総合的な学習で「最高の掃除」を探究し、下学年に伝えよう!【6年3組学級経営物語8】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、3年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「清掃指導でつなぐ異学年交流」にトライします。

汚部屋と化していた2年3組の教室。6年が清掃方法を調べ、それを2年に教える活動で、単なる「低学年のお世話」にとどまらない縦割り活動を実現させます。

清掃の意義や具体的な方法を最高学年の学びとして調べ、他の学年に伝えることで、互いの学びを深めよう! さあ、縦割り活動で実現する「響き合う学び」にレッツ トライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

7月②「響き合う学び」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職3年目の6年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。今年度は、新採のメンターも務める。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
6年1組担任で、学年主任2年目、教職11年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。一児の母、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活5年目の6年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられた昨年度、しずか先生率いるチームに育てられ、渡来先生とぶつかりながらも今や切磋琢磨しあう良き仲間に。


神崎のぞみ先生

神崎先生(神崎のぞみ/かんざきのぞみ)
高学年の音楽・家庭科の専科講師。インクルーシブ教育にも携わる。大学4年生のときに交通事故で片足をなくし、入退院で休学、留年(渡来先生と同じ年齢)。一度諦めかけた教師の夢へと一歩を踏み出し、西華小の常勤講師に就く。大学時代は陸上選手として活躍し、体力には自信あり。


葵ゆめ先生

ゆめ先生(葵ゆめ/あおいゆめ)
教職5年目。2年担任。2年後輩のトライ先生を励ましつつも一歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。


最上英雄先生

チャラセン(最上英雄/もがみひでお)
新採教員で、2年を担任。教育実習のときに付いたあだ名は「チャラセン」。”チャラい”言葉を使うイマドキな新任教師。クラスでは、ふだんは子どもたちから「ヒーロー」と呼ばれることも。

叱られたトライだ先生

眼前の高杉静先生と鬼塚学先生に、神妙に頭を下げる渡来先生。放課後の6年1組、ずっと黙っていた高杉先生が低い声で話を始めました。

「創意工夫は立派だ。…だが独断専行は承服できん」

さらに身を縮める渡来先生に、話を続けます。

「総合的な学習の時間で『最高の掃除』を作成、…か。だが総合は、実施計画に基づき学年全体で取り組んできた。何故、事前の相談がなかったのか」

突っ走ってしまった自分の過ちやこれまでの経緯、そして思い…。眉間に深い皺が寄る高杉先生に、渡来先生は心をこめ説明を続けました。

「…という次第です。本当にすみませんでした」

謝り続ける渡来先生に、鬼塚先生が呟きます。

「勝手なことをするなと、オレが言えば笑われるよな。それになかなか斬新だな、このアイデアは…」

高杉先生をチラチラ見ながら、話を続けます。

「普通、縦割りは低学年のお世話が中心。だがこの題材では、掃除の基礎基本の内容や伝え方を探究する。オレは、6年に相応しいと思うぞ」

小さく頷くと、高杉先生もニヤリとしました。

「学校清掃のあり方、具体的方法の伝達は我が国の教育のよさ。…6年として価値ある活動だ。”報連相”は不十分だったが、鬼塚先生に免じて認めよう。大至急、学年の計画として練り直せ!」 ・・・ポイント1

「最高の計画を立てます。チーム6年として!」

奮い立つ渡来先生。『最高の掃除』が個人的な実践から、学年全体の取り組みになったのです。

ポイント1 【 ”報連相”で大切なこと 】
我々は、新任の頃から報連相(報告、連絡、相談)の大切さを教わってきました。けれど、いつも学年と全く同じ活動をするのは難しい場合があります。とくに学級活動⑴や総合的な学習では、独自に活動したい場合もあります。そんな時、適切に学年や学校に”報連相”を行って実現を目指す姿勢が教師には必要です。ボトムアップの大切さや、指導計画等の弾力的実施の余地を提案していくことも”報連相”だと思います。

みんなで調べよう、掃除の仕方!

「雑巾から出る水の量は、絞り方で変わります」

2つのビーカーを示し、説明するマユミ。見せ方の工夫に感心したヒロが、思わず呟きます。

「これは分かり易いな。低学年に見せようよ!」

「俺たちも、掃除道具の使い方を調べたんだ…」

次は、箒と塵取りを使い説明するタカとサトシ。様々なアイデアが飛び交う総合的な学習の時間。意欲的な子どもたちの姿を、嬉しそうに見つめる渡来先生。小声で話しかける神崎先生。

