関係を円滑にする「ソーシャルスキル・トレーニング」のコツ
中学年は、「みんなと仲よくできると思ったのに難しい・・・」など、子ども自身の心も人間関係も深まっていく時期。ソーシャルスキル・トレーニングを通して、人間関係がスムーズになるコツと、なぜそうしたコツが必要なのかを子どもたちに教えましょう。
アドバイスしてくださるのは・・・
渡辺弥生先生
法政大学文学部心理学科教授。同大学院ライフスキル教育研究所所長。教育学博士。専門は、発達心理学、学校心理学。『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング』(明治図書)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学』(光文社)、『感情の正体 発達心理学で気持ちをマネジメントする』(筑摩書房)、『イラスト版子どもの感情力をアップする本: 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)など著書多数。
目次
ソーシャルスキル・トレーニング基本のQ&A
Q.ソーシャルスキルとは何?
A.円滑な対人関係を築き、維持するための技術やコツ
現代社会で求められるソーシャルスキルとは、「他人と上手に関わるための技術やコツ」です。基本的なフォーム(形)やスキルアップの練習は、円滑な対人関係を築く土台となります。
Q.なぜトレーニングが必要?
A.少子化やライフスタイルの変化で他人と関わる力が育ちにくいから
かつて、「遊び」は人生に必要なソーシャル・スキルを学ぶ最高の場であり時間でした。ところが今は、自由に遊ぶ絶対量が減り、友達を思いやる、がまんする、へこんでも立ち上がる・・・など、人間関係を築くためのスキルを学ぶ機会が減っています。そこで、トレーニングを通して、具体的な行動のしかたや言葉のやりとりを教える必要があるのです。
Q.効果的な教え方は?
A.段階を追って何度も教える
基本の5ステップに従って、繰り返し教えて少しずつ浸透させます。
基本5ステップ
【ステップ1】インストラクション
スキルがどんな場面で役に立つのか、もし不足していたらどんな問題を引き起こすのか、分かりやすく説明して、学ぶ意欲をもたせます。
【ステップ2】モデリング
先生がお手本を示し、細かい行動や具体的な言葉をイメージで理解できるように促します。
【ステップ3】リハーサル
ロールプレイ、グループディスカッション、ワークシートなどでの体験を通して、スキルの意義や必要性、行動とのつながりを繰り返し学びます。
【ステップ4】フィードバック
「声が大きいところが素晴らしいね」など、子どもたちに具体的なアドバイスをします。
【ステップ5】チャレンジ
授業でできたことを生活に応用できるように支援します。「家庭でもやってみよう」と発展させるとよいでしょう。
アレンジOK! シーン別「ソーシャルスキル・トレーニング」実践例
【シーン1】教室がザワザワして、発言者の話を聴いていないとき
高めたいスキルは・・・「聴くスキル」
インストラクション
聴くこととは、言語だけでなく、しぐさや声、表情など非言語のやりとりも含まれていることを説明する。
モデリング
聴き方のよい例と悪い例を映像や寸劇を通して見比べ、何が大切か考えさせる。意見を交えながら、次の四つのポイントを説明する。
・相手に体を向ける
・視線(アイコンタクト)
・あいづちやうなづき
・最後まで話を聴く
リハーサル&フィードバック
上記四つのポイントを意識して、ペアワークで練習し、感想を書いたり、お互いに相手の「聴くスキル」を評価する。
チャレンジ
日常のどの場面でも練習の場となることを伝える。
★渡辺先生のワンポイントアドバイス★
聴くスキルは、人と人の信頼関係を形成する際の最も重要なスキルの一つです。話を聴いてもらえることは、自分の存在価値や自己肯定感を高めます。
【シーン2】遊びの約束がうまくいかず、遊べなかった次の日、ケンカになりそうなとき
高めたいスキルは・・・「自分感情に対処するスキル」
インストラクション
「どんなときにイライラするか」「そのときどんな気持ちになるか」子どもに問いかけて、それぞれ思い出させる。劣等感が強まったり、友達を失ったりすることに気付かせる。
モデリング
状況を設定し、イライラしたときのよい対応と悪い対応を見比べ、どう思うか考えさせる。ケンカになりそうなとき、次のステップで気持ちを落ち着かせる説明をする。
1自分の気持ち(怒り)に気付く
2自分の怒りに対処する
3気持ちを確認してから次に行動する
また、怒りに気付いたとき、落ち着くにはどうすればよいか意見を出させる。
リハーサル&フィードバック
感情に対処する三つのステップを確認し、どのように自分の気持ちを伝えるか考えさせる。
チャレンジ
日常の中でも取り込めるように、声かけをする。
★渡辺先生のワンポイントアドバイス★
感情の温度計など、気持ちを「見える化」して、できるだけ具体的なイメージをもたせ、一時的な感情の高まりに対する自分なりの対処のしかたを身に付けさせましょう。
【シーン3】友達から遊びに誘われたけど、断りたいとき
高めたいスキルは・・・「上手に断るスキル」
インストラクション
放課後、遊びに誘われたけど、別の用事があるので断りたいとき、どのように断れば相手を傷つけることなく、上手に断ることができるか考えさせる。
モデリング
いくつか断り方を見せ、どこがよいか、どこが悪いかを考えさせる。
上手な断り方のポイントを教える。
・相手の目を見て伝える
・断ることをはっきりと伝える
・「ごめんね」という謝罪を伝える
・理由を説明する
・代案が立てられたら伝えてみる
リハーサル&フィードバック
ペアワークで上手な断り方を何度も演じてみて、お互いで考えを出し合う。
チャレンジ
「これから1週間、『上手な断り方』をやってみましょう」と促す。
★渡辺先生のワンポイントアドバイス★
上手な断り方を知ることで、相手の気持ちも自分の気持ちも、どちらも大切にできることを学ばせましょう。
中学年は、友達との関係が深まる一方で、自分ってなんだろうと考える時間も増えていきます。うまくいかないことを性格のせいにしてしまうと劣等感が強まり、解決のしかたが分からなくなります。そうではなく、スキルがまだ不足しているんだと冷静に受け止め、自分がどう行動し、どう話したら、周りの人とよい関係を築けるのかを立ち止まって考えさせます。具体的なお手本を示し、繰り返し行うことの大切さに気付かせましょう。
参考:渡辺弥生・藤枝静暁・飯田順子編著『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング』(明治図書)
構成・文/ひだいますみ
『教育技術 小三小四』2019年6月号より