、LD(学習障害)の傾向があるのかもしれません。LDは問題行動が少なく、見逃されがちな発達障害です。LDの子が発するSOSをキャッチし、支援しましょう。
麻生崇子さん・・・武蔵野市立井之頭小学校主任教諭。気になる子が複数いるクラスを任され、「何とかしてしまう先生」として有名。若い先生からの相談をよく受ける。
井上 馨さん・・・特別支援教育士スーパーバイザー。武蔵野市立井之頭小学校主任教諭武蔵野市内4校の特別支援教室(通級)を巡回指導中。個別ケースにフィットした具体的なアドバイスに定評がある。
高山恵子さん・・・ NPO法人えじそんくらぶ代表。『特性とともに幸せに生きる』(岩崎学術出版)など著書多数。診断名にこだわらず、その子の特性を理解し、一緒にうまくいく方法を考える指導を実践・提唱中。
目次
LDは「認知」のどこかに不具合がある状態
LDの基本的な特性は、知能全般に問題がなくても、6つの能力(聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する)の1つ以上に課題がある状態のことです。
最初にお伝えしたいのは、こうした特性は、脳の機能である「認知」のどこかに不具合が生じている状態であるということ。つまり脳のシステムの問題なので、本人としてもいかんともしがたいのです。ここを理解しないで接してしまうと、「やる気がない」とか、「努力が足りない」と感じてしまうこともあります。
「学習スタイル」を大切にする、という考え方
では、どうしたらよいのでしょうか? まずは学習スタイルに着目してほしいと思っています。人には利き腕があるように、優位に働く感覚があります。それは、大きく分けると、「視覚型」「聴覚型」「体得型」の3つです。
たとえば、英語でappleのスペルを覚える際、書いて覚えることが一般的ですが、「エー・ピー・ピー・エル・イー」と音で覚える方が定着する子もいます。
教師が一番効率的だと思っている「今までの指導方法」が、すべての子にとって効率的であるとは限らないのです。
最近は、上手に教えられないと、「自分はダメな教師だ」と思ってしまう方も多いようです。けれども、それは、教師が悪いわけではなく、子供が悪いわけでもなく、「指示の出し方」や「学習方法」といったやり方にミスマッチが起こっているだけです。
そんな時、「人には優位感覚があり、学習スタイルにも個人差がある」という視点があると、「この指示で、伝わる?」「この学習方法で大丈夫?」と、思考を深めていく一助となります。
高山先生が作成に協力したiPhoneアプリ「えでゅけルン」で、ご自身の優位感覚をチェックし、「学習スタイル」という概念に親しんでみませんか?
*「えでゅけルン」は、iPhone でApp storeよりダウンロード可能(Androidは未対応)。
説明がまったく伝わらない子
何で、説明が伝わらないの?
あんなに一生懸命指導案を練ったのに、何でここまで伝わらないの。私の指導案の作り方、おかしい?
●綿密な指導案では対応できないことも
トンチンカンなことが起こる。それは、指導案作成とは別の話です。「そういうことがある」前提を持っておくと、気が楽です。
手順を書き出してもダメだった…。
「手順を書いておくとよい」と習ったから書いたのに、それでもダメだった。どうしたらよいのかしら?
●「口頭だけ」と「書き出し」AくんとBくん、どう違う?
「口頭だけの指示」と、「書面がある指示」、そこでインプットに違いが出てくる子もいます。それを観察できるようになるとよいですね。
【特性】最初にチェックすべきは、情報インプットの状態
LD傾向があるかも? と感じたら、最初に着目していただきたいのは、情報のインプット状態です。
「理科の実験、驚くことがよく起こります。それを前提として、説明をする際に、やるべきことを別紙に書き出しておくなど視覚指示も併用します。説明では伝わらなかったAくんは視覚指示だと伝わるのであれば、Aくんの課題は『聞く』ことだと理解できます」(麻生先生)
【支援策】情報は小分けに伝える
「情報は、できるだけ小分けにして伝えるという意識を持っておくとよいでしょう。例えば、①と②の説明をした後に作業し、作業後、③と④の説明をするイメージです。聞けない原因が、情緒不安などLDでない場合もあります。『聞きなさい』ではなく、『なぜ、聞けないのか?』という問いを、ご自身に返してみてください」(井上先生)
学習を諦めてしまっている子
それはいいからこっちに興味を持って
好きなことは、あんなにイキイキ話すのに、どうして授業になるとそこまでスイッチを落としちゃうの?
●彼の世界を感じてみる。そこがスタートです
LD傾向があると、情報のインプットが想像以上に難しい場合があります。そんな「彼の生きている世界」を、イメージしてみてください。
開き直る子、どうしたらいいの?
「勉強が嫌い」と、最初から諦めてしまっている子にどうアプローチしたらいいかが、わからない!
●それこそが彼らのSOSです
LD傾向があるのに適切な支援を受けられず高学年を迎えた場合、この状態はよくあります。「もしかして、LD傾向?」という視点でのチェックも必要です。
【特性】LDの困り感の中核は、情報のインプット
「聞く、読むということに課題のある子にとって、『わかる情報』というのは、一般的な感覚とはまったく異なります。その世界観をイメージすることで、LD傾向のある子の気持ち、つまりは自分が『わかる情報』については集中しますが、そうでないとスイッチが極端にオフになってしまうという気持ちに寄り添うキッカケがつくれるのではないでしょうか?」(井上先生)
【支援策】興味がもてるものを考える
「LD傾向がある子に、『授業は、きちんと聞くものです』と何度言い聞かせても、あまり意味はないことだという実感があります。それよりも、私だったら、『何だったら、この子は興味がもてるかな?』ということを考えます。なぜなら、それが、その子の情報インプットの突破口になったいう経験があるからです」(麻生先生)
気配を消している子
気配を消している子、どうしたらいい?
授業中、まったく気配を消しているあの子。どうしたら教室に引き戻してくることができるのかしら?
●静かなSOSをキャッチしてあげて!
「授業がわからないから、気配を消している」。そんな彼らの生きづらさ。それをキャッチすることから、始めてみてください。
何をどう教えてもまったく定着しない…
個別で呼び出しをして教えて、本人も「わかった」と言ったのに、また0点。本当に、どうしてよいかわからない。
●専門家に繋ぐことも選択肢のひとつ
「全部のことを自分でフォローしなければ!」と思わずに、特別支援の先生など専門家と連携するのも選択肢のひとつです。
【特性】【支援策】「学び」を、いかにその子の世界観へ合わせるか
「数字が苦手で、算数にまったく興味を示さなかった子がいました。ある時、その子が電車が好きだったので、密度を『電車の込み具合』に置き換えて伝えてみたところ、インプットが上手くいったんです。そこを突破口にして、その子は自ら算数に興味を持ち出しました」(麻生先生)
「私は巡回支援をしている中で、常に『学びを、いかにその子の世界観へ合わせられるかが勝負』と、お伝えしています。授業とは、教科書を使って話をすることだということを一旦、置いておいて、『これは、どうしたら、その子がわかる言葉、話になるのだろう?』と、考えてみてほしいと願っています」(井上先生)
「高学年の学級担任でフォローできる範囲を超えている場合も。そこを判断し、特別支援の先生に繋げるというのも担任の仕事だと私は思います」(麻生先生)
取材・文/楢戸ひかる
『教育技術 小五小六』2019年6月号より