「サトシくんは、自分で検索した『小学校清掃指導マニュアル』を熱心に読んでいました。自分で調べるのは、学習意欲を確かに高めますね」・・・ポイント2 

消極的だったサトシ。行動的なタカとの活動体験が、学ぶ姿勢を変化させているようです。

「…自在箒は両手を肩幅に広げ、背筋を伸ばし少し前屈みで使う。履き方は、体と水平に…」

演じながら説明するサトシに、目を細める神崎先生。上機嫌の渡来先生が、小声で呟きます。

「大臣に任命しましょう。…内閣そうじ大臣に」

古臭いギャグに、軽い眩暈を覚える神崎先生。

ポイント2 【検索資料の扱い】
調べ学習では、図書館の資料やネット検索等から多種多様な情報を獲得していきます。その際、情報の信頼性や妥当性等についてキチンと指導することが大切です。さらに獲得した情報を自分なりに読み込み、自身のフィルターを通して発信するために必要な能力を育てる必要もあります。資料の棒読みやコピペを放任せず、自分の言葉で発表できるよう根気強く指導を続けていきましょう。

さあ、『最高の掃除』にトライだ!

「最初に掃除の効果を見せると、分かり易いよ」

資料を見ながら、ケンタが皆に提案します。

放課後の2組教室。各学級で調べた掃除の仕方を代表者が持ち寄り、映像資料にまとめるための話合いです。シナリオを作って、それを基に各学級で撮影箇所を分担し実施するのです。意欲満々の鬼塚総監督が、指示を出します。

「ケンタの言う通り、分かり易いシナリオを作ろう。まず学級ごとに、映像化したい内容を短冊に書いてくれ。何枚書いてもいいぞ。次に模造紙に並べ、全体的なまとまりや順番を見直そう。そして、7~8分程度の映像に編集しよう」

元気よく返事し、活動を始める子どもたち。大きな模造紙が、瞬く間に短冊で埋まりました。じっと眺めていたカオリが、皆に提案をします。

「似た内容が多いけど、まとめればどうですか。そうすれば、順番をつけるのが簡単になるわ」

KJ法的な提案に、感心する鬼塚先生。・・・ポイント3

グルーピング後は、内容を取捨選択し規定時間内に収める作業。放課後の努力が毎日続けられます。そして三日後、ついにシナリオは完成しました。

ポイント3【意見や考えのまとめ方】
アイデアや意見を効果的に整理して、まとめることはなかなか難しい作業です。そしてその指導が、子どもたちには重要な学びとなります。必要に応じてKJ法等の情報整理の手法を教えると共に、意見や考えを論理的に築いていく経験を積ませましょう。また、国語等の既習事項を想起させたり、効果的な話し方を教師が手本として示したりすることも大切です。

目指せ、掃除名人!

「では、『目指せ、掃除名人!』を始めましょう」

充血した目を精一杯見開く最上先生。やや眠たげな声が、2年3組に響きます。よりよい掃除の実現を目指す学級活動⑵の話合い。子どもたちに適切な意思決定を図らせようと、渡来先生と徹夜で考えた活動を開始します

「前に、掃除についてアンケートをとりました。ここにまとめましたが、何か気づいたことは?」

最上先生の質問と同時に、手が挙がります。

「掃除が好きな人が、いっぱいいる」

「掃除を一生懸命している人も多いよ」

「僕も頑張っているよ」

掲示したドット図を見て、答える子どもたち。

「でも、今の3組の教室はキレイと思いますか」

質問する最上先生。後方で参観する鬼塚先生が傍らの渡来先生に皮肉な眼差しを向けました。

しかし、その問いに活発に反応する子どもたち。

「床がザラザラだ」

「まだゴミが残っているよ」

意見を聞いた後で、話を切り出す最上先生。

「6年生が『最高の掃除』というビデオを作ってくれました。これからみんなで見ましょう」

画面に現れたカオリたちが、掃除の意義を説明。続いて、箒や塵取りの実演が始まります。

「…この様に箒や塵取りを使えば、こんなにゴミが取れます。次は、雑巾の使い方の説明です」

「そうか、こうすればいいのか」「よく分かるね」

2年生の好反応に、ニンマリするチーム6年。

「効果抜群だ。この後の意思決定が楽しみです」

「これは華麗な撮影テクの成果だな。…オレの」

ビデオが終わり、最上先生の話が再開します。

「ビデオを参考に、自分の掃除の仕方を見直してみましょう。まず、グループで話し合います」

始まった意欲的な話合いに、6年の思いが伝わったことを渡来先生は強く感じていました。近寄ってきた葵先生が、2人に頭を下げます。

「凄いわ、子どもたちの意欲…。本当にありがとう。でも、この機会を生かすのが主任の私の仕事よね!」

「教室は、自分たちできれいにする。事後の指導も頑張りましょうね。…とくに最上先生への」

そう言い、渡来先生はニッコリ微笑みました。

(次回へ続く)

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